こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 先週、東京大学先端科学技術研究センターと富士通が開催した記者会見を取材してきました。詳細な内容は、日経バイオテク・オンラインで記事にしたのでお読みいただきたいですが、簡単に言うと東大先端研が創薬標的となるたんぱく質を同定し、それに対して富士通がIT創薬で化合物を設計し、最適化に近いところまでin silicoでやってしまってリード化合物を決めて、製薬企業に引き渡そうというプロジェクトです。
東大先端研、富士通と共同でIT創薬の基盤整備へ、製薬企業巻き込み、まずは2年間で1つのリード化合物の創出目指す
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/9619/
 東大先端研の児玉龍彦教授らのin silicoで抗体医薬を設計するという内閣府の最先端研究開発支援プログラムのプロジェクトで、児玉教授らが富士通のスパコンを購入したところから付き合いがはじまり、今度は低分子化合物の創薬を目指そうということで今回の共同研究が持ち上がったということです。抗体医薬のプロジェクトには、中外製薬、富士フイルムなどの製薬企業が参加していますが(富士フイルムを“製薬企業”と書いても、もう違和感を感じなくなりました)、今回の低分子のIT創薬プロジェクトでも製薬企業の参加を求めているということです。
東大先端研、スパコン占有してシミュレーションで抗体を設計
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/2945/
 富士通といえば以前から製薬企業向けのソフトウエアの開発に力入れており、これまでにも何度も日経バイオテク・オンラインで報道してきました。ずっとバイオIT事業を引っ張ってこられた小倉誠さんも記者会見に参加され、なぜ富士通がバイオITに力を入れるのかについて、熱のこもった説明をされていました。本来はもう少し安価なコンピューターでもリード化合物を創出できるようなシステムにしたいようですが、「とにかく今回のプロジェクトではスパコンを駆使してリード化合物の創出に集中する」と強調されていたのが印象的です。
富士通、活性高い化合物の設計法「OPMF」でIT創薬に力を入れる
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2003/6020/
富士通、医科研、バイオ情報処理に数式処理を利用した新手法開発、「ものづくり」の制御技術を生かす
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2003/3399/
 一方、創薬の標的については児玉教授によれば、先端研ではこのところエピジェネティクスの研究に力を入れているので、がんやメタボリックシンドロームに関連するエピジェネティクスに関わる酵素などを考えているということでした。たまたまですが、金曜日に東大先端研の研究者らによるエピジェネティクス関連の論文が発表され、日経バイオテク・オンラインで記事にしたので、そちらもお読みください。
東大先端研、転写因子GATA2の標的因子はendomucin、ChIP-seqとエピジェネの成果を論文発表
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/9621/
 児玉教授の話の中で興味深かったのは、米国の大手ヘッジファンドD.E.Shaw & Co.社のファウンダーであり、Obama大統領の科学技術顧問でもあるDavid E. Shaw氏が、D.E.Shaw Research社の最高科学オフィサーとして、分子動力学計算で世界最速マシンであるAntonを駆使してたんぱく質のシミュレーションを行っているという話です。そのShaw氏が、in silico創薬で有名な米Vertex Pharmaceuticals社と組んで、昨年12月に開催した分子動力学の創薬システムの会議には、米Pfizer社、スイスNovartis社、英GlaxoSmithKline社の研究者らが参加したほか、Bill & Melinda Gates財団のBill Gates氏がコーディネーターを務めたということです。
 in silico創薬というと、製薬企業の中にはその実力に疑問符を付ける人も多いかもしれません。確かに創薬には、研究者の勘やノウハウによる要素も大きく、計算だけで答えが出るというような単純なものではないでしょう。児玉教授もその点について、「だから製薬企業の研究者にプロジェクトに参加してもらって、in silicoで設計している段階で意見をしてもらおうと考えている」と説明されていました。いずれにせよ、世界の趨勢として創薬におけるコンピューターシミュレーションの可能性が大いに注目されているのは間違いありません。今回の東大先端研と富士通のプロジェクトから果たして本当にハイペースでリード化合物が生み出されるかどうかは今後を見守らなければ何ともいえませんが、最先端のトレンドを把握するためにも、むしろ製薬企業は積極的に参加してみてもいいのではないかと思われます。
 最後に、このメールマガジンでも何度か紹介してきた分子標的薬のBTJプロフェッショナルセミナーですが、6月17日午後に東京・品川のコクヨホールで開催します。お申し込みは明日の午前中までですので、お忘れの方は急ぎお申し込みください。皆様の参加をお待ちしています。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/110617/
 本日はこの辺りで失礼します。
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                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
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東日本大震災からの復旧と構造生物学、
BTJジャーナル2011年5月号に掲載
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アカデミア向けの有料サービス「BTJアカデミック」はこちらから
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 BTJジャーナル2011年5月号を先月末(5月25日)に発行・公開しました。BTJジャーナルは、全文を無料でお読みいただけます。ご一読ください。
 最新号(2011年5月号)のダウンロードはこちらから。
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/index.html#btjj1105
 巻頭の“緑”コーナー「アカデミア・トピックス」は、東日本大震災のバイオ研究への影響リポート第3報として、震災の影響を受けている構造生物学の記事をまとめました。たんぱく質のX線結晶構造解析などの東日本の拠点である高エネルギー加速器研究機構(KEK)放射光施設(PF)は、地震被害からの復旧を急ピッチで進めています。原子力発電所の事故による電力供給不足への対応も迫られています。兵庫県のSPring-8など全国の放射光施設がKEK-PFを支援しています。
 5月13日には、PFの運転停止期間中に支援する共同利用実験の実施内容をKEKが発表しました。SPring-8が受け入れる実験課題の予定は104件で、そのうち71件が生命科学分野。SPring-8内にある大阪大学蛋白質研究所のBL44XUでも9件の課題が生命科学分野です。
 以下のBTJ/日経バイオテク・オンラインの記事2本をもとに編集しました。
BTJジャーナル2011年5月号のP.2~3にてご覧ください。
【震災からの復旧】バイオ課題のニーズ大、2011年秋からの実験再開を目指すKEK放射光施設(PF)がユーザーアンケート
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/8643/
【震災からの復旧】結晶構造生物学の東日本拠点、高エネ研PFは通電チェック開始、2011年秋に実験再開へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/8642/
 BTJジャーナルは、次のサイトでPDFファイルをダウンロードすると、記事全文をご覧いただけます。
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/
 ぜひご一読いただければと思います。BTJ編集長 河田孝雄
※2011年5月号(第65号)のコンテンツを目次にて紹介します。
BTJジャーナル 2011年5月号(第65号)
●CONTENTS
大震災からの復旧と構造生物学 KEK-PF 健康栄養研究の論文分析 
ドイツ・イノベーション・アワード 東レ科学技術賞・研究助成
P.2 アカデミア・トピックス
大震災からの復旧急ピッチ
節電への対応にも苦慮
P.4 リポート
NISTEPが健康栄養研究分析
日本の歴史的変遷も解明
P.8 キャリア
ドイツ・イノベーション賞
東レ科学技術賞、研究助成
P.16 BTJアカデミック・ランキング
NEDO助成金の不正受給がトップ
P.17 広告索引