◎●◎ 皆さん、お元気ですか? ◎●◎

 今月もBiotechnology Japan Webmasterの宮田が執筆させていただきます。著者の選定に今尚難渋しております。皆さんのお知恵を是非ともお寄せ願います。現在、一人ご推薦をいただいております。

 今年もたんぱく質やプロテオーム研究は大きな飛躍を遂げました。東日本大震災や大豪雨など、天変地異に翻弄された一年でしたが、皆さんの人生はいかに展開したでしょうか?例年こそ被災地域の復興と20年にわたるデフレで傷んだ我が国の復活を願っております。

 さてプロテオームです。

 たんぱく質は細胞の骨格を形成することに加え、さまざまなシグナル伝達を介在することによって、生命現象の主役の座を不動のものとしております。シグナル伝達は、たんぱく質のリン酸化のネットワークによって支配されており、リン酸化と脱リン酸化のバランスによって、環境の刺激に対応した細胞分裂や細胞代謝の変化などが引き起こされます。こうした事実は、慢性骨髄性白血病の特効薬として開発された「グリベック」が、患者さんのがん組織で過剰生産されたたんぱく質リン酸化酵素Bcr-Ablの阻害剤であったことからも確認できます。細胞増殖という基本的な生命現象をたんぱく質リン酸化酵素を阻害することで抑止、半年しか余命がなかった慢性骨髄性白血病を死の病から救い、慢性疾患へと変貌させてしまいました。その後の展開は、皆さんご存じの通り、たんぱく質リン酸化酵素(キナーゼ)の阻害剤が、標的薬と名付けられ世界中で抗がん剤として開発が進みました。

 昨日も、グラクソスミスクラインが我が国で3種のVEGF受容体キナーゼやc-kitというたんぱく質リン酸化酵素の阻害剤(マルチキナーゼ阻害剤)「パゾパニブ」が進行性悪性軟部腫瘍の治療薬として我が国で販売認可されたばかりです。詳細にはカウントしておりませんが、全世界で20種近いたんぱく質リン酸化酵素阻害剤が、実用化したのではないかと考えております。

 たんぱく質のリン酸化は、たんぱく質によるシグナル伝達のまさにセントラルドグマとも呼べるものでした。しかし、セントラルドグマが機能性RNAの発見により崩壊したように、たんぱく質リン酸化というセントラルドグマも、2011年12月12日に崩壊の兆しが出てまいりました。新たな生命科学が機能性RNAの発見によって大きく転換したように、今回の発見もたんぱく質やプロテオーム研究の大転換を引き起こす最初のステップとなるのではないか?そんな予感がしております。

 米Scripps研究所は、スルフェニル化がたんぱく質リン酸化と同様に細胞のシグナル伝達を担っていることを、2011年12月11日付のNature Chemistry誌のオンライン版で発表しました。

 同研究所によれば、たんぱく質のスルフェニル化は今まで主要な働きであると考えられていた酸化ストレスの調整だけでなく、細胞のシグナリングも可逆的調整するたんぱく質の翻訳後修飾を担っていると証明しました。この可逆的というところがミソですね。たんぱく質のリン酸化と脱リン酸化のバランスでシグナル伝達が遂行されているごとくです。

 実際には、上皮細胞成長因子たんぱく質キナーゼの活性中心であるメチオニンに直接過酸化水素によって修飾され、このキナーゼが活性化することを発見したのです。スルフェニル化と脱スルフェニル化が、キナーゼの活性化を支配していました。同時に、細胞内の酸化還元状態が、免疫反応など多様な生命現象に影響を与えることは、多数の研究報告があり、今回の発見はこの謎の解明にもつながる可能性があります。もはや標的薬としてリン酸化酵素の阻害剤の開発は盛りを過ぎており、新しい創薬標的としてスルフェニル化・酵素や脱スルフェニル化酵素などが注目されることは、間違いないと思います。

 巷間言われているアルカリ性体質などは、今までまったく根拠の無い俗説だと思っておりましたが、ひょっとしたら科学的根拠があることなのかも知れません。

 考えてみれば、大気中に酸素が出現し、我々脊椎動物は大きな進化を遂げました。大気中の酸素によって生じる過酸化水素は、環境条件を反映するもっとも適切な情報分子であるのかも知れません。リン酸化の基質であるATPも細胞のエネルギー物質としてありふれた物質です。生命は身の回りのありふれた物質で奇跡を起こしているのですね。皮肉なことに医薬品の開発で、副作用が避けられない理由でもあります。

 皆さん、どうぞ良き年をお迎え願います。

        日経バイオテクオンライン Webmaster 宮田 満