昨晩は日本のテニスにとって歴史的な夜でした。残念ながら決勝戦で錦織選手はフェデラーに、6:1、6:3で負けてしまいましたが、グランドスラム大会の次のランクに位置するスイス室内選手権での准優勝は見事です。準決勝では世界ランク第一位のジョコビッチを破るなど、ストローク戦では錦織選手は世界のトッププレイヤーに引けを取らないレベルに到達しつつあります。決勝戦も第二セットでの打ち合いでは、フェデラーを押していました。錦織選手に必要なものは、経験とスロースターターの改善です。故障さえなければ、2012年は大いに期待できる年となりそうです。

 さてバイオです。

 11月2日に英国Glaxo SmithKline社が米Life Technologies社と提携し、同社がフェーズ3臨床試験を行っているがんワクチン、MAGE3の個の医療に踏み出したと発表しました。個の医療メールでも触れましたが、詳細をご紹介しましょう。何故なら、2つの意味でバイオにとって重要なニュースだからです。第一は我が国でも盛んに臨床試験に入ったがんワクチンが販売承認を獲得するためには、個の医療が必要となることは示唆していること。そして第二は今年全世界で進んだ、診断薬メーカーとビッグファーマの戦略的提携がもはや新薬開発では不可避となることを意味するからです。

 我が国でも、久留米大学やそのスピンアウトベンチャーである、グリーンペプタイドは、患者さんのHLAやがん抗原に対する血清中の自己抗体をプロファイルして、個の医療化を進めています。同グループは、がんワクチンの有効性をしめすためには患者さんの個別化をHLAタイピィングだけでなく、別のバイオマーカーでも進める必要があると再三強調しておりました。がんワクチンの作用機構である、免疫反応自体が患者さんの遺伝的背景と今までの抗原に対する曝露歴、そして現在の体調などライフスタイルの影響を受けることから、私もがんワクチンの実用化には、個の医療が不可避であると考えておりました。同グループは富士フイルムの助けを借りて、実用化を再スタートさせたところです。彼らの臨床開発の進展と新しビジネスモデルの調整に大いに期待しています。

 GSK社のMAGE3はフランスSanofi社のTroVaxと共に大型臨床試験で先行するがんワクチンです。TroVaxはフェーズ3まで腎細胞がんの臨床試験を進めましたが、09年に有効性を途中解析で満たすことができず、臨床試験は中断されました。但し、Sanofi社はこのがんワクチンを開発した英Oxford Biomedica社との提携を最近更に深め、現在、前立腺がんでフェーズ2臨床試験を展開しています。提携を深めた理由は失敗したフェーズ3の臨床試験の結果、安全性には問題がなく、その一方である特定の患者群では有効性を示すことが判明したためです。全患者群では有効性を統計的には有意に示せませんでしたが、患者を鑑別し有効性のある群だけ絞れれば、商業化の見通しが立つと確信したためです。現在、Sanofi社も患者鑑別のバイオマーカー探索に全力を尽くしているはずです。

 TroVaxは5T4抗原、MAGE3はMAGE3抗原をワクチンとしています。いずれもかなり広範な腫瘍に多く発現している抗原です。両社は最もオーソドックスに、最もがんに特異的に発現している抗原をワクチンに選んだのです。しかし、5T4抗原も、そして今回Life Technologies社と提携して、定量PCRによる遺伝子発現プロファイルを活用して、対象患者の絞り込みを行うことを宣言せざるをえなかったMAGE3抗原も、単に腫瘍に頻度高く発現しているというだけでは、フェーズ3臨床試験で統計的に有意な結果を出せなかった(MAGE3はまだその結果を発表していないと思いますが)ことは、極めて重要です。我が国で臨床応用が進んでいるがんペプチドワクチンも、ある種のがんに特異的に大量発現している抗原を選択しているというロジックだけで、大規模患者集団で治療効果の統計的な優位性を示せるか、検証が必要だと思います。

 今回の提携で、GSK社・Life Technologies社、米Pfizer社・米Abbott社、米Pfizer社・米Medco社(2011年10月26日提携)、スイスRodche社・ドイツRoche Diagnostics社・中外製薬、英Quintilees社・デンマークDako社(2010年11月1日提携)、米Merck社・ドイツRoche Diagnostics社(2011年6月27日、がんの診断薬で提携)、米Merck社・中国BGI社(2011年9月13日提携)、スイスNovartis社・米Genoptix社(2011年1月24日買収、がんと血液の診断ラボ)など、ビッグファーマと多様な診断関連企業との戦略的提携がこれからも加速することも確信させました。先月発表した中外製薬のパイプラインのがんに関して、フェーズ1に入っている全ての新薬候補にはバイオマーカーが設定されていました。同社は喘息などがん以外の分野でも個の医療を展開しつつあります。

 ブロックバスターの幻想が消え、個の医療へと足音を立てて、製薬企業が雪崩込んでいます。我が国の企業も頭を切り替え、戦略的提携に走らなくてはなりません。また、診断薬と新薬では厚労省内部でも組織の壁があり、個の医療実現のために、診断薬と新薬を同時承認、そして同時薬価収載することなど、夢のまた夢です。患者さんに迷惑をかけないためにも、厚労省と医薬品・医療機器総合機構は組織と意思決定の仕組みの変革を急がなくてはなりません。10月21日に診断薬関係の業界3団体が厚労省、総合機構、そして医療イノベーション推進室に個の医療実現のための改革を申し入れた(陳情した?)ようです。是非とも、実現を急がなくてはなりません。製薬企業や患者団体もこうした動きを支援すべきだと考えています。

 さて、9月に米Merck社は世界最大のゲノム解析企業、中国BGI社と個の医療を実現するために、戦略的提携を結びました。個の医療に関しても次世代シーケンサーの貢献は無視できなくなりました。臨床試験のDNAサンプルも近い将来、全ゲノム解析する時代がやってきます。中国でも先月、Life Technologies社のDNAシーケンサー(キャピラリー型)が、診断機器として承認されました。これから次世代シーケンサーも、高度化と同時に診断機器として普及するための大衆化が既に始まっています。今や新薬開発や個の医療サービスに貢献が始まった、次世代シーケンサの新展開を、皆さんと議論したいと考えています。11月30日午後、品川でセミナーを開催いたしますので、どうぞご参加願います。医療を次世代シーケンサーの大衆化がどう変えるのか?これはまさに、皆さんにとって今そこにあるビジネスチャンスです。どうぞ下記から詳細にアクセスの上、お早目にご登録願います。
http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/111130/index.html

 今週も、お元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/