こんにちは。第2、第4金曜日を担当する日経バイオテク副編集長の河野修己です。
 昨日から東京・お台場で開催されている「日本がん分子標的治療学会学術集会」を取材しています。本日は梅雨の合間の快晴。会場のホテル日航からの眺望はまさに絶景です。
 本日の午前中のシンポジウムでは、理研ケミカルゲノミクス研究グループの吉田稔ディレクターの講演を拝聴していました。不勉強ながら、吉田氏らの研究グループが10年以上前に、第一世代のHDAC阻害薬の候補化合物を世界に先駆けて創製していたことを初めて知りました。
 HDAC阻害薬はエピジェネティクスを標的とした分子標的薬で、血液がんなどの治療薬として開発競争が激化しています。米国の研究グループも構造がよく似た化合物を同時期に見つけていたのですが、こちらは世界初のHDAC阻害薬として結実しました。しかし、吉田氏の研究成果の方は、製品化までに至らなかったようです。
 「基礎研究には強いが臨床応用になると成果が出ない」。ライフサイエンス分野で取材しているとしょっちゅう聞く話ですが、その実例をまた見つけてしまいました。現在、米臨床腫瘍学会(ASCO)の取材結果をまとめていますが、ファーストインヒューマン試験として発表される化合物の中で、日本発の化合物のあまりの少なさには愕然とします。それだけに、日本で創製され、開発も順調に進んでいる以下のような品目が貴重に見えてきます。
訂正、協和発酵キリン、ポテリジェント化抗体第一号申請、個の医療化も実現
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/8652/
富山化学、インフルエンザ治療薬ファビピラビルを承認申請
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/8069/
ASCO2011、エーザイのマルチキナーゼ阻害薬レンバチニブ、RASに変異があると高い効果
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/9542/
【解説】日本発のブロックバスター候補「Latuda」、米国で承認
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/4731/
 さて、6月16日には医療イノベーション会議の第2回会合が開催されました。医療イノベーション会議の第2回会合が開催、創薬支援機構を発足させる方向で議論
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/9827/
 議長である枝野官房長官以下、関連省庁の副大臣や政務官、がん研究センターやPMDAの理事長、製薬協会長などが一同に会しました。この日の議論のポイントの1つが、創薬支援機構を設立する方向で議論がまとまったことです。実現すれば、日本が不得意な基礎研究から実用研究への橋渡しが、劇的に改善される可能性があります。また、大きくは扱われていませんが、イノベーションを正当に評価する制度が必要との方針も示されました。つまり、画期的な医薬品や医療機器にはこれまでよりも高い保険価格を付けるということです。
 会議の後の記者会見で、医療イノベーション推進室の中村祐輔室長に聞いてみました。「創薬支援機構は関連省庁から当該機能を引きはがして統合しなければならず、薬価制度の問題は中医協を説得しなければならない。本当にそんなことができるのか」と。中村室長の回答は、「我々ができるのは提言をつくるところまで。あとは政治がどこまでやるかだ」。
 悲しいかな現時点で、医療イノベーション推進室には予算権限がありません。さらに、医療イノベーション会議、医療イノベーション推進室がよって立つ政治的基盤も、この数カ月ですっかり流動的になってしまいました。医療イノべーション会議で扱われている課題は、解決までに数年、あるいは10年以上かかるものばかりです。どのような政局になっても、ここでの議論を霧散させることのないよう、日本の国会議員に十分な思慮が備わっていることを願うばかりです。