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  考察:バイオプラスチックの“競合資材”としての石油系プラスチックの実力
                  バイオインダストリー協会 大島一史部長
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 夏前から最近に至るまで、バイオマス系プラスチック(BP)の開発と市場開拓に取り組んでいる自治体や企業の方から等しく 「なぜ期待したほどの広がりを持たないのか」、またバイオマス施策に深く係わる中央官庁の行政官の方から「昔から新聞で“普及の兆し”や“新たなBPの登場”等の記事を見るが、日本のプラスチック市場に占める割合があまりに低さいのは“なぜだ”」と問われる機会が数多くありました。

 今回はこの避けて通れない背景を冷静に考えてみます。従来は単純に、使用者はコスト高になるのを我慢して調達しても“ご褒美”がない(例えばグリーン購入法特別調達品目に登録されても数値目標が設定されていないことから実績に乏しい、容リ法でも一般プラスチック製容器包装と同じ扱い)等に原因を求めていました。しかし、最近の樹脂成形加工技術者との会話から、行き着くところは純粋なコストよりも、むしろ競合としての石油系プラスチックの高い“品質”に原因があると思いました。BPは“適正コスト(我慢できるコスト)”により、この高い品質の競合品と競争して、少なくとも同等でない限り調達対象になり難いのでした。

 市場が期待したほどの広がりを見せない事情は海外も大差ないと言えるようです。EUにおけるBPの普及を目指した誘導施策立案のための市場調査を担当されたオランダのU大学のP教授は、「コンセプトは良いが、現実の普及となると厳しいところがある」と指摘されています。同教授の見立てでは、2020年のBP市場は世界規模で見て最大300万tから350万t、従って全プラスチック市場のおよそ1%前後であろうと推測しています(主力となるBPはでん粉変性系、ポリ乳酸、バイオポリエチレン、およびエポキシ樹脂と見なしていますが、これにはいろいろな見解があるでしょう。またこの“1%”という数字は10月13日のメールマガジンで触れた国内BP市場規模の割合と同程度と言えます)。

参考:【GreenInnovation Vol.204】
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20111013/155989/

 “1%”に留まる背景には何があるのでしょうか。まずプラスチックという、今日の日常生活に必須な資材について考える必要がありそうです。プラスチックはその軽量性・成形加工性・コスト等からそれまでの紙、天然材や鋼鉄材を置き換えてきました。素材メーカーにおいては、20年から30年ほど前では典型的な“コモディティ製品”の扱いでしたが、現在では既に“ファイン製品”、すなわち、精密な重合・配合・成形加工資材に変貌しています。分子量・分子量分布・末端基や分岐鎖の精密分子設計、耐熱性・耐久性・耐衝撃性・難燃性等用途に応じた銘柄開発、加えて配合技術(これを実現する新たな添加材等副資材の開発)や成形加工法の発展がその背景にあります。レジ袋のような単純な製品でさえ、そのヒートシール強度は市場に登場した当時とは格段に違います。ビールコンテナは早い時期に木枠からポリプロピレン(PP)に置き換わりましたが、PPと一口に言ってもエチレンとの特殊なブロック重合法で合成した銘柄です。情報家電や自動車内外装のような長期耐久消耗品へのプラスチック資材の適用はそれこそ “想定外” の市場拡大でした。その後ろには “樹脂屋” と呼ばれたポリマー/プラスチック技術者の地味な取り組みがあったわけです。

 BPの多くは、企業で“樹脂屋不在”の有機合成や、バイオ分野の研究者が研究開発してプラスチックの世界に既存樹脂の代替として提案し、新たに登場した資材でした。ポリマー鎖の精密な分子設計、用途に対応した適切な銘柄・配合・成形加工法の開発が完成して初めて置き換えとなる既存プラスチックと同程度の品質が実現されるとすれば、コストとの兼ね合いで継続的な調達対象になり難いと推定されます。3年前のイベント “バイオジャパン”の“BPに望む”としたセミナーで、T社(自動車)とN社(電気・電子)の方が、「コストを数倍かければ既存樹脂と同等品質の部材を開発できるが、継続的な使用には壁が高い」との結論を示されていたことが、今ではほろ苦い思い出となっています。

 最近の動向として既存プラスチックの原料をバイオマスに置き換えたタイプの登場がありますが(6月号、7月号)、生産コスト自体の割高を除けば品質問題はクリアされており、歓迎されている背景も頷けるところがあります。

参考:GreenInnovationメール  2011.6.2 Vol.186
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/bc/0010/0186/

参考:GreenInnovationメール  2011.7.7 Vol.191
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/bc/0010/0191/

 今月は少し暗いお話になりました。次号は新年号でもあり、明るい話題を取りあげるつもりです。読者諸兄婦が良いお年をお迎えになりますように。