こんにちは。第2、第4金曜日を担当する日経バイオテク副編集長の河野修己です。
 非小細胞肺がん治療薬「イレッサ」の副作用被害を巡る第1審裁判が最終段階を迎えています。東京地裁と大阪地裁が原告、被告双方に和解案を示し、被告である国とアストラゼネカがそれを受け入れるかどうかが注目されて連日大きく報道されているので、皆さんもご存じだと思います。
 和解案の概要を見ると、裁判所はイレッサ発売当初の添付文書の記載内容や、アストラゼネカの資料に問題があったとして、被告側に解決金を支払うように求めています。回答期限は1月28日。このメールマガジンが届く頃には結論が出ているはずですが、被告側は和解拒否の方針のようです。また、がん関連学会や医療機関も和解案を批判しています。
イレッサ訴訟の和解勧告、学会などが見解、「国や製薬企業の責任を問うべきではない」
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/6403/
 さて、和解案には論点として入っていないようなのですが、この裁判ではイレッサの副作用に関する情報提供が適切であったかどうかという点に加えて、イレッサを承認したことが妥当だったのかどうかという点も争われていました。和解するにしろ、和解を拒否して判決になるにしろ、決着させるならこの点に対する判断を明確にしておくべきだと考えます。
 審査報告書を読むと、イレッサの有効性は国内外で実施されたフェーズIとフェーズIIのデータで検証されています。主要評価項目は奏効率で、全生存期間(OS)ではありません。また、フェーズIIIは承認時点では完了していませんでした。そのためイレッサの承認には、「本薬の有効性及び安全性の更なる明確化を目的とした十分なサンプルサイズを持つ無作為化比較試験を国内で実施すること」という条件が付きました(現在は抗がん剤の承認申請でも、原則的にフェーズIIIのデータが求められます)。
 裁判で原告側は、「抗がん剤は大規模比較試験でOSを延長しなければならない。イレッサは承認後のフェーズIIIでこの証明ができておらず、すぐに承認を取り消すべき」と主張していました。一方、被告側は、「奏効率は、OSのサロゲートマーカーとして意味がある」と反論していました。この論点は有用な抗がん剤とは何かを考える上で本質的な問いかけであり、この裁判は第三者による判定が聞ける貴重な機会なのです。
  日経バイオテク副編集長 河野修己