Wmの憂鬱、博士人材を活用できない我が国がすべきこと【日経バイオテクONLINE Vol.1650】

(2011.10.24 19:00)

 早起きして、名古屋に向かっております。名古屋大学で開催されるポスドクのシンポを取材するためです。ポスドク1万人計画のしわ寄せが、まだまだ若い研究者を蝕んでおります。大学院の進学率も低化し続けています。我が国の宝とも言うべき博士人材を社会に貢献できるよう、本人自身、大学、企業、地域、そして博士人材のキャリアパスを社会に構築することなしに、高等遊民を創りだした政府の4者が衆知を集めて解決しなければ、彼らの人生だけでなく、我が国の繁栄も覚束なくなるのです。

 先月、学術会議が発表した「生命系における博士研究員(ポスドク)等の現状と課題」によれば、35歳以上の博士研究員(任期付きも含む)の50%以上が現状に不満を抱いており、年齢とともにその不満は膨れ上がっています。任期制という雇用の不安定性に6割が不満、そしてもっと深刻なのはキャリアデベロップメントやその他のトレーニングに参加する機会がないことに40%以上の人が不満を抱いていることです。博士人材がポスドクを経て、更に能力を向上させるように、我が国の大学や研究機関はなっていない。つまり、使い捨ての人材として博士研究員が冷遇されている現状が浮き彫りになりました。米国のように、世界から博士研究員を潤沢に集め、いつでも使い捨てにするシステムを、我が国に薄っぺらな社会の仕組みの理解と人材に対する共感力にも乏しい舶来かぶれの教授達が導入した結果が、事態を更に悪化しています。陳腐な言い方ですが、資源の無い我が国が人材を大切に育てずして、成長などありえません。学術会議の提言は、残念ながら常識的なことに止まり、大学自らの懺悔を欠く点が、物足りない。まずは、大学と教官個々人の真摯な猛省から、大学改革を始めなくてはなりません。(下記の日本糖鎖科学コンソーシアムにリンクがあります)
http://www.jcgg.jp/02/symposium05.html

 何故、博士人材を我が国が活用できないのか?

 大学と企業はお互いに、罵りあい、責任をなすりつけていますが、私は最大の原因は、少子高齢化によりアカデミアのポストが減少することは必然であるにも関わらず、博士人材の養成をただアカデミアのポストの再生産のためにのみ集中してきた大学の無責任にあると思います。企業が欲しい能力を大学が伝授できていないことに、最大の問題があると考えます。ろくな商品も作れないのに、買わない奴が悪いと強弁するのは、官僚の論理です。大学を一歩出れば、そこはグローバルな人材市場なのです。ここ5年間で急速にグローバル化した我が国の企業は、世界で競争できる博士人材を望んでおります。博士人材雇用の障壁であった終身雇用制度も、もうとっくに崩壊しています。正直を言えば、企業に技術革新をもたらし、事業を進める人材なら、学卒であろうが、博士であろうが、企業は貪欲に採用しています。博士でなく、白紙人材であることが、今や最大の問題なのです。

 大学院の教育内容が世界遺産化したにはいくつもの理由があります。社会の変化に対応できない大学の経営陣が、インターネットによりグローバルな知の競争の渦中に大学が投げ込まれているのに、今だ地域独占に胡坐を欠いています。おまけに教官も無責任です。教官の数は増えないのに、文科省の大学院重点化にお金で釣られ、ただでさえ国際水準からは遥かに低迷していた我が国の大学院教育を更に薄め、しかも大学教官個々人が定年延長を享受して憚らない厚顔無恥さです。

 本当は大学の全教官を取り変えて、現在の博士人材やポスドクと合わせて、大学教官の審査をやり直すべきではないかとすら思っております。その際には、我が国全大学の教官の定員を1割削減し、その資金でテニュアを増やすことも重要です。しかし、大学自身が金太郎飴のような将来ビジョンしかないため、国際競争力のある人材を実績とレッテルのみでかき集め、名誉の殿堂のような、知の世界遺産を創り上げることが精一杯、むしろ事態を悪化させてしまうかも知れません。

 やっと文科省も我が国大学院教育が国際的にも劣っていることに気づきリーディング大学院プロジェクトを、2011年度から立ち上げました。今年度52億円(要求額)を投入、社会のリーダーとなる博士人材教育に乗り出しました。受け皿となる企業と大学が定期的に協議する場を設け(これでは弱い、もっと企業が大学院の教育内容に関与しなければ、このプロジェクトは必ず失敗すると思います)、企業や社会の考えを取り入れ社会や企業を牽引する国際レベルのリーダー人材を育成しようというものです。現在、採択先の大学を審査中です。全国から63大学101件の提案が寄せられました。残念ながらこの応募件数を見る限り、ただの新しい資金源としか、我が国の大学は考えていないのではないかと頭を抱えるばかりです。国際的なリーダー人材を育成できる大学が、潜在力も含めこんなに我が国にあるのなら、そもそもポスドク難民の問題など起こりようもありません。そろそろ国立大学も研究大学と一般大学を整理再編成すべきなのではないでしょうか?大学自身が大学院を残したいためのプロジェクトに今回のプロジェクトを劣化させる訳には参りません。

 昨年12月にリーディング大学院構想を文科省が発表した資料を読むと、米国並みの博士人材の33.6%が企業に就職することを成功と定義すると、我が国は約9%(現在、24.8%、95年から03年平均)、1400人を企業に送り込めれば、まあ成功と言えるのです。全国63大学が関与するまでもなく、最大でも15大学程度と企業の努力でこれを実現するのが筋であると考えております。大学院教育にこそ、選択と集中が必要です。

 今週も、お元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/

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