予防接種法改正を視野に議論を続けてきた厚生労働省の厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会の議論が、かなりに詰まってきたようです。日本のワクチンは、予防接種法で市区町村の責任で接種することが定められている「定期接種」ワクチンと、それ以外の「任意接種」ワクチンに分かれます。定期接種になれば接種に公費が助成されるため接種率が上がりますが、任意接種のままでは接種率が上がらないという問題があります。そこで、予防接種部会の「ワクチン評価に関する小委員会」という作業チームは、1年前の2010年10月18日に、▽ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)▽肺炎球菌▽ヒトパピローマウイルス(HPV)▽水痘▽B型肝炎▽おたふくかぜ――の6疾患のワクチンを、予防接種法の定期接種に位置づけるべきとする中間報告を行いました。

 それから1年が経過して、現在、予防接種部会ではこれまでの議論を中間的に整理しつつあるようです。ただ、11月初めに開催された部会では、定期一類と定期二類を見直し、定期接種法に位置づけるべきとされた7種類のワクチン(成人用肺炎球菌が追加された)をどこに位置づけるかが議論されているようで、一年という時間の割にはあまり議論が進展した感じがありません。

 この時間感覚に痺れをきらせたのか、9月まで予防接種部会の委員だった黒田祐治神奈川県知事は、神奈川県立病院機構で、日本では承認されていないポリオの不活化ワクチン(IPV)を海外から輸入して、希望者に接種する方針を10月半ばに明らかにしました。日本ではポリオは生ワクチン(OPV)が利用されていますが、100万人に1.4人という低頻度ながら麻痺を起こしたり、二次感染でポリオが発生する事例があり、OPVの接種率が低下するという問題があったためです。OPVの問題は古くから指摘され、厚労省の検討会などでもIPVへの切り替えが提言されてきましたが、なかなか実現せず、今に至ったというところです。

 神奈川県の決定に対して小宮山洋子厚労大臣は、「未承認ワクチンの接種は予防接種行政上望ましくない」旨の発言をしたと報じられていますが、OPVへの不安から接種率が低下しているという問題に正対した答えではないように思います。もっとも、既に国内でDPT(ジフテリア、百日咳、破傷風)の混合ワクチンにIPVを混合した4価ワクチンが開発中で、化学及血清療法研究所と阪大微生物病研究会が開発しているものはそれぞれ申請準備中の段階にあります。海外で承認済みのワクチンを緊急輸入して特例承認することも提案されていますが、新型インフルエンザワクチンの経験を思い起こすと、特例承認の取得にも、4、5カ月の時間がかかるように思われます。ただ、日本でもいずれはIPV単独のワクチンが必要にはなるでしょう。そこで、まずは4価ワクチンの開発をスケジュールどおりに進めて、輸入のIPVを別途承認するか、4価の開発が少し遅れてもIPVの緊急輸入をすべきか、その辺は政治的判断が必要なところです。いずれにせよ、OPVをIPVに緊急に切り替えるべきということは、2000年頃の厚労省の資料を見ても指摘されています。それがどうしてこれだけ時間がかかることになってしまったのか。行政担当者にはこれまでの経緯を必ず検証して、もっと時間を短縮する方法はなかったのかを提案してもらいたいものです。

 90年代から2000年代にかけて、欧米では新しいワクチンが次々に開発されており、これらを日本に輸入品として導入する仕組みを作らなければならないということと、合わせて日本のワクチン産業を活性化し、国内に供給するだけでなく、アジアを含めた海外を視野に入れて事業を拡大するべきだということを私は機会あるごとに書いてきました。

 最近の輸入ワクチンの承認事例を見れば、指摘したうちの前者はある程度いい方向に向かっていると思います(公費助成などの制度的対応が遅れていることが問題視されていますが)。一方、北里第一三共ワクチンが発足したり、アステラス製薬がベンチャーのUMNファーマと提携するなど、業界にも少し活性化の動きが出てきました。2011年3月に発表されたワクチン産業ビジョン推進委員会混合ワクチン検討ワーキンググループの報告書にも、「将来的には、海外での開発に関する知見を踏まえ、日本のワクチンを海外へ提供できるようなワクチンの開発基盤を強化していくことが重要である」との一文が盛り込まれています。次のステップでワクチン産業は、日本だけでなく海外、とりわけ中国、アジアなどの近隣国を市場と捕らえ、より競争力のあるワクチンを供給すべき段階に踏み出しつつあると感じます。

 ただ、海外の動きを見ていると、グローバルな展開力の早いこと。例えば、オーストリアのIntercell社は09年に米食品医薬品局(FDA)から日本脳炎ワクチンワクチンの承認を得たのですが、その後欧州、カナダ、香港、オーストラリアでも承認を取得。また、同社の技術を導入したインドBiological E.社がインドで日本脳炎ワクチンを製造し、フェーズII/IIIの治験を終了しています。日本脳炎ワクチンは、かつては日本メーカーの製品が海外にも供給されていたと聞きますが、今や欧米ベンチャーに市場を奪われつつあるようです。

 大手製薬企業や医療機器メーカーなど、既にグローバルに活躍している日本企業も幾つかありますが、総じて言えば日本の医療関連の企業は、少し内向きすぎだったのではないでしょうか。しかし、人口減少などで日本の市場の拡大が大きくは期待できない中、医療関連のさまざまなビジネスは、もっと海外を志向すべきではないかと考えています。その一助となることを目指して、12月9日には「医療機器・IVD(体外診断用医薬品)メーカー向け」のセミナーを都内で企画しました。中国の国家食品薬品監督管理局(SFDA)の元審査幹部や、中国最大の医療機器・IVD流通企業である中国医療機器有限公司の幹部も招くことができました。中国の政策や市場、規制を学ぶと同時に、人脈作りにも役立つセミナーです。以下のサイトからどうぞ奮ってご参加ください。

http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/111209/index.html

 それから、日経バイオテク創刊30周年記念セミナー第二弾として、次世代シーケンサーをテーマとするセミナー『1Gシーケンスの挑戦、ゲノム解析の新たな地平へ』を11月30日に品川で開催します。次世代シーケンサーを利用する研究者の裾野が広がり、さまざまな研究領域で応用されはじめた状況をお伝えできるかと思います。恒例のパネルディスカッションも用意していますのでぜひともご参加ください。詳細は以下のサイトからお願いします。

 http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/111130/index.html

 また、先日よりご案内しています11月28日に秋葉原で開催を予定しています日経バイオテク創刊30周年記念セミナー第一弾!『PGx・バイオマーカーが変える医薬品開発』は、おかげさまで既に多数の方からお申し込みをいただいています。コンパニオン診断薬の同時開発をテーマとするパネルディスカッションの議論は必見です。まだお申し込みいただいていない方は、ぜひともお急ぎお申し込みください。詳細は以下のサイトをご覧ください。

 http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/111128/index.html

 本日はこの辺で失礼します。ご意見、ご批判は以下のフォームよりお願いします。

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                    日経バイオテク編集長 橋本宗明