こんにちは。第2、第4金曜日を担当する日経バイオテク副編集長の河野修己です。
 読者の皆さんは3月6日に実施された、医薬品・医療機器の審査手続きに関する規制仕分けでの議論をお聞きになったでしょうか。私はインターネットの動画サイトでの中継を視聴しました。
 仕分け側の出席者の中には東京女子医大の岡野教授、東大の小野准教授、癌研究会の土屋顧問などおなじみの顔がいました。主に発言していたのは、岡野教授と小野准教授でした。議論の様子は下記の記事にまとめていますので、是非、お読みください。審査手続きに関する規制仕分け詳報、岡野・東京女子医大教授らが具体論持ちかけるも議論深まらず
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/7702/
 さて、議論の中で唖然とするような場面がありました。岡野教授は日本の再生医療が以下に遅れているかを説明するために、「日本で承認された再生医療は人工皮膚(07年10月に承認されたJ-TECの自家培養表皮のことです)だけ。それも海外と比較して30年遅れだ。米国、韓国、欧州などでは数多くの再生医療製品が利用可能となっている」と発言しました。これに対して行政側が、「米国で人工皮膚が承認されたのは昨年で、日本は決して遅れていない」と反論したのです。
 事実関係が全く異なっている訳ですから当然、司会者はどういうことか確認したのですが、行政側は「米国で昨年承認されたのは自家再生医療で、古くからある製品は同種再生医療だ」と答えたのです。専門家以外、この発言内容の意味するところはすぐには理解できないでしょうから、そのまま議論は進行してしまいましたが、この発言は嘘をついたと非難されてしかるべき内容だと思います。
 岡野教授の指摘した点は、再生利用の実用化において日本は決定的に遅れを取っているということです。再生医療を自家と同種に分けて、それぞれの状況を議論しようとしてないことは明白です。にもかかわらず行政側は、専門用語を知らない出席者や一般国民が、「再生医療は海外と比較してそれほど遅れていないのか」と誤解しかねない説明を行いました。
 日本における最先端の医薬品、医療機器、再生医療の実用化がどうしようもなく立ち後れていることは、様々な場で具体的なデータにより指摘されています。その現実は否定しようがありません。私が憂慮するのは、行政側があのような発言をするのは、この立ち遅れをあらゆる手段を取って変えるべきだと思っていないからではないかという点です。
 医薬品や医療機器の開発に取り組むベンチャー企業や研究者の話を聞くと、PMDAや厚労省といった規制当局に対して、共通した認識を持っていることに気が付きます。それは、「海外の規制当局はどうやったらイノベーションを実用化できるかを一緒に考えてくれるが、日本の規制当局にはそうした姿勢はない」という点です。今回の規制仕分けでの議論を聞いていて、ベンチャー企業や研究者がそう感じるのも仕方がないなという印象を持ちました。議論の中で行政側から、「たしかに大変な状況ですね。もっと何ができるか早急に検討しましょう」といった発言は全く聞かれなかったのですから。
 当局が現状を変えようという意思を持たなければ、いくら審査官を増員しようと、薬事戦略相談を導入しようが、イノベーションの実用化を加速する面において、何の効果もないでしょう。
 
日経バイオテク副編集長 河野修己