こんにちは。第2、第4金曜日を担当する日経バイオテク副編集長の河野修己です。現在、オーストリア政府の招待により同国のライフサイエンス事情を取材する記者団の一員として、インスブルックに滞在しています。取材の成果は、後日記事にする予定です(オーストリア側が毎晩イベントを催してくれるので、取材即記事化がままなりません)。
 こちらは日本でいうと10月初旬の気候ですがすがしく、景観を台無しにするコンビニが皆無の美しい町並みは新鮮に映ります。昨晩は、観光客向けのヨーデルショーを拝見してきました。みんな観光客なのでしきりと写真を撮るわけですが、200人くらい客がいるなかで、携帯電話で写真を撮っている人がゼロという光景は驚きでした。海外出張に行ったときに、こういう日本でお目にかかれないシチュエーションを発見すると、なぜか嬉しくなってきます。ただし、欧州と米国では、どんな高級ホテルでもウオッシュレットではないのがちとつらいところです。
 さてバイオです。siRNA医薬を開発している米Quark Pharmacetuticals社が2010年8月18日に、スイスNovartis社とオプション契約を締結したと発表しました。契約の対象はQPI-1002という品目で、p53遺伝子に対するsiRNA医薬です。同社初の全身投与型で、現在、急性腎障害などを適応とするフェーズIIが進行中です。
 このフェーズIIは年内にも終了する予定で、その結果を待ってNovartis社は本契約に移行するかどうかを判断します。本契約の一時金とマイルストーンの合計は、最大で6億7000万ドルという大型契約です。
 siRNA医薬の特許では、米Alnylam Pharmaceuticals社が複数の基本特許を抑えていいます。これらの特許は、siRNAが医薬品として機能するために備えるべき要件(核酸の数や配列のルール、末端の構造など)を主張しています。製薬企業も、siRNAがこの要件や規則性を備えていなければ医薬品としては機能しないと判断しているからこそ、英GlaxoSmithKline社やスイスRoche社、武田薬品工業など名だたる大手がAlnylam社と契約しているわけです。
 しかし、Quark社のDaniel Zurr CEO(最高経営責任者)は以前、インタビューした際に、「siRNA医薬に共通した要件や規則性は必要ない。遺伝子ごとに最適な構造を考えればいい」と言っていました。Quark社の開発パイプラインでは、米Pfizer社にラインセンスアウトしたPF-04523655と今回のQPI-1002については、臨床試験中の特許紛争を避けるためにAlnylam社と契約していますが、3番目の品目のQPI-1007はAlnylam 社と契約していません。
 Novartis社がQuark社とオプション契約を結んだのは、「Alnylam社の特許に依存しなくても、医薬品として機能するsiRNA医薬をつくることは可能だ」という主張に一定の説得力があると判断したからでしょう。実はNovartis社はAlnylam社とも契約しているので、どっちの主張が正しいかをじっくりと検討するはずです。もしQPI-1002のフェーズIIで良好な結果が出てNovartis社が本契約に踏み切れば、siRNA医薬を巡る競争条件が大きく変化することになります。
        日経バイオテク副編集長 河野修己