こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 先週金曜に開催された医薬品開発支援機構(APDD)主催の「マイクロドーズ臨床試験を活用した革新的装薬技術の開発」の成果の中間報告会を取材してきました
 マイクロドーズ臨床試験とは、いわゆるフェーズIというヒトでの本格的な臨床試験を開始する前に、臨床投与量の100分の1以下というごく微量の候補化合物をヒトに投与して、その体内動態を確認するという手法です。投与量が少ないので、有効性や安全性を確認することは出来ませんが、経口投与した化合物がちゃんと腸管で吸収されるのかだとか、血中に化合物がどの程度の時間留まってどのように代謝されるのかを調べることが出来ます。また、分子イメージングの技術と組み合わせれば、例えばある受容体を標的とする候補化合物が、きちんと目的の受容体に届いているかを調べることが出来ます。
 医薬品の開発過程では動物を用いて体内動態を調べたり、分子イメージングを利用した検討が行われているのですが、動物の種類が異なると薬物の代謝も異なります。この結果、前臨床の動物を使った試験では、有効性も安全性も見られていたのに、フェーズIでヒトに投与すると吸収されなかったり代謝が早かったりして目的の薬効が得られないといったことが起こりがちです。そこで、非臨床試験などのデータを揃えてフェーズIを開始する前に、微量の化合物を用いて本当にヒトでも有効性が得られる可能性があるかの手掛かりを得ておこうというのがマイクロドーズ試験のコンセプトです。
 ところが実は、同じヒトでも微量に投与した場合と、臨床で有効性を発揮する量を投与した場合では、体内動態がパラレルではありません。微量に投与した場合は一定期間体内に留まっていた化合物が、大量に投与するとすぐに代謝されてしまったりということが起こります。従って、マイクロドーズ試験をやっても、フェーズIでヒトに投与すると有効性が得られなかったという結果となる可能性もあります。このため、「マイクロドーズ試験はやっても無駄」と考える製薬関係者もいます。また、「複数の候補化合物がある場合は、どの化合物からフェーズIを開始するかを判断するためにマイクロドーズ試験を行うなら意味があるが、1つしか候補化合物がない場合にマイクロドーズ試験でいいデータが出なかったからといって、プロジェクトを中止する意思決定が出来るだろうか。いいデータが出なくても、結局フェーズIで確かめようということになるなら、マイクロドーズ試験をやる意味はない」と指摘する声もあります。
 これに対して東京大学の杉山雄一教授らは、マイクロドーズ試験と、臨床投与量とでパラレルな体内動態が得られないタイプの化合物の場合に、マイクロドーズ試験の結果から臨床投与量での体内動態を予測する技術の開発を進めており、金曜日の成果報告会で報告していました。これについては日経バイオテク・オンラインで記事にしますので、関連記事と合わせてお読みください。
NEDO、医薬品開発支援機構と製薬企業14社ほか、マイクロドーズで橋渡し研究開始
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8986/
厚労省、マイクロドーズ試験のガイダンス(案)策定、パブコメ募集開始
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/9432/
 いずれにせよ、ヒトに薬効を示さない(毒性も示さない)投与量の結果から、臨床試験の結果をかなり正確に予測できるようになれば、今の臨床試験のあり方は大きく変化するに違いありません。杉山教授は「バーチャルクリニカルトライアル」という言葉で説明していましたが、これが実現すれば動物試験も減らせるし、臨床試験の症例数も大幅に削減できる可能性があります。
 成果報告会で面白かったのはもう1つは、前臨床のCRO(医薬品開発受託機関)とか、試薬・診断薬企業がプロジェクトに参加していて、検体からの微量の化合物の測定に大いに貢献していたことです。特に、標識していない化合物、代謝物を測定できるLC-MS/MSが大活躍していました。バーチャルクリニカルトライアルの実現には当然こういう精密測定機器の発展も必要なわけで、ITも含めて産業界を挙げ、さらには厚生労働省も一緒になって、10年後、20年後を視野に入れて取り組むべき課題のようにも思いました。
 本日はこの辺で失礼します。ご案内してきたセミナーはおかげさまで多数の方からお申込いただきました。ともにもう少しで締め切りになってしまう可能性があるので、まだお申し込みいただいていない方はお急ぎください。
 
「次世代シーケンサー」セミナー、6月11日開催
http://biotech.nikkeibp.co.jp/bionewsn/detail.jsp?newsid=SPC2010042772948
「分子標的薬」セミナー、6月16日開催
http://biotech.nikkeibp.co.jp/bionewsn/detail.jsp?newsid=SPC2010042772949
 日経バイオテク・オンラインの記事全文をお読みいただくには、日経バイオテク本誌の読者になっていただく必要があります。日経バイオテク本誌のお申し込みは、以下からお願いします。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/index.html
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
 ご意見があれば以下のフォームからお願いします。いただいたご意見を次回以降のBTJメールの中で、匿名で紹介させていただく可能性があることをご了解ください(紹介されたくない場合はその旨を明記しておいてください)。
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「沖縄科学技術大学院大学の深層」特報記事4本、
「BTJジャーナル」2010年5月号に掲載
沖縄現地の写真も11点掲載
「BTJジャーナル」のダウンロードはこちらから
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/
アカデミア向けの有料サービス「BTJアカデミック」はこちらから
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/senmonn/btj_aca.jsp
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 BTJジャーナル2010年5月号を先週火曜日(5月25日)に発行・公開しました。巻頭の“緑”コーナー「アカデミア・トピックス」は、計画通りなら2012年に出現する沖縄科学技術大学院大学の話題を取り上げました。「日経バイオテク・オンライン」で不定期連載「沖縄科学技術大学院大学の深層」として報道した記事4本を、沖縄の写真11点と共に掲載しました。沖縄大学院大学には、05年以降に500億円の国費が投入された。現場リポートに加え、総合科学技術会議の白石隆議員と、自民党の河野太郎議員にも話を聞きました。
BTJジャーナル2010年5月号のダウンロードはこちらから
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/index.html#btjj1005
 日経バイオテク・オンラインに掲載した沖縄大学院大学の特報記事4本は以下の通りです。
※BTJ/日経バイオテク・オンラインの関連記事
【不定期連載】沖縄科学技術大学院大学の深層(その4)、5000万円かけて作成したパワハラ報告書の開示を拒否
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/0131/
【不定期連載】沖縄科学技術大学院大学の深層(その3)、CSTP白石議員に聞く、「可能であればゼロから見直したいくらいだ」
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/0106/
【不定期連載】沖縄科学技術大学院大学の深層(その2)、施設開設記念式典に5人のノーベル賞受賞者、1番人気は尾身元沖縄担当相
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/0013/
【不定期連載】沖縄科学技術大学院大学の深層(その1)、中央で報道されない巨大国家プロジェクト
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/0012/
■上記の記事は全文を、リンク記事も含め全部ご覧いただくには「日経バイオテクオンライン」への申し込みが必要です。申し込みはこちらから。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/
 BTJジャーナルの誌面は、次のサイトでPDFファイルをダウンロードすると、全文をご覧いただけます。
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/
 ぜひお楽しみください。
                          BTJ編集長 河田孝雄
※2010年5月号(第53号)のコンテンツを目次で紹介します。
●CONTENTS
沖縄大学院大学・OISTの深層
26学会41万人の知の連山
春の紫綬褒章
超ミクロの動画撮影
P.2 アカデミア・トピックス
沖縄科学技術大学院大学・OISTの深層
P.7 リポート
会員数41万人の26学会が会長声明、「知の連山」が必要
P.13 キャリア
春の紫綬褒章はバイオ関連5人
P.14 BTJアカデミック・ランキング
「日本の論文数は激減」がトップ
P.15 メルマガ「GreenInnovation」
超ミクロの動画撮影
P.16 奥付け