毎週金曜日のバイオテクノロジー(BTJ)メールで編集部原稿を担当していますBTJ編集長の河田孝雄です。
 今週は週の始め(日本時間では3月8日、月曜日)に米国のアカデミー賞が発表になりました。
 作品賞を受賞したのは、米軍の爆発物処理班の活動を描いた「ハート・ロッカー」。作品賞をはじめ、監督賞(キャスリン・ビグロー)、脚本賞、編集賞、音響編集賞、録音賞の計6部門を受賞しました。
 一方、「ハート・ロッカー」と同じく9部門にノミネートされていた「アバター」は、美術賞、撮影賞、視覚効果賞の3部門の受賞となりました。アバターは、アカデミー賞史上最多となる11部門を受賞した「タイタニック」を12年前に撮ったジェームズ・キャメロン監督が構想14年、撮影4年で完成させたとのこと。アバターは、興行収入でそれまで史上最高だった「タイタニック」を抜いて歴代1位になり、また、ハート・ローカーのキャスリン・ビグロー監督との元夫婦対決としてもたいへん話題になりました。
 さて、バイオとの関連ですが、「ゲノム4領域」の成果発表会では「アバター」が、「ターゲットタンパク」の成果発表会では、ジェームズ・キャメロン監督の先の作品の「アビス」が話題となりました。
 アバターは、カリフォルニアで撮影されたデータがニュージーランド(NZ)に持ち込まれて映画に仕上げられたのですが、3ペタバイトというデータをNZに運ぶのは「スニーカートランスファー」だったそうです。要は、足で運んだという意味です。
 この話題は、先月の2月11日と2月12日に東京国際フォーラムで開かれた文部科学省科学研究費特定領域研究「ゲノム」4領域の成果公開シンポジウムで、パネル討論「これからのゲノム研究」でパネリストとして登壇した東京工業大学大学院生命理工学研究科の黒川顕・生命情報専攻教授が、紹介しました。
 いわゆる次世代・超並列シーケンサーを利用したメタゲノムの研究でも知られる黒川さんは、「超高速ネットワークのインフラ作りが大切。インターゲットを介した情報伝達は困難になりつつある。ポータブルのハードディスクを宅配便で送る事態になっている。米エネルギー省は、6200万ドルの予算をつけてこの問題を解決する取り組みをすでに始めている」と話しました。
 一方、3月5日のターゲットタンパク研究プログラムの公開シンポジウムでは、「小胞輸送における膜のリモデリング」と題して講演した高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の若槻壮市・副所長/放射光研究施設長/構造生物学研究センター長が、小胞が出来る仕組みを分子レベルで紹介したアニメーションを、2度にわたって映し出し、「アビスのようなムービー」と話しました。
 アビスは、未知の生命体が登場する1989年公開(日本は90年)の米国SF映画で、1989年アカデミー賞特殊視覚効果賞を受賞しました。
 このターゲットタンパクのシンポジウムでは、リボソームの構造解析で09年ノーベル化学賞を受賞したイスラエルWeizmann Institute of ScienceのAda E.Yonath博士が講演をしました。日本が世界に誇る大型放射光施設は、昨年秋の事業仕分けで、厳しい追求を受けました。
 2010年度予算の確保では、最悪の事態は避けることができたのですが、今回のYonath博士の来日公演を通じて、ノーベル賞級の世界の研究にも、日本の大型放射光施設がいかに役立っているかを、日本の納税者・国民に訴求しようと、放射光施設の関係者もたいへん注力なさってます。
ゲノム4領域も、ターゲットタンパクも、一般向けの公開シンポジウムなので、いかに興味を持って聴いてもらえるか、工夫をこらした発表が目立ちました。
 世間的にも注目度が高いノーベル賞は、明治乳業のヨーグルト「LG21」で、ノーベル賞マーケティングが注目されましたし、その前から、例えば「クエン酸サイクル」の説明にも利用されてきました。
 そのノーベル賞マーケティングともいえる手法が、事業仕分けをきっかけに、アカデミアにも広がってきたように感じます。
 アカデミー賞とバイオの関係でもう1つ、長編ドキュメンタリー賞を受賞した「ザ・コーヴ」でも、DNA鑑定が話題になってます。日本のイルカ漁を批判した米映画で、和歌山県太地町の海に隠しカメラなどを仕掛けて漁の様子を撮影したことに、太地町などでは反発の声が上がっているのですが、海洋哺乳類の所有や販売を禁じている米国のロサンゼルス近郊のすし店で、鯨肉がすしネタとして提供したことが分かったとして、米連邦検察当局が3月10日にすし店を経営する親会社と調理人を、海洋哺乳類保護法違反容疑で訴追したとのことです。
 ザ・コーヴの制作者らが、09年に客としてこのすし店を訪問し、隠し撮りして鯨肉を持ち帰ったことから発覚した。専門家によるDNA鑑定の結果、この鯨肉は、米政府が絶滅危惧種に指定しているイワシクジラと分かった、とのことです。
※BTJ/日経バイオテク・オンラインの関連記事
09年ノーベル化学賞のRamakrishnan博士が第10回日本蛋白質科学会年会で講演、6月に札幌で開催
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/9450/
09年ノーベル化学賞のYonath教授に特別栄誉教授の称号、3月9日に高エネルギー加速器研究機構が授与
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「ある意味、日本の施設が育てたノーベル化学賞」、リボソーム構造解析のYonath教授が日本で相次ぎ講演
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「事業仕分け対策にブルーバックスを刊行」と、ノーベル化学賞記念シンポジウムで尾嶋正治・日本放射光学会会長/東大教授
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ターゲットタンパク公開シンポに400人、「仕分け」対策のリーフレットやアニメーションも披露
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続報、約20年で450億円を投じた文科省ゲノムプロジェクト、最終成果公開シンポに300人、2010年度からは「支援」に徹する
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/8946/
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http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/
 「スニーカートランスファー」の話題に戻りますと、膨大なデータ“マッシブデータ”が産出されるようになってきた現状とその問題点については、国立遺伝学研究所の大久保公策教授らが著した「インターネット時代の公的科学の知財戦略」に、的確にまとめられています。
 BTJジャーナル2010年2月号に掲載していますので、ご覧ください。最後に2月号の内容を、目次にて紹介します。
P.2 アカデミア・トピックス
特許と論文の連関解析で
組織の業績を数値化
JST-RISTEX
P.5 リポート
デジタル革命後の科学制度
NIHのオープンアクセス活動
大久保公策・遺伝研教授
P.10 キャリア
第26回日本国際賞
第6回日本学術振興会賞
第6回日本学士院学術奨励賞
P.13 BTJアカデミック・ランキング
かずさ経営破綻が閲読トップ
P.14 専門情報サイト「FoodScience」
環境ホルモン、その後