こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 前から何度か触れてきましたが、細胞培養新型インフルエンザワクチンの生産設備に対する特例交付金の交付先が決まりました。これは、自民党政権最後となった09年度の補正予算で厚生労働省が獲得し、未承認薬等開発支援センターで管理している「未承認薬・新型インフルエンザ等対策基金」を基にしたもので、昨年、第1次分として実験用プラントなどに合計100億円程度が交付され、今年、第2次の実生産プラント分として新たに4社に合計1000億円超の交付が決まりました。既に日経バイオテク・オンラインで記事にしたので、ぜひお読みください。
細胞培養新型インフルエンザワクチンの実生産設備への特例交付金の交付先4社が決定
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2008/1052/
 この件は以前からフォローしていたので、考えるところがあります。これ以前のワクチン開発、例えばH5N1新型インフルエンザワクチンの国内開発においては、国立感染症研究所が国内メーカーを集めて、研究班のような形で進められてきました。09年度の補正予算が決まる前に厚労省がスタートさせていた細胞培養新型インフルエンザワクチン開発のプロジェクトも、実は同様に厚労省が国内ワクチンメーカーに声を掛け、感染研と共同研究のような形でスタートしていました。こうした護送船団みたいなやり方では新規参入しようにも参入する方法が分からないため、既得権が守られてきました。日本のワクチンがガラパゴス化していた一因は、こうした研究開発のやり方にもあったと思います。
国内ワクチンメーカー4社が国立感染研と共同開発中の新型インフルエンザワクチン、フェーズI終了、年度内に申請へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2003/9597/
細胞培養新型インフルエンザワクチンの国プロ、国内の既存ワクチンメーカーの参画得て開始へ、UMNは?
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/9583/
 ところが、09年度補正予算の基金による新型インフルエンザワクチン開発・生産体制整備では、公募という方法が採用されました。これによって、秋田市のベンチャーのUMNファーマが参入したり(第1次で採択)、一度インフルエンザワクチンから撤退していた武田薬品工業が再参入したり、注射針の技術を有するテルモがデリバリー技術の開発に乗り出したり(第1次で採択)というように、新顔が現れて業界を活気付かせました。北里研究所がワクチン事業を第一三共との合弁に移管したり、化学及血清療法研究所がグラクソ・スミスクラインと共同研究開発を行ったり、アステラス製薬がUMNファーマと提携してワクチンの販売だけでなく、開発に本格的に乗り出したりといった合従連衡の動きも、この細胞培養新型インフルエンザワクチンのプロジェクトが大きな要因になっていると思われます。
続報、武田薬品がワクチン開発に再参入へ、厚労省の支援事業に採択
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/2263/
 そして、今回の4社の採択となったわけですが、結果だけを見ると少し残念な印象です。6事業者の応募に対して4事業者が選ばれたわけですが、選ばれた4社はいずれも既存のワクチンメーカーでした。武田薬品はインフルエンザワクチンからは一度撤退していますが、麻しん風しんワクチンなどを製造する国内の主要ワクチンメーカー5社の1社には違いありません。主要メーカーの中ではデンカ生研が入っていませんが、同社はそもそも申請をしていなかったもようです。6事業者のうち採択されなかった2社は、前出のUMNファーマとノバルティスファーマです。厚労省では、1.専門的・学術的観点、2.事業継続の観点から評価を行い、厚生労働大臣が、3.行政的観点を含めた総合的な評価を行って最終的な事業の採択を行ったと発表していますが、結果だけを見ると、新規参入を試みた2社が外された格好です。ちなみにUMNファーマは、「選考されなかったのは残念だけど、予定通り粛々と開発を進める。4000万人分の生産をする必要はなくなったので、生産規模は見直す可能性がある」とコメントしています。新規参入は大変ですが、ベンチャーらしく挑戦していってもらいたいと思います。
 もっとも、公募要領では4000万人分以上の製造能力としていたところが、2社については2500万人分以上となるなど、採択された4社が横並びで評価されたわけではないことを付け加えておきましょう。交付を受けられる金額が1社だけ多いのも、「最も実行性が高いと判断された」とのことです。ただし、1000億円以上の税金を投じるプロジェクトの採択理由が、上記の説明だけで十分かというと大いに疑問が残ります。
 いずれにせよ、採択された企業は、実際に2013年度中までに、細胞培養インフルエンザワクチンを開発し、量産できる体制を整備しなければなりません。その時になって、実は技術開発が間に合わなかったというような企業があっては問題ですし、そういう企業を採択した責任も問われるかもしれません。行政の方には、そういう事態にならないようにきちんとフォローアップをしていってもらいたいと思います。
 本日はこのあたりで失礼します。
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                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
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日本分子生物学会が「若手研究助成 富澤純一・桂子 基金」を創設
黒木メイサがロレアル-ユネスコ女性科学者特別賞のプレゼンターに
「BTJジャーナル」2011年7月号に掲載しました。
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 BTJジャーナル2011年7月号を先月末(7月25日)に発行・公開しました。BTJジャーナルは、全文を無料でお読みいただけます。ご一読ください。
 最新号(2011年7月号)のダウンロードはこちらから。
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 “赤”コーナー「キャリア」には2つの話題を掲載しました。日本分子生物学会で初の若手助成に6人が選ばれました。名誉会員の富澤純一・元国立遺伝学研究所所長が寄付した基金で運営されています。また、2011年度第6回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」の受賞者4人が決定し、授賞式が六本木ヒルズで開かれました。特別賞はサイエンス・エンジェル制度を推進する東北大学が受賞しました。
 以下のBTJ/日経バイオテク・オンラインの記事をもとに編集して掲載しました。
公開時間:2011-07-15 08:19:27
日本分子生物学会、若手研究者助成対象者決定、「もっと型破りなテーマを期待したが……」と山本正幸・東大教授
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2008/0355/
公開時間:2011-07-12 19:09:43
第6回ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞の生命科学分野は東大薬の水沼未雅氏と広大理の森田真規子氏、東北大に特別賞
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2008/0308/
※2011年7月号(第67号)のコンテンツを目次にて紹介します。
BTJジャーナル 2011年7月号(第67号)
●CONTENTS
国立大学第1期中期達成評価、ES/iPS研究最前線、分子生物学会若手助成、
女性科学者
P.2 アカデミア・トピックス
国立大学法人等の第1期中期期間
達成状況評価が評価委員会で決定
P.5 リポート
ES/iPS研究で次々と新成果
アカデミアから国産技術
P.11 キャリア
日本分子生物学会の若手助成
ロレアル-ユネスコ女性科学者賞
P.13 BTJアカデミック・ランキング
20日間でヒト肝細胞がトップ