現在、米子に向かう機上におります。今朝は早暁明けきらぬ時に家を出て、那覇でクラスターシンポを取材、羽田経由で米子に向かっております。那覇は春、米子は厳冬であります。風の具合で米子便は羽田を発ち東京ディズニーランドを旋回して西に向かいました。東京は宝石の煌めき、色とりどりに瞬いています。夜間飛行が好きなのは、人間が住んでいることの美しさを感じることが、できるためです。東日本大震災の被災地では人口の流出が続いています。産業を起こし、雇用を生み、再び人間の人生が煌めく町や村を取り戻さなくてはなりません。若年層の失業問題が慢性化している那覇でも、次世代シーケンスとメタボローム、そして天然物資源を組み合わせた野心的なクラスター事業が展開されています。とても面白い、そして創薬にインパクトのある成果が、産業技術総合研究所、沖縄科学技術大学院大学、トロピカルテクノセンター、沖縄科学技術振興センター、琉球大学、そしてオーピーバイオ、ハプロファーマなどの共同研究で実現し始めています。今まで沖縄にある研究機関は必ずしも協業が得意ではありませんでしたが、次世代シーケンサーが横糸となり、共同研究という織物を紡いでいます。バイオの基盤技術である次世代シーケンサーの面目躍如です。詳細は日経バイオテクONLINEで報告いたしますので、どうぞご注目願います。

 さてバイオです。

 C型肝炎が治る時代に、我が国も突入しました。2011年11月28日、田辺三菱製薬はHCVのNS3-4Aプロテアーゼ阻害剤「テラビック」(テラプレビル)を発売しました。米Vertex社が創成した画期的な新薬です。現在の標準治療であるペグインターフェロンαとリバビリンに加えた3剤併用によって、国内のフェーズ3臨床試験で、初回治療例で73.0%の患者で血中のHCVのRNAが消失しました。前治療から再発した患者では88.1%の患者でウイルスが消えました。標準治療が初回治療例で49.2%ですから、大幅な改善です。しかも、標準治療が48週間投与であるのに対して、3剤併用療法はその半分の24週(テラプレビルは1日食後3回、750mgを経口投与)で済みます。当然のことながら患者さんの負担や医療費の節約にもつながります。臨床試験担当医であった虎の門病院の熊田博光分院長は「HCV感染症の完全治癒も視野に入った」と宣言しました。

 問題は、2剤併用と比べ、重篤な皮膚症状と貧血症状が多いこと。初回治療例で3剤併用で9.5%に発生しました。現在の標準治療では6.3%でした。そのため、当面は皮膚科専門医と肝臓専門医の存在する1000施設に販売を限定、3000例の全例調査を義務付けられました。熊田氏は、いずれの重篤な副作用も適切に対処すれば、制御可能であると指摘します。

 より治療効果を狙い、より副作用のリスクを下げるために、テラプレビルでも、個の医療化は避けられません。実際、HCVの遺伝子型と患者さんのインターロイキン28Bのジェノタイプの組み合わせによって、有効な患者の選択に成功していました。IL28B遺伝子の変異は2剤併用療法が効かない患者のバイオマーカーとして、我が国の厚生労働省が支援した研究班が同定したものです。IL28B(インターフェロンλ)の開発を進展させただけでなく、3剤併用療法の適応患者選択にも貢献しそうです。まずIL28BのTT遺伝型を持つ患者が、HCVコア配列70の変異型のウイルスに感染していても3剤併用で100%(9例中9例)が血中からウイルスRNAが消失しました。コア配列が野生型のHCVでも92%(24例中22例)で奏効しました。両者には統計的に有意な差がないので、IL28BのTT遺伝子型の患者ではどんなHCVでも3剤併用すれはほぼ完治が期待できるのです。TT遺伝型を持つ患者は抗HCVに対して極めて応答性が高い患者群であります。TT遺伝型患者は血中のインターフェロンλの濃度が高く、患者の免疫系のウイルス排除力が強い可能性があります。一方、IL28Bの別の遺伝子型であるTGとGG遺伝型を持つ患者は3剤併用でも効果が低いこともわかりました。感染しているHCVのコア配列70が変異型であると、3剤でも21%(14例中3例)しか効果がありません。HCVコア配列が野生型でも64%(11例中7例)しか効果がありません。

 テラビックの添付文書には個の医療の記載がありませんが、我が国のHCV肝炎の最新の治療ガイドラインには、IL28BとHCVのジェノタイプの分析を行うべきであるという、個の医療化の指示が盛り込まれました。つまり厚労省ではなく、学会の自主基準として個の医療化を定めたのです。製造承認申請の参考資料にたぶんこうした個の医療に関する資料が提出されなかったためと、推定しますが、少なくとも市販後調査が終わる段階では、薬剤添付文書に盛り込み、診療報酬にもIL28BとHCVコア配列70の遺伝型検査点数は収載すべきであると、望んでいます。

 科学的な興味から言えば、これがペグインターフェロンが薬効を示す患者だけでなく、テラプレビルのような作用機構が異なる薬剤の感受性のバイオマーカーになりうるのか?興味があります。現在、次世代のC型肝炎治療薬として、うつ病などの副作用があるインターフェロンを外した、2剤併用療法の臨床試験が進んでいますが、ここにもIL28Bの変異遺伝子が患者選択に貢献するか?ぜひとも製造販売申請時の参考資料として提出すべく、臨床試験でのデータ収集を行うべきであると考えています。

 個の医療化により、副作用のリスクを極小化し、HCV肝炎の駆逐を実現する道が見えてまいりました。集団接種やディスポーザブル注射器が普及前の往診の際の注射針の取り扱いなどにっても、我が国でHCV感染症は蔓延しました。医原病ともいえるHCV肝炎の克服が、3剤併用療法で大きく前進した。2011年はろくな年ではありませんでしたが、年末ぎりぎりに希望も生まれた年となりました。やれやれ、であります。

 師走でお忙しいでしょうが今週も、どうぞお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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