ウィンブルドンは昨夜、ジョコビッチがナダルを倒し、初のランキング一位と合わせ、チャンピョンシップを制しました。ナダルはジョコビッチに弱く、ジョコビッチはフェデラーに弱い、そしてフェデラーはナダルにからきし駄目と、男子テニスのトップスリーはまるでジャンケンのような状況にあります。ジョコビッチは極めて好調で、球への反応はナダルを上回っていましたが、フェデラーがツォンガに敗れるという運の良さも、味方しました。
 ファミリー席にはジョコビッチの弟がコーチや親族と混じって座っていましたが、お兄さんのファインショットに誰よりも早く、弟が立ち上がり拍手をするのを見ると、ジョコビッチの一族には素速さの遺伝子があるのではないかとすら疑ってしまいます。暫くはジョコビッチの天下が続き、フェデラーとナダルの時代が終わりを告げる可能性があります。男子テニスは世代交代、女子テニスはグランドスラム大会の優勝者が全部異なる戦国時代を迎えました。週末、ウィンブルドンに出場した女性コーチの打ち込みを受けましたが、試合というより虐待、虐待に近い惨状でした。これより数100倍も凄いかと思うと、ウィンブルドンが遥か遠くに霞んでしまします。この酷暑では御身大切が重要です。
 さてバイオです。
 かつて、獲得形質は遺伝するか?という論争が繰り広げられました。ラマルクの獲得形質は遺伝するという説に対して、その反論が結局は勝利を収めたのです。私たちが学んだ教科書でもキリンの首が長いのは、上方にある葉っぱを食べるために獲得された形質が遺伝した訳ではなく、ランダムな突然変異によって生じた首の長いキリンが、長い時間を経た生存競争により、子孫を残したと解釈されていました。
 しかし、最近ではこの考え方に異論が出始めました。獲得形質は遺伝するのではないか?少なくとも、子孫の遺伝はともかく、細胞が環境情報を獲得して、ゲノムや染色体構造に化学的修飾が施され、嬢細胞にその化学修飾情報は遺伝する。最小限、DNAのメチル化が分裂した嬢細胞にも伝わることは確実です。こうしたエピジェネティックスの変化が、抗がん剤の有力な標的となる。これも少なくとも、骨髄異形成という全がん状態の難病の治療薬として、DNAのメチル化阻害剤は商業化されています。今後の挑戦は抗がん剤として、DNAメチル化阻害剤が有効なのかの検証です。エーザイはDNAメチル化阻害剤「DACOGEN」を、急性骨髄性白血病薬として臨床試験中で、フェーズ3臨床試験のデータを、6月の米国臨床腫瘍学会で発表、プライマリーエンドポイントの全生存率で、既存の支持療法と統計的な有意差を得れらませんでしたが、1年後のフォローアップで全生存期間を2.7か月延長、支持療法と統計的な有意な生存期間の延長を記録しました。最初の臨床試験の設計に問題があった模様ですが、同社が対象とする高齢者の急性骨髄性白血病には有効な治療薬がなく、エーザイは今回の臨床試験成績を基に、近く米国で抗がん剤として適応拡大申請する姿勢です。
 今年は1月に日本新薬がDNAメチル化阻害剤「ビダーザ」を骨髄異形成症候群の治療薬として販売認可を得ております。7月1日にはMSDがヒストン・デアセチラーゼ(HDAC)阻害剤というもう一つのエピジェネティックス新薬を、わが国でも皮膚T細胞リンパ腫の治療薬として販売認可を得ています。5年以上、米国からは遅れていますが、我が国でもエピジェネティック創薬の実用化期に入ったと考えています。
 但し、現在のエピジェネティックス創薬の問題点はいずれも、特定の遺伝子の化学修飾の制御を実現しておらず、特異性が低い点。これによって副作用などの潜在的なリスクも高まります。また、ドースリスポンスにも問題があり、低用量の使用で有効性が示され、高用量では作用が却って減弱するなど、従来にない臨床開発の難しさも内包しています。加えて、がん剤のところいずれも患者数が限定される疾患であり、一般的ながんや精神疾患などの大市場を狙うには、エピジェネティックスの特異性の高い阻害剤の開発が不可欠です。なお且つ、それが阻害する創薬標的は幅広い疾患で病的に活性化している条件も満たさなくてはなりません。
 エーザイは、今年3月11Hいに米Epizyme社から導入したEZH2ヒストンメチルトランスフェラーぜの阻害剤が第二世代のエピジェネティックス新薬となると考えています。より特異性が高く、がん発生に深くかかわっているエピジェネティックス関連分子が、間違いなく次世代の新薬開発の標的分子になると私も思っております。同社の臨床試験結果は大いに注目しなくてはなりません。
 この他、プロテアソーム阻害剤とHTAC阻害剤などの併用試験も進んでおり、作用機構の異なる抗がん剤の併用療法の開発にも、エピジェネティックス新薬がベースとなる可能性が出てきたと考えております。がんも必死に生き延びようとしています。人間もあの手この手でがん撲滅を図らなくてはならないのです。まさに、総力戦です。
 現在、メキシコで開催されているサッカーU17のワールドカップも総力戦です。今晩8時から日本でも中継があるようですが、残念、強敵ブラジルに惜敗した模様です。今晩の楽しみを奪ったかも知れませんが、お伝えせずにはいられませんでした。どうぞご容赦願います。
 今週も、暑そうですが、どうぞお元気で。
             Biotechnology Japan Webmaster 宮田 満
============================================================================
<<BTJブログWmの憂鬱>> 
最新一週間の記事  http://blog.nikkeibp.co.jp/bio/miyata/ 
============================================================================
2011-06-29   
BTJブログWmの憂鬱2011年06月29日、ぐらつくサロゲートマーカーとしてのpCR、代替となる予後予測のバイオマーカーはまだ見つからず
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2008/0039/
----------------------------------------------------------------------------
2011-06-27    
BTJブログWmの憂鬱2011年06月27日、厚労省の薬事戦略相談の実施要項が決定、努力は認めるがまたも漸進的改革留まり
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/9968/
============================================================================
「BTJジャーナル」2011年6月号を先月末に発行・公開
東日本大震災と夏期節電対策など掲載
BTJジャーナル」のダウンロードはこちらから
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/
アカデミア向けの有料サービス「BTJアカデミック」はこちらから
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/senmonn/btj_aca.jsp
============================================================================
 BTJジャーナル2011年6月号を先月末(6月24日)に発行・公開しました。BTJジャーナルは、全文を無料でお読みいただけます。ご一読ください。
 最新号(2011年6月号)のダウンロードはこちらから。
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/index.html#btjj1106
 巻頭の“緑”コーナー「アカデミア・トピックス」は、東日本大震災のバイオ研究への影響リポート第4報を掲載しました。2011年3月11日の巨大地震と津波による原子力発電所の事故が、日本の電力需給に甚大な影響を及ぼしています。東京電力などの管内では瞬間最大使用電力の制限が7月1日から始まります。世界における競争が激しくなる一方のバイオテクノロジー研究が滞ることがないよう工夫が求められています。今号では理化学研究所の横浜研究所や筑波研究所の取り組みを中心に紹介します。
 この記事は以下のBTJ/日経バイオテク・オンラインの記事をもとに構成・編集しました。
続報、【節電対策(1)】夏期休業日の設定を理研とAISTが相次ぎ発表、AISTに3割削減のポスター
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/9665/
【節電対策(2)】理研横浜研、第2次補正予算でコジェネ整備へ、シーケンサー2台稼働分
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/9689/
【節電対策(3)】つくば市で6月17日に「節電大会」、グリーンカーテン用ゴーヤ苗を1000人にプレゼント
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/9714/
【節電対策(4)】シーケンス受託実績が前年比1.8倍の理研横浜研オミックス領域、27から30%の節電達成へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/9745/
【節電対策(5)】理研横浜研SSBC領域は36%節電、NMR稼働は34台のうち9台減らす
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/9748/
【節電対策(6)】理研筑波研、実験動物施設の節電に日立プラントと特許技術、第2次補正でライフライン強化
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/9772/
 以上の記事は、全文をご覧いただくには日経バイオテクの有料読者になっていただく必要があります。
 一方、BTJジャーナルの記事は、次のサイトでPDFファイルをダウンロードすると、記事全文をご覧いただけます。
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/
 ぜひご一読いただければと思います。BTJ編集長 河田孝雄
※2011年6月号(第66号)のコンテンツを目次にて紹介します。
BTJジャーナル 2011年6月号(第66号)
●CONTENTS
東日本大震災と夏期節電対策、エピジェネティクス研究会 MBSJ春季シンポジウム
P.2 アカデミア・トピックス
7月1日からの夏期節電対策
理研は独自技術も実用化
P.6 リポート
熊本に「アカデミック交差点」
エピジェネ研究会に400人
P.9 キャリア
金沢で研究者シンフォニー
MBSJ春季シンポに390人
P.12 BTJアカデミック・ランキング
山中教授「魔法の因子」がトップ
P.14 広告索引