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  ちゃんとGreen Innovationしたい!(2)
                  ネオ・モルガン研究所 藤田朋宏社長
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 ネオ・モルガン研究所の藤田です。この連載では、育種屋という立場から「ちゃんとGreen Innovationをする」ためにどうしたらよいかを皆さんと共に考えていきたいと思います。どうしたらよいかを考える準備として、まずはちゃんとGreen Innovationしていないプロジェクトにはどのようなものがあるのかを、読者の皆さんと共有したいと思います。

 第1回目である前回は、ちゃんとしていないプロジェクトの例として熱力学の法則に反した「絶対無理」な目標を掲げているプロジェクトが世の中には少なからずあること、その一例として、ある面積で生産できるバイオエネルギーの量が、その面積に照射される太陽エネルギーの量より大きいプロジェクトの例を示しました。

 今回は、世界中で技術開発競争が進んでいるテーマであるにも関わらず「技術を完成させた」と完了形で公表してしまう例について共有していきたいと思います。

 Green Innovationの業界において、農作物の茎や葉のような農業廃棄物を資源として変換する技術開発は大変重要なテーマです。農業廃棄物を原料にするのだから余剰の二酸化炭素は排出せず、地球に優しいという論理構造であるのは言うまでもありません。農業廃棄物の利用のプロセスとしては、農業廃棄物を酸や酵素で糖化し、この糖を餌に微生物が発酵生産するバイオエネルギーやバイオマテリアルを生産するというプロセスが王道です。このプロセスを実用化するために世界中で莫大な投資を集めて研究開発が進んでいます。

 このプロセスはラボスケールでは既に完成しています。既に完成しているのにも関わらず、なかなか実用化レベルに普及しない理由は、石油から作る場合に比べて現在の技術力では生産コストが圧倒的に高くなってしまうことと、実用化スケールでは安定した発酵生産を続けられないという二つの課題が存在するためです。生産コストを下げ、発酵生産を安定させるためには、発酵菌の活力を保ち続けることがポイントなのですが、生産コストの大きな割合を占める糖化コストを下げようとすると、発酵阻害物質が多く含まれる糖化液ができて発酵がうまく進まなくなってしまいます。うまく発酵させるためには糖化コストを高くせざるを得ないというジレンマがあります。

 当社もこういった潮流の中で、安価に(雑に)糖化をした糖液でも元気に増殖し発酵できるようなスーパーな菌を開発することを目標に、さまざまな大企業と共にさまざまなプロジェクトを進めています。世界的に大競争を繰り広げる中で、我々のチームが一歩でも早く、世の中のためになる発酵菌を作れるよう日夜努力できることを楽しんでいます。

 ところが、世の中にはこのような世界的な大競争が行われていることを無視し、「農業廃棄物から○○を○○円で生産できる技術が完成した。」と完了形で発表してしまうチームがいます。こういったチームが発表しているデータの多くは、実際の農業廃棄物から作った糖化液を発酵させたデータではなく、発酵を阻害する混ざりモノ無しのグルコース、キシロース、そして発酵阻害物質として酢酸を入れた人工的な液を原料にしたデータです。実際の農業廃棄物からの糖化液に含まれる発酵阻害物質は酢酸だけでなく、検出できるだけで何十万という複雑な物質の混合物であるから対応が難しいのですが、グルコースとキシロースと酢酸だけの液で「技術が完成した」と発表されてしまうとこの分野で日夜努力している世界中のチームが「だから、そこまではみんなできてるんだって」と突っ込みを入れたくなるわけです。

 さらにこの問題の本質は、このように「既に完成した」という完了形の発表をマスコミや政治家が取り上げ「ついに夢の技術が完成」と報道されてしまう点にあると感じています。このような報道がされてしまうと、現在、大競争の最中で努力を続けている研究者の立場が無くなってしまうだけでなく、世界中で繰り広げられている大競争に対する投資が行われなくなってしまいます。さらに、技術的に不可能な状態で実用化プラントだけができてしまい、一度も稼働すること無くプラントが埃をかぶってしまうことにもなりかねません。

 農業廃棄物の糖化・発酵の例に限らず、現在世界中で投資が集まって大競争になっているテーマを「既に完成した」と完了形で公表し、その公表に世間の注目が過剰に集まっている例はあちらこちらでみられます。誰も人をだまそうとしているわけでなく「技術が完成した」の定義が人によって異なるのが原因で、大きな悪意のある人は存在しないと思うのですが、その結果、Green Innovationをちゃんと進める上でネガティブな結果を引き起こしているのは大変残念です