まず、皆さんにお知らせです。是非ともご参加願います。

 11月30日に「1Gシーケンスの挑戦、ゲノムの新たな地平へ」と銘打って、セミナーを開催いたします。企画した本人が言うのもなんですが、この大げさなタイトルは決して誇張ではありません。次世代シーケンサーの技術革新によって、大衆化が始まりました。その結果、今まで専門的な研究機関のお家芸であった1ギガシーケンスがかなり後半な研究室や大学で可能となり、しかも、実際の応用も急速に拡大しております。今や、基礎研究だけでなく、病院にも大衆化した次世代シーケンサーが導入される時を迎えています。今回は最先端の次世代シーケンスとその大衆化をテーマに、オピニオンリーダーを招聘、皆さんと医学研究、創薬研究にどのようなインパクトを当てるか浮き彫りにしたいと考えております。下記のサイトをご参照の上、どうぞお早目にお申し込み願います。お陰様で、残席が僅少となりました。
http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/111130/

 次世代ゲノムシーケンサーが大衆化の一途をたどっている証拠をお示しいたしましょう。実は熱心な読者から「アップルの創業者の伝記『Steve Jobs』(講談社、2011年)第二巻の400ページに、同氏が次世代シーケンサーで全ゲノム解読を行っていたという記述がある」とメールをいただきました。早速本屋に走り、立ち読みで確かにSteve JobsIIの400ページ14行目に「ジョブズの医療チームはがんの一歩先を行くことができた。がん細胞とふつうの細胞についてDNAの配列をすべて調べたのだ。これは10万ドル以上の費用がかかる検査で、当時(2010年から11年前半)、そこまでした患者は20人しかいなかった」という記述を確認しました。当然、立ち読みだけでは失礼です。勢いで全巻を購入、今朝の早朝まで読みふけっておりました。

 巨万の富を築いたジョブズだから可能だと、皆さん思ったでしょうが、現在の次世代シーケンサーの性能向上とゲノム解析コストの下落、つまり次世代シーケンサーの急速な大衆化によって、後5年、皆さんががんになるのを我慢できれば、がんと正常細胞の全ゲノム解読は、一般市民でも可能になる、また可能にしなくてはならないと思っております。

 ジョブズ氏のゲノムを解読したのは米MITのブロード研究所、その解析成績に基づき、標的医薬の選択と治療方針を決めたのが、米Stanford大学、米JhonsHopkins大学、そして米Harvard大学の医療チームでした。まさに豪華絢爛、最先端のゲノム研究者が勢揃いしています。同氏は治療困難なすい臓がんに罹患しており、臨床試験中の新薬も含めて、数種の標的薬の組み合わせが行われていたと推定しています。同氏は亡くなる2年前に肝臓移植をしており、免疫抑制剤を定期的に摂取、しかも肝臓の機能は十分に回復したとはいえませんでした。今年に入ってジョブズ氏の体重減少は著しく、激やせした姿は涙を誘いました。食事が十分とれないため、副作用の強い化学抗がん剤を避け、標的医薬の併用が試されたのです。標的医薬でも薬剤耐性が生じますが、耐性となったがんのゲノムを全解読することで、次の標的医薬の選択へのヒントが得られたはずです。これだけの努力を重ねても、すい臓がんが再発してジョブズ氏が今年10月5日に亡くなられるまでは1年超でしたが、すい臓がん再発患者としては異例の延命を実現し、新型iPHONEやiPADなど、熱狂的なファンを持つ製品を世に送り出すことができました。こうした時間的余裕を生んだがんゲノム解読の成果に、ぜひとも注目していただきたいと願っています。次世代ゲノムシーケンサーの大衆化が、皆さんにもこうしたサービスを受けることを可能にすると考えています。

 ジョブズ氏の病魔との苦闘から、私たちはゲノム解読に基づいた、個の医療の時代がもうそこまで来たことを知りました。そしてもう一つ、ゲノム解読は簡単だが、そのデータを解釈し、適切ながんの個の医療を実現するためには、まだまだ研究が不足していることも知りました。がんと正常細胞のゲノム上の変異の差を、私たちは治療方針の変更に結び付ける情報、つまり変異の医学的意味の情報は決定的に不足しています。残念ながらあれだけの豪華絢爛な医学研究者を揃えても、ジョブズ氏のゲノム情報に存在していた治療の鍵となる情報の殆どは見過ごされていたのではないでしょうか?勿論、まだまだ特定の変異を叩く、標的薬の開発も不足しています。ゲノム情報の解釈の進展と治療オプションの増加が、より適切な個の医療のためには不可欠であると痛感いたしました。道は尚遠い。だが、最後の最後まで、アップルでより画期的な商品を開発するために、そして、アップルが永続的に画期的な商品を生む企業となるために、がんと闘ったジョブズ氏の粘りこそ、個の医療は学ばなくてはなりません。一歩一歩確実に、粘り強く、理想を求めて。ジョブズ氏のご冥福を祈ります。

 11月30日の次世代シーケンサーの大衆化のセミナーで皆さんとお会いしたいと願っております。どうぞ下記をご参照の上、お申込みを御急ぎ願います。
http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/111130/

 今週もどうぞお元気で。

            日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/