現在、遠州灘の海岸線を見下ろしながら飛行中です。本日は快晴。まるで日本地図の上を飛行しているようです。最新型の飛行機の窓越しから射し込む日差しは強く、ぽかぽかしながら良い気持ちとなっています。縁側に寝そべって箱庭を見ている気分です。海の青、砂浜の生なりの白、町並みのモザイク、森の深い緑、稲妻のように風景を切りこむ光る川、遥かに浮かぶ雲の純白、そして耳にはクリスマスキャロル。。。。。。

 しかし、そんなのんびりした気分も1時間しか許されないのが、バイオです。
 我が国に個の医療をもたらす技術基盤を築き上げた東京大学医科学研究所の中村教授が来年の4月に日本を脱出、米Chicago大学の教授に就任すると読売新聞が報道しています。同氏と因縁の関係となっていた朝日新聞ではないところが、信ぴょう性を深めます。中村教授は海外出張中で関係者も口を貝のように閉ざしているため、真偽のほどはまだ確認しておりませんが、私は「十分ありうる」と考えています。もし本当なら、我が国は突破力のある人材を失うことになります。個の医療の普及や中村教授が力を入れていたがんペプチドワクチンの開発にも少なからず影響がでるでしょう。

 実は11月にフランスLyonから欧州がん研究機構の議長であるBlay教授を招き、東京で開催されたオーダーメイド実現化プロジェクトのセミナーで、中村教授とお会いした時に、医療改革の進展を訪ねたのですが、その答えは「笛吹けど踊らず」の一言で、しかもファイトやや過剰な中村教授にしてはややあきらめの響きがあったことが気になっていました。千石前官房長官が辞任直前に執念で今年1月に内閣官房創設した医療イノベーション推進室長に、国立がん研究センター研究所の職を辞して、中村教授は抜擢されたのですが、15か月で日本を離れざるを得なくなったとすると、まさに志半ばでの撤退となる可能性があります。民主党政権の成長戦略にとってライフイノベーションはグリーンイノベーションと並んで、大きな目玉の一つでした。そのエンジンとして中村教授が期待されたのですが、厚労省や文部省の縦割り行政の壁は大きく、しかも医療界からの支援も十分とは言えませんでした。むしろ抵抗勢力も多かったのです。加えて、民主党内部の権力の変動によって、医療改革に必要な強力な政治力による支援も最近では得られない状況でした。特に東日本大震災の復興支援に対するライフイノベーション、中でもゲノムコホート研究を誰が主体的に行うか?をめぐる綱引きは必ずしも中村教授が期待したものとはならなかったと考えています。

 今回の報道が本当なら、ライフイノベーションを我が国にもたらすためには、政権の中枢に科学者や医師を送り込めば可能であるという朗らかな発想が役に立たんことを示すことになります。結局は科学者や医師の科学的な進言を理解し、判断する政治家と政党の能力が劣っており、権力闘争に明け暮れているようでは、政治主導のライフイノベーションなど夢のまた夢。結局は既得権の整理もできず、科学者や医師は権力闘争の道具として消費されるだけなのかも知れません。

 実り豊かなライフイノベーションを国民にもたらすのは、国民自らの努力以外無い。政府は規制緩和によって支援するのが、もっともスマートの戦略だと結論づけざるを得ません。少しは賢人政府に期待を持ちましたが、その期待も今や雲散霧消いたしました。

 まったく、どうしようもない結論となりましたが、今週もどうぞお元気で。

            日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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