こんにちは。日経バイオテク編集長の橋本です。
 昨日、慶応義塾大学で開かれたシンポジウムを取材しました。テーマは「治験と臨床研究の統一は可能か」というもので、慶応大、千葉大学、京都大学が共同で主催したものです。
 治験というのは薬事法に定義された言葉で、医薬品、医療機器の承認を受けるために必要なデータを取得するための臨床試験のことをいい、医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準(GMP)、医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GCP)などを満たして実施しなければならないと定められています。治験の開始前には医薬品医療機器総合機構(PMDA)に治験計画届を提出しなければなりません。許可制度ではありませんが、提出後、PMDAによる30日調査の期間を終えてからでなければ治験を開始することができません。
 これに対して臨床研究は、厚生労働省が定めた「臨床研究に関する倫理指針」を満たせば実施することができます。臨床研究に関する倫理指針では、医療機関が設ける倫理審査委員会の審査を経た上で実施できることになっていますが、GMP、GCPを満たして実施することは特に求められていません。倫理審査委員会のメンバーも、医療機関によってまちまちであるため、臨床研究の倫理面や安全性の確保のレベルに差があるという問題が指摘されてきました。また、GCPに則って行われていない試験データでは医薬品や医療機器の承認審査の際に利用できないため、薬事法に基づく承認を受けるためには再び同じ試験を、治験として行わなければならず、その分、実用化までに時間がかかるという問題もあります。さらに、非GCPで行った試験は国際的にも認められなくなりつつあるということです。
 つまり、現在日本には新しい医薬品、医療機器を人に対して実施する試験に、治験と臨床研究という2つの制度があり、一方はPMDAのチェックを受けてGCPに則って実施されているのに、もう一方は医療機関の倫理審査委員会の審査だけで行われているというのが実態です。しかし、医薬品、医療機器として製品を流通させるために、臨床研究をやった後で、再び試験を治験としてやり直すようなやり方をしていては、医薬品や医療機器の開発にも時間がかかり、ライフ・イノベーションの政策に反することになるのではないかということで、元厚生労働省大臣官房審議官の千葉大の黒川達夫教授、京大の川上浩司教授、慶応大の望月眞弓教授の3人が実行委員となって、今回のシンポジウムが開催されました。
 シンポジウムの内容については改めて日経バイオテク・オンラインでも紹介したいと思いますが、簡単に紹介すると先端医療振興財団の井村裕夫理事長が基調講演で、かねてからの持論である日本版IND制度の創設を求め、続く演者らからはそれに賛同する声や、問題点を指摘する声、対案が出され、総合討論の終了まで活発な議論が交わされました。INDというのは米国の制度で、企業が治験を行う場合も、研究者が臨床研究を行う場合も(正しくは米国には治験、臨床研究の区別はありませんが)、米食品医薬品局(FDA)に申請をする必要があります。FDAがあらゆる臨床試験を管理することで、既に有効性が否定されている試験が繰り返し行われないようにできる利点もあります。日本でも同様にPMDAがあらゆる臨床研究、治験を管理し、GCPを満たして実施されるべきというのは日本版INDの提案の骨子といえます。ただ、現状のPMDAや大学にそれを行うだけの人材や経験、リソースがあるのかということと、被験者保護をどのように行っていくのかということが、議論の大きなポイントだったと思います。
 PMDAの増員や大学のレベルアップは、方向さえ定まれば多少時間はかかるかもしれませんがいずれは果たせるものだと思います。むしろ大きな課題は医薬品や医療機器の研究開発の振興がなぜ必要か、なぜ治験と臨床研究の一本化が必要かについて、真に国民理解を得ることだと思います。現在の厚生労働省の体制は、医薬品や医療機器の審査を行う審査管理課が医薬食品局に、臨床研究などを振興する研究開発振興課が医政局にあります。審査管理課などの安全監視部門と、研究開発振興部門は元々同じ局にありましたが、薬害エイズの反省で別の局に分けられることになりました。日本版INDの提案は、この2つの機能が連携しなければ実現できません。そのためには単に局を超えた連携ということだけでなく、なぜ連携が必要なのか、薬害エイズのような事態が再発しない仕組みはどのようにして担保されているのかなどの点が国民に理解されなければ実現は難しいでしょう。
 ただ、今回のシンポジウムは、厚生労働省の治験管理室長や、PMDAの理事、審査管理課の補佐らが参加し、「個人的見解」としながらも自分たちの意見を語っていたのがとても新鮮でした。また、来場者の多くが最後まで席を立たず、議論を熱心に聞いていたことも印象的でした。今回のシンポジウムを第一歩として、大きな変化に向けて動き始めることを期待します。
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                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
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大学順位付けのトップに北里大、東北大、自治医大、慶大、国際大
文科省の大学等産学連携の調査結果を、「BTJジャーナル」2010年8月号に掲載
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 BTJジャーナル2010年8月号を先月末(8月25日)に発行・公開しました。
 “赤”コーナーでは、文部科学省が8月に発表した「平成21年度 大学等における産学連携等実施状況について」を取り上げました。1107大学等のアンケート調査に基づき、共同研究や受託研究、発明状況などを分析しています。ライフサイエンス分野の共同研究や受託研究の件数や、治験等収入の増加が浮き彫りになりました。調査報告書の最後には、産学連携や特許に関する11種類の順位付け一覧表も掲載しました。
BTJジャーナル2010年8月号のダウンロードはこちらから
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 以下にBTJ/日経バイオテク・オンラインの関連報道記事一覧を示します。この記事を元に、今回の記事をまとめました。
※BTJ/日経バイオテク・オンラインの文科省「大学等産学連携」調査の関連記事リスト
続報、文科省の産学連携調査、大学ランキングのトップに北里大、東北大、自治医大、慶大、国際大
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/3164/
大学等の治験等収入が民間企業からの共同研究費受入額の半分超に、ライフは共同研究件数が初の5000件超で受託研究件数が初の8000件超
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/3163/
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 ぜひお楽しみください。
                          BTJ編集長 河田孝雄
※2010年8月号(第56号)のコンテンツを目次にて紹介します。
●CONTENTS
東大分生研の改組
日本疲労学会 CFS指針
産学連携の文科省調査
P.2 アカデミア・トピックス
東大の分子細胞生物学研究所が
初の大規模改組を実施
P.4 リポート
大阪で日本疲労学会
CFS指針の作成にオミックス活用
P.9 キャリア
大学等の産学連携等実施状況
文科省が平成21年版を発表
P.13 BTJアカデミック・ランキング
トップは東大分生研の改組
P.16 技術シーズ・レター
ライフサイエンス分野 Vol.6
P.20 奥付け