こんにちは。水曜のBTJ/HEADLINE/NEWSを担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 ここ何回か、水曜のSOLUTIONSで取り上げてきた最先端・次世代研究開発支援プログラムについて、採択者が公表されました。採択者の顔ぶれはと言うと、編集部の中で担当分野を分けていたりする関係もあるのですが、私が実際に取材したことをはっきり記憶している人は10人くらい。日経バイオテク編集長という立場ながら、これからが期待される人たちには十分にアプローチできていないことをちょっと恥じ入っている次第です。採択者の決定がずれ込んだために、人生設計の変更を迫られた研究者も中にはいると聞きますが、いずれにせよ採択された以上は期待に応える成果を出すよう、頑張っていただきたいものです。
内閣府、最先端・次世代プログラムで329課題を採択、39歳以下が37%を占める
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/7035/
 前回のメールで書けなかった日本公定書協会のワクチンのセミナーでの話を少し紹介させていただきます。
 このセミナーは、国立病院機構三重病院名誉院長の神谷齊先生、元米食品医薬品局(FDA)で、米Merck社のメディカルアフェアーズおよび医療政策担当のエグゼクティブ・ディレクターを務められたElaine Esberさん、米Pfizer社のワクチンクリニカルリサーチ担当のシニアバイスプレジデントのWilliam Gruberさんと私がそれぞれ40分ぐらいずつ講演をさせていただき、その後、日本公定書協会の土井脩理事長、最上紀美子研修事業部長の司会でディスカッションをさせていただきました。神谷先生はワクチンの大家というだけでなく、制度改革などで本当にご尽力されている方ですし、Esberさんは世界保健機関(WHO)やワクチンと予防接種のための世界的同盟(GAVI)の活動に関わってワクチンの途上国などへの普及に務めてこられた方です。Gruberさんも前Wyeth社時代から10年以上ワクチンの研究開発にかかわっておられ、2000年ごろには日本でインフルエンザの経鼻投与ワクチンを開発しようとして当局と交渉した経験もあるという方です。そんな方々に混じって発現する機会を与えてもらっただけでもありがたいことですが、せっかくご指名いただいたのでいろいろ考えを述べさせていただきました。
 その中で紹介させていただきたいことが2つほどあります。日本のワクチン市場は、600億円ぐらいで停滞していましたが、07年に厚生労働省がワクチン産業ビジョンをまとめ、政府も支援する形でワクチン市場を活性化させる方針を打ち出してから大きく動き出して、我々の試算では1200億円を超えるぐらいにまで拡大しました。2010年度の補正予算では、Hibワクチン、HPVワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンへの助成が決まったため、市場はさらに拡大を続けるでしょう。世界的に見てもワクチン市場は医薬品市場全体の年平均成長率の倍以上の拡大を続けています。
 ただ、日本では「ワクチンギャップ」という言葉が示す通り、他の先進国に比べて新しいワクチンの導入が遅れています。その背景にはさまざまな問題がありますが、予防接種法の中で定期接種として位置付けられ、ほぼ無償に近い形で接種を受けられるワクチンが一部に限られていることも大きな原因になっています。定期接種以外のワクチンは、任意接種と呼ばれていますが、多くの場合は自己負担しなければ接種を受けられず、国の勧奨もないので接種率は低い状態です。臨床試験などに資金を投じてワクチンを開発しても、任意接種では市場も小さく投資を回収できないので、メーカーがワクチンの開発に踏み切れない一因になっています。
 では、なぜ全てのワクチンを定期接種にできないのか。恐らくは予算が問題になっているものと思われますが、そもそも日本のワクチン市場が1200億円程度です。日本で承認されているワクチンをほぼ全て定期接種にしたところで5000億円程度だとのことです。「子供手当てなんかで税金をばら撒くなら、全てのワクチンを定期接種にした方がよほど役に立つ」との声が会場から出ていましたが、全くその通りです。「子供手当てを返上してワクチンを全て定期接種に」という署名を集めたら、瞬く間に集まるんじゃないかという気がします。
 もう1つ興味深かったのは、ワクチンの互換性の問題です。従来、DPTワクチンならDPTワクチンで、メーカーが違っても効き目は同じで、1回目と2回目で異なるメーカーのワクチンを接種しても問題がないとされてきました(実際には有効成分の量などは異なるのですが)。ところが、現在開発中のワクチンを見てみると、例えば同じHPVワクチンでもグラクソ・スミスクラインが承認を取得したサーバリックスは2種類のウイルス型の抗原、MSDが申請中のガーダシルは4種類のウイルス型の抗原を有すると言った形で、中味に違いがあります。グラクソとMSDが日本で開発しているロタウイルスワクチンも、抗原の種類や製品のコンセプトは違います。国内メーカーが開発しているDPTと不活化ポリオウイルス(IPV)の混合ワクチンも、IPVの株がまちまちです。
 つまり、同じ「○○ワクチン」でも、メーカーによって抗原などの内容は異なり、1回目と2回目で同じメーカーのものを打たなければ効果が得られないといった事態が生じる可能性があります。これまで「○○ワクチンなら同じ」と認識してきた臨床現場がこの違いを受け入れられるかどうか。神谷先生によると、小児用の肺炎球菌ワクチンを受けに来た子供に、高齢者用の肺炎球菌ワクチンを打ってしまったといった事態が生じているとのことで、今後、こうしたトラブルが拡大するのは必至です。行政、メーカー、医療機関を挙げて、新しいワクチンの時代に対応していくことが不可欠だと思います。個人的には国民の間にワクチンへの関心が高まっているわけですから、これを機会に国民自身がメーカーによって各ワクチンにどのような違いがあるのかを理解し、メーカーやブランドを指定して予防接種を受けるようになるべきだと思いますがいかがでしょうか。
 本日はこの辺りで失礼します。
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                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
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バイオ識者からお寄せいただいた「2011年新春展望」
アカデミア寄稿の一部を「BTJジャーナル」2011年1月号に掲載
2011年は節目の年、その意味合いや背景が浮き彫りに
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 BTJジャーナル2011年1月号を先月末に発行・公開しました。全文を無料でお読みいただけます。お楽しみください。
 最新号(2011年1月号)のダウンロードはこちらから。
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/index.html#btjj1101
 巻頭の“緑”コーナー「アカデミア・トピックス」は今号では、2010年末に寄稿いただいたバイオ識者の「2011年新春展望」の一部を掲載しました。27人からお寄せいただいた中から、特に読者からのアクセス数が多く、かつアカデミアと関係が深い方々6人の寄稿文を掲載させていただきました。2011年は節目の年といわれますが、バイオとの関連でその意味合いや背景が浮き彫りになったといえそうです。2011年1月14日に都内で開催され、560人が集まったバイオ関連団体合同賀詞交歓会の写真も掲載しました。
 BTJジャーナルの誌面は、次のサイトでPDFファイルをダウンロードすると、全文をご覧いただけます。
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/
 ぜひお楽しみください。
                          BTJ編集長 河田孝雄
※2011年1月号(第61号)のコンテンツを目次にて紹介します。
BTJジャーナル 2011年1月号(第61号)
●CONTENTS
新春展望 独Berlinサミット 上原賞 安藤百福賞
P.2 アカデミア・トピックス
バイオ識者の新春展望
バイオ賀詞交歓会に560人
P.7 リポート
BerlinでWorld Health Summit
京大や順天堂大の主催シンポも
P.10 キャリア
上原賞と安藤百福賞
P.12 BTJアカデミック・ランキング
2010年間アクセスTop50も発表
P.14 奥付け