読者の皆様、こんにちは。日経バイオテク副編集長の河野修己です。本日から毎月第2、第4金曜日のBTJ /HEADLINE/NEWSを担当することになりました。どうぞよろしくお願いいたします。
 ボスの宮田はテニスとサッカーの話ばかり書いていますが、私は、野球&アメリカンフットボール派。斜陽スポーツとマイナースポーツの組み合わせで共感いただけるかが心配なのですが、時々、この話題にも触れていきたいと思っています。
 さてバイオです。4月5日から日経バイオテクオンラインで、沖縄科学技術大学院大学をテーマに連載を開始しました。連載といっても一続きの読み物を分割して掲載しているわけではなく、ニュースやインタビュー、解説記事などを集めた寄せ鍋企画。日経バイオテクのようなニューズレターでは、次から次へと新しい話題をカバーしなければならず、特定の話題をじっくり追いかけるというタイプの報道はどうしてもおろそかになってしまいがちです。ブログやツイッターによりプロ記者以外でも簡単に情報発信ができる時代にそれではまずいと考え、あえて「連載」とつけて多面的な報道に挑戦し始めた次第です。
【不定期連載】沖縄科学技術大学院大学の深層(その1)、中央で報道されない巨大国家プロジェクト
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/0012/
【不定期連載】沖縄科学技術大学院大学の深層(その2)、施設開設記念式典に5人のノーベル賞受賞者、1番人気は尾身元沖縄担当相
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/0013/
【不定期連載】沖縄科学技術大学院大学の深層(その3)、CSTP白石議員に聞く、「可能であればゼロから見直したいくらいだ」
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/0106/
【不定期連載】沖縄科学技術大学院大学の深層(その4)、5000万円かけて作成したパワハラ報告書の開示を拒否
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/0131/
 私が沖縄大学院大学を取材してみようと思い立ったのは、2009年12月に総合科学技術会議(CSTP)が記者会見を開催して、優先度判定においてこのプロジェクトを「減速」とした理由を説明したのがきっかけでした。会見に出席したCSTPの有識者議員は、「このプロジェクトはどうしても成功させなければならないので、いったん立ち止まって計画のあり方を見直してほしい」と抑え気味の発言でしたが、心の底では「こんなプロジェクトやめてしまえ」と思っている様子がありありでした。数ある科学技術政策の中で、CSTPがこういう反応を示す政策は滅多にありません。実はCSTPは数年前から見直しを提言していましたが、受け入れられていません。
 生命科学を中心とする領域で世界最高レベルの教育機関を設立するという沖縄大学院大学について、BTJ /HEADLINE/NEWSの読者の皆さんでも、詳しい実情をご存じの方はほとんどいないのではないでしょうか。どういう研究者が集まり、大学施設はどこまで完成しており、いつ開学するのか。不勉強ですが、私も知りませんでした。
 取材を初めてみると、このプロジェクトがなかなか意欲的で、日本の科学技術レベルを引き上げるためのブレークスルーになりそうな存在であること、予算規模も科学技術政策の中ではかなりの規模(2010年度は約130億円)であることも分かってきました。
 開学に向けた準備作業を担う沖縄科学技術研究基盤整備機構(OIST)の理事長、理事はトップクラスの外国人研究者で、部長にも外国人がいます。OISTの運営をチェックする外部委員会にも、内外の有名研究者が名を連ねています。大学のあり方を世界から集まった研究者自身が考え、運営も研究者が担い、国は金を出すが余計な口は出さないという仕組み作りに取り組んでいるように見えます。実際、OISTには中央省庁出身者は、ごく少数しかいません。
 キャンパスは、エメラルドグリーンの東シナ海を望む丘の上にあります。開学に先立ち23人の中心研究者(09年3月末時点)が研究活動を行っていますが、ある人に聞いてみると、「都会生活が好きな人は無理だが、自然派には絶好の生活環境。競争的資金を取らなくても大丈夫な額の研究費が配分されるので、安心して研究できる」と満足そうでした。
 では、CSTPのあの反応はなぜなのか。詳細は連載を読んでいただくとして、それ以外にも気になる点があります。昨年、「減速」評価とされた直後から沖縄振興派が動き、政治判断により2010年度予算は前年度比増額で決着しました。
 言うまでもなくこのプロジェクトは、沖縄振興策と科学技術政策という2つの性格を併せ持っています。プロジェクトの担当室が内閣府沖縄振興局にあることを考えると、政府としては沖縄振興策としての位置づけの方が強いのでしょう。しかし、このプロジェクトに関する意志決定をする際に、沖縄振興の観点を持ち込むことがプロジェクトにとってほんとうにプラスになるのでしょうか。
 純粋に科学技術の発展の面からのみ事業を進めた方が、プロジェクトの成功につながる可能性が高く、結果的に地元のためにもなると思えてなりません。沖縄というフィルターを通して科学技術政策を見ると、評価軸がゆがんでしまう危険性があります。沖縄に新たな大学院大学が作られると決定した時点で、担当室を沖縄振興局から引き離し、内閣府の科学技術政策担当か文部科学省に移した方が良かったのではないでしょうか。
     日経バイオテク副編集長 河野修己