こんにちは。第2、第4金曜日を担当する日経バイオテク副編集長の河野修己です。
 筋力が徐々に衰えていくミオパチーの一種で、遠位型ミオパチーという疾患があります。患者数が比較的多く一般に良く知られている筋ジストロフィーに良く似た疾患ですが、遠位型ミオパチーの場合、国内の患者数は300程度しかいません。筋ジストロフィーとは異なり、大人になってから発症します。有効な治療薬はなく、患者は寝たきりになるのを待つしかないのが現実です。
 この遠位型ミオパチーの原因は解明されています。特定の遺伝子に変異があり、体内でシアル酸が十分に産生されないことが原因です。疾患モデルマウスを使用した実験では、シアル酸を投与することで筋力が改善されることが確認されています。
 そこで、医師主導治験によるシアル酸補充療法のフェーズIが、東北大学で始まることになりました。使用するGMPグレードのシアル酸は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の財政的支援を受けて、ノーベルファーマが供給します。
遠位型ミオパチーの治療薬、東北大が医師主導で治験を開始へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/4812/
国立精神・神経医療研究センター、超希少疾病の遠位型ミオパチーの新規治療法の臨床研究を計画
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/1272/
 しかし、このプロジェクトには大きな課題があります。フェーズII以降の治験を実施するためのスポンサーがまだ見つかっていません。
 ベンチャーのノーベルファーマには、自力でフェーズII以降の開発費を負担する体力はありません。あまりに患者数が少ないため、大手製薬企業が治験に乗り出すことも期待できません。シアル酸は海外でも未承認であるため、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」の検討対象にもなりません。文科省や厚労省も、医薬品の後期開発を競争的資金で行うことには否定的です。後期開発は、企業が担うべき分野であるとの方針だからです。
 医薬品開発の過程の中で最もリスクの高いPOCの取得、つまりフェーズIIaの実施を誰かが支援しなければ、シアル酸が治療薬として世に出るのは困難な状況です。言い方を変えれば、POCさえ取得できれば、スポンサーとなる大手製薬企業が出てくる可能性が高いのです。
 さて、POC取得を支援することで最先端の研究成果の実用化を加速すると言っていた組織が確かありました。そう、昨年、発足した産業革新機構です。国内40数社の創薬ベンチャーにアンケート調査し、精力的に聞き取り調査も行った割には、1年以上経過しても投資を決めたのは1社のみ。無駄飯食らいの評判が定着しつつあります。
 革新機構の面談を受けたある人物は、「リスクに対する慎重さは銀行並み」と失望感がありありでした。官製投資会社である革新機構の存在意義は、民間のベンチャーキャピタルや製薬企業では手に余るリスクを引き受けられる点にあるはずです。
 遠位型ミオパチー治療薬の開発は、まさに革新機構が手掛けるべきプロジェクトに見えます。国内での患者数が300人といっても、世界にはかなりの患者がいます。オーファンドラッグがビッグビジネスになることは、米Genzyme社などが証明しています。
 日本発の研究成果をまず日本で実用化しそれを世界中に広めることができれば、経済的にも日本に大きな利益をもたらすでしょう。革新機構はそのために設立されたはずです。
日経バイオテク副編集長 河野修己