こんにちは。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 先週、日本公定書協会が開催した薬害教育のセミナーを聴講しました。3日間にわたるセミナーを最初から最後まで聞くことはできませんでしたが、出たり入ったりしながら幾つかの講演を聞くことができ、いろいろと考えさせられました。
 ジフテリア予防接種禍やサリドマイド、スモン、薬害エイズ、薬害肝炎と、歴史を振り返ると何とも悲惨な薬害事件が日本で何件も発生したことを再認識させられました。ただ、その経緯を聞くと、何でそんなことがまかり通ったのかということが背景にある場合も少なくありません。現在とは海外の情報を入手するのが格段に困難だったりしたこともあるのでしょう。また、薬害事件が起こるたびに薬事制度が見直されてきたので、今となっては常識的に考えられないと思える部分があったりするのかもしれません。
 しかしながら、現在の制度や仕組みの下で、同じことが二度と起こらないかというと、決してそう言い切ることはできません。「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」が2010年4月に最終提言をまとめ、それに基づいた制度改革が現在も進められているということでしたが、その取り組みにも課題があるということを強く認識させられました。
 とりわけ、私が強く意識しなければならないと感じたのは、メディアが薬害の被害拡大などに時として加担してきたということです。スモンでは、感染症原因説を大々的に報じたために、何人もの人が絶望して自殺していったと知らされました。イレッサの承認前の過熱した報道が、医薬品に対する過度な期待を促し、慎重な使用の妨げとなったかもしれません。
 我々はプレスリリースなどを鵜呑みにしがちですが、基になった学会発表データなどにアクセスすると、企業が作成したプレスリリースとは異なる内容が記されていたりすることも経験します。2006年12月にPubMedで公表され、アウトカムが統計学的に有意でなかった72の論文のうち、論文タイトルの18.0%、要約の結果(results)の37.5%、要約の結論(coclusion)の58.3%に「spin」があったとする論文(JAMA. 2010;303(20):2058-2064.)が存在することも知りました。spinというのは、「意図された解釈」で、「曲解」といえばいいでしょうか。こうしたものを我々は見抜くことができるのでしょうか。我々にできることは何かを考えながら、日経バイオテクはより真摯なメディア運営に務めていきたいと思います。
 2010年に私が書くメールマガジンはこれが最後となります。2011年は日経バイオテクが創刊して30周年を迎える年です。日本のバイオ産業が着実に発展していくために、来年もさまざまな取り組みを行っていきたいと考えています。
 また、Biotechnology Japanのサイトでは、2011年の正月も、識者による新春展望など、さまざまなイベントを用意していますので、そちらもぜひごらんください。
 それでは皆様、よいお年をお迎えください。
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                     日経バイオテク編集長 橋本宗明