昨夜のFIFA クラブワールドカップ ジャパン 2011の決勝は見事な試合でした。南米王者のサントスは欧州クラブチャンピョンのバルセロナに、まったく手も足も出ない。バルセロナのボールの支配率が71%と、ボールにほとんど触らせてももらえませんでした。結局、4:0の完敗。バルセロナというチームはメッシが目立っていますが、決して個人技に頼るサントスのようなチームではありません。このチームは従来のサッカーに破壊的なイノベーションをもたらしたチームであることが、今回の試合で誰にでも明らかになったと思います。まずポジションという考え方をキーパー以外について捨てています。ディフェンスもオフェンスも入り乱れて渦のような攻撃を仕掛けます。しかも、左右に必ず選手が展開し、その間の精緻な三角形の頂点に選手を流動しながら配置。ショートパスの連続によって、リスクを低減しつつ、敵の守備陣を翻弄、間隙を見つけるや、メッシやイニエスタ、シャビ、そしてアウベスがドリブルでゴール前に殺到し、得点を奪ってしまいます。ロングボールを上げてゴール前に殺到、ごしゃごしゃ入り乱れているうちに得点するという、運頼みのサッカーとはおよそ対極にあります。事実ゴールキックですら、バルセロナはロングボールをまったく打たない。キーパーからショートパスが始まり、システムが動き、ゴールに繋がる。精緻な美しい作品にサッカーを仕上げたグラウジオーラ監督とバルセロナというクラブの伝統に敬意を表さなくてはなりません。「21世紀の初頭まで、サッカーは美しさと泥臭くも点を取るという2極で苦悩していた。バルセロナはその問題を解決してしまった」とさんまさんがTVで発言していましたが、これはまったく当を得た指摘です。サッカーファン以外には狂気の沙汰と思われるかもしれませんが、今のバルセロナはサッカーに産業革命を引き起こしているのです。本当の産業革命に成功した英国が未だ運頼みのサッカーを展開、産業革命に失敗したスペインがサッカーでは産業革命を成就させたのは、まったく歴史の皮肉としか言いようがありませんね。

 我が国の澤穂希選手はバルセロナの大ファンです。2011年のFIFAバロンドール(年間最優秀選手賞)にメッシ選手とともにノミネートされており、来年の1月10日に、共にバロンドールを受賞する可能性濃厚ですが、今回の試合をで「(どうやって点が入ったか)よく分からない」とTVでコメント、がっくりしました。優勝したワールドカップでは、女子のバルセロナと評されたパスサッカーを是非とも澤選手たちが世界に先駆けて完成して欲しい。女子サッカーにも破壊的イノベーションをロンドンオリンピックでたらして欲しいと熱望しております。

 さて興奮で前書きが長くなってしまいましたが、バイオです。

 バイオテクノロジーにおいてもリスクをマネージすることは言うまでもありません。でもサッカーと同じで、リスクを取らなければ得点、すまり商品化もできないことも明白です。先週の金曜日のバイオファイナンス・ギルドのセミナーはiPS細胞のビジネスモデルを議論しました。2011年度中に薬事法下での幹細胞医薬に品質と安全確保の調査報告書がまとまり、2012年度中にガイドラインとして公表されることになっています。ここでのリスクのマネージメントの仕方によって、我が国のiPS細胞の事業化を生かすも殺すも決まってしまいます。調査報告書は厚生労働科学研究費「ヒト幹細胞を用いた細胞・組織加工医薬品等の品質及び安全性の確保のあり方に関する研究」研究班(班長、早川堯夫近畿大学薬学総合研究所所長)がほぼ完成させております。

 早川所長は個人的見解と断った上で、3つの重要な考え方を開示しました。これはひょっとしたら我が国の薬事規制の画期的な転換点となるかも知れません。第一は再生・細胞医療製品は揺籃期にあるが、将来期待できる先端医療であり、育てる必要があると明言したこと。第二は細胞医薬は高度な専門家の手で患者に当面は提供され、フォローアップされることにより、リスクは低減できると示したこと。つまり、通常の錠剤や注射薬のようにブラックボックス化された医薬品として患者さんに提供されるのではなく、細胞医薬の内容や技術がよく分かった専門医が取り扱うため、品質や安全性の確保をかなりの程度担保できると、現実的な対応を認めました。そして第三は、リスク・ベネフィットだけでなく、製品リスク・患者リスクを勘案して、治験を進めるべきであると断言したことです。患者にとってこの治療法が開発されない場合のリスクを判断材料に入れろということです。

 科学的にリスクが無いことを証明することは不可能なことは絶対的事実ですが、無理を承知で、審査の過程でより詳細な科学的データの積み重ねが要求されます。ジャパンティッシュ・エンジニアリングは自家細胞表皮の治験を開始するのに470ページ以上の資料を要求されました。また、米国食品医薬品局も一説によれば1.2mの資料をヒトES細胞由来のグリア細胞の治験で要求されたといわれています。しかし、本当に科学的に言えば、無限に資料は規制当局が要求することも可能です。470ページとか、1.2mの高さの資料とかは、双方が疲れてもういいやとなった妥協の産物なのです。この妥協にいたる時間の進行の中でも、患者さんがその革新的な細胞医薬で治療を受けられないリスクが増大していくことを忘れてはならないという、早川所長の主張は重要です。患者の同意と納得が前提ですが、リスクを避けるために、本当はヒトで検証しなくては分からない安全性と有効性に関して、際限も無く動物実験のデータを要求はなりません。我が国の新薬や細胞医薬の規制にも、患者本位に破壊的イノベーションを起こす必要があるのです。

 審査官や厚労省がリスクを取らないために、患者さんのリスクが増大するなどは言語道断です。国がリスクを取り、担当官の訴訟リスクを免除するなど、現在の制度改革も進めなくてはなりません。何よりも一番肝心なことは、現在の審査体制の改革と新薬や医療機器の審査にプロフェッショナルを関与させることです。審査官の人数が増加したことは結構ですが、素人が勉強するために治験相談や薬事戦略相談などを転用することは、決して望ましい姿ではありません。時間こそが、患者さんにも、私たちにとっても一番重要な資源であることを心に刻まなくてはなりません。

 あっという間の師走かな。
 風邪が増えています。皆さんもご自愛願います。

         日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/