こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 先週日曜日に、日本予防医学協会の主催で難治性疾患克服研究推進事業の研究成果発表会がありました。厚生労働省では、患者数5万人未満の希少疾病であること、原因不明であること、治療法未確立であること、生活面への長期の支障があることの4要素を規定して130の難治性疾患を指定し、調査研究を支援してきました。このうち56疾患に対しては、特定疾患治療研究事業の名の下に医療費助成を行っています。また、09年度からは「研究奨励分野」として前述した130疾患以外に177疾患を選定して、実態把握や診断基準の作成などを進めています。
 しかしながら、「希少疾患」の定義に該当する疾患は6000とも7000とも言われています。遺伝子診断などによって早い段階で診断が付く疾患もありますが、診断が二転三転して確定診断までに数年を要する疾患も少なくありません。診断が付いた後も、治療法がなかったり、治療薬が承認されていなかったりするといった問題がありますが、診断が付くまでに患者は不安を抱えたまま長い時間を過ごさなければならないという点でも、難治性疾患の問題は大きいと思います。
 ただ、その一方で、新しい治療法の開発に向けた取り組みは確実に進んでいます。幾つか日経バイオテク・オンラインで記事にしたのでご覧ください。
京都大学iPS細胞研究所の中畑教授、遺伝子変異が認められないCAPSの3分の2は体細胞モザイクで発症、iPS細胞で病態再現も
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/1291/
国立精神・神経医療研究センター、超希少疾病の遠位型ミオパチーの新規治療法の臨床研究を計画
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/1272/
 クリングルファーマの筋萎縮性側索硬化症治療薬開発の話題は、この研究会の中でも東北大学大学院医学研究科の青木正志講師によって報告がなされていました。
クリングルファーマ、HGFたんぱく質の国内治験を開始へ、適応はALS
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/1301/
 難治性疾患の治療薬は、恐らく希少疾病用医薬品となるわけですから、生活習慣病の治療薬などに比べれば開発費は少なくてもすむはずです。ただ、患者数が少なく、市場は小さいと見られるためか、大手製薬企業の関心は低いようです。こういう分野こそ、ベンチャーや中堅の製薬企業が積極的に取り組むべき分野ではないでしょうか(と書いていたら、昨日のアステラス製薬の中期経営計画のプレゼン資料に「将来の市場構造変化に備え、最先端科学の創薬研究とビジネスモデル探索に着手」として「難治性の疾患標的を標的」と書かれているのを見つけました。スイスNovartis社や英GlaxoSmithKline社、米Pfizer社もオーファンドラッグに注力しており、この分野の競争も激しくなりそうです)。
 中畑教授の発表で、非常に興味深く感じたことがありました。詳細は記事をお読みいただきたいのですが、中畑教授らの研究グループは、クリオピリン関連周期性発熱症候群(CAPS)という自己炎症性疾患の患者の半分ぐらいが体細胞モザイクで発症することをこれまでに突き止めていました。体細胞モザイクというのは、体細胞の遺伝子が突然変異を起こすなどして、1つの個体の中に異なる遺伝子の細胞が混在していることを言います。CAPSはある遺伝子(CIAS1という)の変異が原因で生じる疾患と考えられていましたが、遺伝子検査をしても変異が見つからない患者が半分ほどいました。ところが、それらの患者の3分の2程度は体細胞モザイクで、特殊な検査を行うと変異を持った細胞も持っていることが分かったのです。
 興味深く思ったのはこの先の話です。中畑教授は体細胞モザイクの患者の皮膚から人工多能性幹(iPS)細胞を作りました。すると、CIAS1遺伝子が野生型のiPS細胞と、変異型のiPS細胞ができました。それを白血球系の細胞に誘導すると、ある刺激に対して野生型の細胞と変異型の細胞とで反応が明確に異なり、病態をきれいに再現することが出来たそうです。患者由来のiPS細胞は、病態を再現したり、治療薬を開発するのに有用だとされていますが、きれいに病態を再現するのは難しいという話もあります。これだけきれいに病態を再現できた理由について中畑教授は、「同じ遺伝的背景の人から取った細胞で比較しているからだろう」と説明していました。つまり、患者由来の細胞と健常者由来の細胞で比較した場合、当該遺伝子以外にも違いは大きいので当該遺伝子の変異の有無による表現系の差だけを抜き出すのは難しいわけです。逆に、遺伝子の変異の有無による違いを鮮明にしたければ、当該遺伝子以外の遺伝子を同じにする、つまり患者由来のiPS細胞の変異遺伝子を野生型に組み換えて比較するといった手法がふさわしいのかなと思いました。
 余談ですが、疾患関連の遺伝子に関する記事を書いていて、いつも表現に迷います。人の場合は疾患に罹患しているという状態があるので、そういう人を患者、そうでない人を健常者と表現しているわけですが、「健常者っていったいどういう状態だろう」と思ってしまうことがあります。一方、遺伝子の場合は恐らく多くの人がいろんな変異を持っていて、たまたまその変異が疾患につながったりしているだけなので、「正常」「異常」といった言葉は不適切なのでしょう。それで「野生型」「変異型」といった表現をしていますが、それでは分かりにくくなってしまうことがあります。正しくある一方で、「分かりやすくあらねば」という思いもあり、悩ましいところです。
 最後に、6月に2つのセミナーを開催します。皆様のお越しをお待ちしています。
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http://biotech.nikkeibp.co.jp/bionewsn/detail.jsp?newsid=SPC2010042772948
「分子標的薬」セミナー、6月16日開催決定!
http://biotech.nikkeibp.co.jp/bionewsn/detail.jsp?newsid=SPC2010042772949
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                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
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沖縄科学技術大学院大学の深層を
「BTJジャーナル」2010年5月号で特集
美しい沖縄の自然やキャンパスなど写真も満載
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→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/senmonn/btj_aca.jsp
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 BTJジャーナル2010年5月号を昨日、発行・公開しました。巻頭の“緑”コーナー「アカデミア・トピックス」は、計画通りなら2012年に出現する沖縄科学技術大学院大学の話題を取り上げました。「日経バイオテク・オンライン」で不定期連載「沖縄科学技術大学院大学の深層」として報道した記事4本を、沖縄の写真11点と共に掲載しました。沖縄大学院大学には、05年以降に500億円の国費が投入された。現場リポートに加え、総合科学技術会議の白石隆議員と、自民党の河野太郎議員にも話を聞きました。
BTJジャーナル2010年5月号のダウンロードはこちらから
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/index.html#btjj1005
 日経バイオテク・オンラインに掲載した沖縄大学院大学の特報記事4本は以下の通りです。
※BTJ/日経バイオテク・オンラインの関連記事
【不定期連載】沖縄科学技術大学院大学の深層(その4)、5000万円かけて作成したパワハラ報告書の開示を拒否
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/0131/
【不定期連載】沖縄科学技術大学院大学の深層(その3)、CSTP白石議員に聞く、「可能であればゼロから見直したいくらいだ」
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/0106/
【不定期連載】沖縄科学技術大学院大学の深層(その2)、施設開設記念式典に5人のノーベル賞受賞者、1番人気は尾身元沖縄担当相
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/0013/
【不定期連載】沖縄科学技術大学院大学の深層(その1)、中央で報道されない巨大国家プロジェクト
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/0012/
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 ぜひお楽しみください。
                          BTJ編集長 河田孝雄
※2010年5月号(第53号)のコンテンツを目次で紹介します。
●CONTENTS
沖縄大学院大学・OISTの深層
26学会41万人の知の連山
春の紫綬褒章
超ミクロの動画撮影
P.2 アカデミア・トピックス
沖縄科学技術大学院大学・OISTの深層
P.7 リポート
会員数41万人の26学会が会長声明、「知の連山」が必要
P.13 キャリア
春の紫綬褒章はバイオ関連5人
P.14 BTJアカデミック・ランキング
「日本の論文数は激減」がトップ
P.15 メルマガ「GreenInnovation」
超ミクロの動画撮影
P.16 奥付け