こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 先週、IHIが開いた藻類バイオ燃料事業の記者説明会を取材してきました。神戸大学発ベンチャーのジーン・アンド・ジーンテクノロジーが国内(西日本)見つけだし、育種したボツリオコッカスという藻類を利用して、バイオ燃料を低コストに生産する方法を確立するための共同研究開発会社を設立するというのがその内容です。
IHI、ネオ・モルガン、ジーン・アンド・ジーン、藻類バイオ燃料事業の合弁設立、2年間で4億円投じて共同で技術開発
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2008/0239/
 IHIは2008年に、インフルエンザワクチンの研究開発を進めるベンチャーのUMNファーマに出資し、その後、両社でワクチンを受託製造する合弁会社を設立しています。もともとIHIは、02年に営業譲渡を受けた新潟鐵工所が抗生物質や洗剤用酵素、遺伝子組み換え医薬品などのバイオプラントを手掛けてきたこともあり、その技術をベースにバイオプラント事業の拡大を模索してきました。UMNファーマとの提携はその延長上で、ワクチンなどの医薬品製造用のバイオプラント事業の拡大を狙ったものです。そして今回、藻類バイオ燃料事業への投資を決めたことも、同じ文脈で理解できそうです。
IHIプラントエンジニアリング、抗体医薬、ワクチン市場の拡大視野にバイオプラント事業に注力
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/6284/
続報、IHIプラントエンジ、遺伝子組み換え新型インフルエンザワクチンを国内で開発しているUMNファーマに出資
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/5427/
IHI、インフルエンザワクチン受託生産事業に参入
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/8234/
 IHIがジーン・アンド・ジーンテクノロジーと提携した理由を説明会に出席した出川定男常務執行役員技術開発本部長は、「IHIとして藻類の研究を行ってきたが、ジーン・アンド・ジーンが有する榎本藻が現時点では最も光合成による燃料生産が多いので、事業化を検討することにした」と説明していました。ポイントは、「光合成」です。
 これまでに日経バイオテク・オンラインでも度々報道していますが、現在、米国を中心に藻類由来のバイオ燃料生産を目指すベンチャー企業が数多く設立され、技術開発にしのぎを削っています。米国は国防省が藻類由来のバイオ燃料開発を支援しているほか、航空機業界もジェット燃料への利用に積極的なため、研究開発に資金がうまく回っているようです。一方で、日本でもデンソーやベンチャーのユーグレナなど、幾つかのグループが藻類由来バイオ燃料の研究開発に取り組んでいます。最近日経バイオテク・オンラインに掲載した藻類由来バイオ燃料の記事を以下に紹介しておきます。
Aurora Algae社、オーストラリアに商業規模の藻類培養施設を建設へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/9983/
Solazyme社、藻類由来ジェット燃料を使ったヘリコプターテストが成功
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/9984/
 さて、IHI、ジーン・アンド・ジーンとともに、研究開発の合同会社設立に参画した、微生物や動物などに遺伝子変異を導入するユニークな技術を有するベンチャーのネオ・モルガン研究所の藤田朋宏社長は、会見で「光合成にこだわりたい」と強調していました。藻類なんだから「光合成」なんて当たり前と思われる方もいらっしゃるでしょうが、実は上記に挙げた国内外の藻類由来バイオ燃料の研究グループのうち、幾つかのグループでは光合成ではなく“従属栄養”で増殖する藻類に焦点を当てています。光合成で増殖する際の増殖率に比べて、従属栄養で増殖する際の増殖率は圧倒的に高く、生産効率では比べ物にならないからです。昨年暮れに、ボツリオコッカスの10倍の効率で燃料を生産できるオーランチオキトリウムという藻類がみつかったというニュースが新聞などに掲載されましたが、実はオーランチオキトリウムは従属栄養生物です。
 従属栄養ということは、培地に糖などの餌を入れる必要があります。藤田社長は、「現在の価格では糖は安価だが、将来、食物が不足して糖の価格が高くなると低コストでの生産が難しくなる。燃料の生産に糖を使う以上、燃料を糖より安くすることはできない」と指摘していました。バイオ燃料をいかに安価に生産できるかは、藻類の培養から燃料の抽出に至る全体のシステムをどう設計するかに関わってくることなので、これからの技術開発次第の面はありますが、少なくとも従属栄養で増殖する藻類の場合は、餌の糖をどこから持ってくるかを考えなければ成りません。藻類というだけでは、食料との競合問題を回避できているわけではないのです。その点で、「光合成にこだわる」というコンセプトはよく理解できます。
 もっとも、榎本藻の培養は、現時点では数Lの研究室レベルでの培養槽でしか行っておらず、今後、事業化を検証していく過程では、スケールアップの問題や、屋外の開放系で培養するなら培養条件をどのようにコントロールするか、他の微生物のコンタミをどのようにして避けるか、などなど、課題は山積していそうです。さらに、説明会でIHIの人が言われていましたが、低コスト化を図っていく上では、回収から精製のプロセスの開発が重要になるということです。
 米国発のニュースを見ていると、既に藻類由来のバイオ燃料でジェット機やヘリコプターを飛ばしたりと、日本勢に比べて格段に先行している印象を受けますが、技術レベルでは日本勢は決して引けを取っていないと思われます。藻類の生産地が日本国内に成るかどうかは分かりませんが、日本発で世界的に競争力のあるエネルギーを生産できる日が来ることを期待しています。
 本日はこの辺りで失礼します。
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石川県立音楽堂で若手研究者らが異分野間のシンフォニーを奏でる
5月末の日本分子生物学会第11回春季シンポジウムを「BTJジャーナル」
2011年6月号に掲載
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 BTJジャーナル2011年6月号を先月末(6月24日)に発行・公開しました。BTJジャーナルは、全文を無料でお読みいただけます。ご一読ください。
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 “赤”コーナー「キャリア」は、日本分子生物学会(MBSJ)の第11回春季シンポジウムを取り上げました。「分子生物学の明日―金沢シンフォニー」というテーマで2011年5月25~26日に金沢市で開催され、390人が集まりました。会場となった石川県立音楽堂で若手研究者らが異分野間のシンフォニーを奏でました。第12回は2012年4月に山梨県の石和温泉で開催されます。
 この記事は以下のBTJ/日経バイオテク・オンラインの記事をもとに構成・編集しました。
日本分子生物学会の第11回春季シンポジウムが金沢で開幕、350人の参加見込む
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/9257/
MBSJ第12回春季シンポは2012年4月に山梨県で、テーマは「トランスレーショナル分子生物学~新世代への知の継承~」
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/9264/
MBSJ春季シンポ、オーファン酵素の基質を次々解明、中山敬一・九大教授が質量分析計12台で新プロテオミクス
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/9387/
東大、X線結晶解析と化合物ライブラリーでオートタキシン阻害剤、がん細胞の遊走阻止薬へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/9481/
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 ぜひご一読いただければと思います。BTJ編集長 河田孝雄
※2011年6月号(第66号)のコンテンツを目次にて紹介します。
BTJジャーナル 2011年6月号(第66号)
●CONTENTS
東日本大震災と夏期節電対策、エピジェネティクス研究会 MBSJ春季シンポジウム
P.2 アカデミア・トピックス
7月1日からの夏期節電対策
理研は独自技術も実用化
P.6 リポート
熊本に「アカデミック交差点」
エピジェネ研究会に400人
P.9 キャリア
金沢で研究者シンフォニー
MBSJ春季シンポに390人
P.12 BTJアカデミック・ランキング
山中教授「魔法の因子」がトップ
P.14 広告索引