こんにちは。水曜日のメールを担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 前回、このメールの中で「この10年間を振り返って、バイオ産業が抱える課題と、今後のためになすべきことを整理したい」として、1つには大学が出願する特許に問題あるという主旨のことを書かせていただきました。その内容に多くの方に賛同いただいたようで、いろいろ反響をいただきました。「研究者だけでなく知財部ですら、排他力があるかまで意識している人は少ないのではないか」という意見もありました。目的は事業化なわけですから、本来は事業化経験のある人間が評価し、特許出願にかかわっていくということができればいいのでしょうが、バイオ産業ではそうした成功体験を持った人材自体が不足しているわけです。
 それでも幸いなことに、何かをやりたい、やらなければという人材は、この業界にはベテランから若手までたくさんいます。多くの人たちが経験や能力、アイデアを持ち寄って協力していくことで、課題を乗り越えていける可能性があります。
 ある読者の方からは以下のコメントをいただきました。少し長い引用になるので引用部分を分かりやすくしておきます。
◆◆ここから引用◆◆
 過去10年間を振り返り、残念ながら志半ばで退場してしまったバイオベンチャーが何社もあったかと思います。そして次の10年間の戦略を考える時に、それらのベンチャーの敗因をしっかりと分析しておく必要があると思います。自己反省も含め、日本のベンチャーキャピタルが本当に彼らを育ててきたのかという失敗の原因を究明しておく必要があるのではないでしょうか。
 最後は資金切れという形で、バイオベンチャーは終末を迎えますが、原因はいろいろです。例えば、規制当局の許可がなかなかおりず、臨床試験も始められない前に潰れてしまったベンチャーが結構あります。製造施設を抱えると、それだけで月々一定の維持費がかかってしまい、バイオベンチャーの経営を圧迫します。逆に、臨床試験の成績が悪くて事業を停止するのが本来かと思いますが、破綻したベンチャーの多くが開発プロジェクトの成績と関係ない理由で事業の停止をしてしまっている現状は何とかしなくてはいけないと思ってます。
 また、IPO至上主義によって、早い時期から管理部門だけ大きくして、肝心の開発が進まないケースもあったとも思います。CFOが巧みな言葉で資金を集めても、実際に開発を進める現場がしっかりしていなければ、単なるマネーゲームとなってしまいます。2005年ぐらいまではこのようなケースが散見されていたと感じています。
 また、バイオベンチャーが大学の研究の延長上であったケースもあったかとも思います。バイオベンチャーは大学の先生の研究費を獲得する場でなく、社会に役立つ医薬品や医療サービスを開発する場であるはずなのに、大学の研究室と同じ発想で運営されて実際の開発はまったく前進しなかった会社もあったかと思います。
 以上にように、まずは残念ながら破綻してしまった会社の破綻要因を類型化して、同じ落とし穴に落ちないようにみんなで情報を共有化することが大切ではないでしょうか。
◆◆ここまで引用◆◆
 確かにご指摘いただいたように、破綻した事例を整理していくのも問題点を浮き彫りにするための1つの手かもしれません。もっとも、単純な理由でつまづく会社もあれば、さまざまな要因が絡み合って破綻するケースもあるでしょう。そうした事例はケーススタディーのような形でまとめておくといいかもしれません。本当は成功事例のケーススタディーの方が役に立つのでしょうが。
 失敗例というわけではありませんが、資金的には2005年辺りがバイオ産業にとって1つの分かれ目になっていると思います。05年3月ごろに国内の主要なベンチャーキャピタル20社に調査したところ、各VCが無限責任組合員を務めているベンチャー投資ファンドの資金のうち、バイオ企業向けの資金は、既に投資済みを含めて合計1000億円超と推計されました。この調査結果を紹介した日経バイオテク05年6月号の記事では、「資金需要がないのにVCから投資させてくれと要請され、断るのに困っている」というベンチャー経営者の声や、「経営の実態に比べて株価が高くなりすぎている未上場バイオベンチャーもある」というVC関係者の声を紹介していました。
 国内の株式市場では、03年4社、04年4社のバイオベンチャーが株式上場し、バイオ株バブルの様相を帯びていたのは否定できません。04年4月を1000として算出を開始した国内のバイオ株の指標である「日経BP・バイオINDEX」は、04年末に一時500を割り込みますが、05年1月末に900を付け、その後も05年末までは600台をキープしていました(現在は170台)。国内のバイオベンチャーの株式時価総額としては、05年初めにタカラバイオが付けた2034億円が今でも記録として残っています。
 04年度までの3年間で大学発ベンチャー1000社を創出する計画を推し進めた経済産業省は、新たに「2010年までにIPO100社」の構想を掲げました。しかし、さすがに粗製乱造されたバイオベンチャーを個人投資家の投資対象とするのはまずいと思ったのでしょう。東証マザーズは05年6月に「マザーズ上場の手引き」を策定し、それまでに比べれば厳格な創薬ベンチャーの上場審査基準を公表します。
 これは世間のバイオベンチャーに対する見方が変化してきたことの1つの現れだったのでしょう。やがて、いつまでたっても赤字から脱出できない上場企業の株価はずるずると下落し、その結果、上場を希望する未上場企業は期待したような株価で上場することができず、投資先のバイオベンチャーがせっかく上場しても株価が低すぎるためにVCは投資を回収できず、バイオ分野への投資を手仕舞いするという負のスパイラルに陥っていった訳です。
 今にして思えば当事の過熱ぶりは明らかに度が過ぎていましたが、現状の冷え込み方も少し度が過ぎた感があります。VCの中にも製薬企業出身者が増えるなど、経験やスキルの面で当事より進歩しているのは確かなのに、そうした人たちがバイオ以外への投資を担当させられているのを見ると、ちょっと歯がゆくも思います。
 一方で、再生医療が典型的ですが、医薬品や医療機器に関する規制や制度はここ10年ほどの間、大きく揺れてきました。そのために、事業を計画通りに進めることができずに消えていったベンチャー企業も少なくありません。それでは「リスクが読めないバイオには投資できない」といって投資家が去っていくのも仕方がないのかもしれません。
 ただ、規制や制度についても、少しずつ明るい方に向かっているのは確かでしょう。
先月末も、下のようなニュースがありました。
高度医療評価会議、オンコセラピーの抗腫瘍ペプチドワクチン療法がほぼ通過、bFGFを用いた下肢の血管新生療法も先進医療へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/9797/
 規制や制度の問題については、また改めて議論させていただくことにします。本日はこの辺で失礼します。
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                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
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ハンガリー現地リポートを
「BTJジャーナル」2010年3月号に掲載
世界シェア70%のベンチャー企業も登場
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 「BTJジャーナル」2010年3月号を先月末に発行・公開しました。
 “青”コーナー「リポート」は、ハンガリー現地リポート。東欧の美しい小国ハンガリーのバイオテクノロジーへの取り組みを、雪深い2月のブタペストを現地取材しました。金融危機の影響で経済の立て直しを迫られ、昔から得意としていた製薬・バイオ産業をいっそう強化する方針を打ち出しました。国外からの投資や優秀な人材を集める魅力的な産業セクターを目指しています。
 コンビナトリアルケミストリーの関連装置で世界70%のシェアを持つベルギーのベンチャー企業も登場します。
 BTJジャーナルは、バイオ研究者のスキルアップやキャリアアップに役立てていただきたい月刊のPDFマガジンです。
 ベルギーに現地リポートは2010年3月号P.5~8掲載の記事をご覧ください。
BTJジャーナル2010年3月号のダウンロードはこちらから
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/index.html#btjj1003
※BTJ/日経バイオテク・オンラインのハンガリー現地リポート関連記事
Codexis社、バイオ触媒による医薬品製造でインド、米国の2社と提携
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/9073/
【解説】旧共産国でのバイオベンチャーの作り方inハンガリー
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/8890/
ハンガリー国家開発・経済大臣、製薬バイオを経済の柱に
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/8705/
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 ぜひお楽しみください。
                          BTJ編集長 河田孝雄
※2010年3月号(第51号)のコンテンツを目次で紹介します。
●CONTENTS
最先端研究開発支援プログラム
ハンガリー現地リポート
ノーベル賞と事業仕分け
P.2 アカデミア・トピックス
最先端支援プログラムの
配分額は16億~50億円
P.5 リポート
ハンガリーのバイオ
投資呼び込みに人脈生かす
P.9 キャリア
2009年ノーベル化学賞と
大型放射光施設の事業仕分け
P.12 BTJアカデミック・ランキング
FIRSTプログラムが閲読トップ
P.13 専門情報サイト「FoodScience」
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