先日、国立成育医療センター研究所移植・外科研究部の浅原弘嗣部長のところへ取材に行きました。彼らが6年かけて構築したエンブリスというデータベースの話を聞くためです。
 エンブリスは、マウス胎児での転写因子の発現を網羅解析した画像情報をデータベース化したものです。受精から9.5日、10.5日、11.5日の3つの時点で胚を固定化し、1600個の転写因子が体のどの部分で発現しているかを肉眼で確認できるように画像化しています。転写因子というのはDNAに結合して、その発現を制御するたんぱく質です。そのたんぱく質が、胚のどの場所で、どの時期に発現しているかを観察することによって、臓器や組織の発生にかかわる転写因子を突き止めることができると考えられます。それが明らかになれば、例えばそうした遺伝子の欠損による先天性疾患の治療法の開発や、再生医療などに応用できる可能性があります。これまでにも、個々の組織における転写因子の発現を解析する研究は行われていましたが、胎児の体全体を観察したデータベースを構築したのは非常にユニークです。詳細は以下の記事をお読みください。
国立成育医療センター、マウス胎児での転写因子の発現を網羅解析しDB化、網羅解析の成果から筋肉の分化にかかわる遺伝子を発見
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/7492/
 とにかく感心したのは、1600個の転写因子とハイブリダイズするプローブを作製し、9.5日、10.5日、11.5日という3つの時点の胚を1600個作って、それぞれにおける各転写因子の発現を観察するという力技の解析を成し遂げたことです。文部科学省や厚生労働省の研究費の助成を得たとはいえ、現実にはコンセプトに賛同した研究者やテクニシャンなど15人ぐらいがほぼ手弁当で集まって解析を行ったという話です。
 しかも浅原部長らはこのデータベースを全世界に向けて公開しました。それぞれの組織や臓器の研究を行っている専門家が観察することで、より詳細な解析ができるかもしれないと考えてのことです。百聞は一見に如かず。以下のサイトから観察できるようですので、ぜひともご覧ください。
http://embrys.jp/embrys/html/MainMenu.html
 データベースのエンブリスという名前はEmbryonic gene expression Database as a Biomedical Research Sourceの頭文字を取ったものであると同時に、胚(Embryo)とえびす(Ebisu)の2つの言葉から作った造語だそうです。えびすというのは七福神の神様のことですが、伊邪那岐命と伊邪那美命の子供の蛭子命であるという説があります。蛭子命は体が不自由に生まれついたため、船に乗せて流され、福の神になったという話です。整形外科医でもある浅原部長は、ゆくゆくはこのデータベースの情報が、先天性異常のメカニズムの解明と治療法の開発に結びつくことを願って、「エンブリス」という名前を付けたということです。
 もっとも、遺伝子の発現様式には種差や個体差もあるでしょうし、発現量が低くて重要な役割をしている遺伝子をこの画像情報から突き止めるのは難しいかもしれません。ただ、このデータベースを出発点にさまざまな研究が重ねられることによって、先天性疾患の治療や、臓器や組織の再生医療などにつながっていくことが期待されます。とにかく、非常にエキサイティングな取材だったので、メールでも紹介させていただきました。
 暮れも押し迫ってきましたが、政府の2010年度予算編成作業はまだ先が見通せません。でも研究者の世界からは、日本発のユニークで革新的な成果がこのようにして生み出されていることを政策サイドの人たちにはしっかり認識してもらいたいものです。
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国際化が順調に進む日本生物物理学会
アジアをリードする責務が明確に
若手奨励賞が圧巻
BTJジャーナル2009年11月号で日本生物物理学会を特集しました
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 バイオ研究者のスキルアップやキャリアアップに役立てていただきたい月刊のPDFマガジン「BTJジャーナル」2009年11月号を先月末に発行・公開しました。
 “赤”コーナー「キャリア」では今回、09年10月末から11月にかけて徳島市で開催された日本生物物理学会第47回年会を特集しました。前回から実施しているポスター発表の英語化に続き、今回からすべての口演を英語で実施。学会の国際化方針は成功しているようです。
 とにかく若手研究者の活発な討論が目立ち、サテライトミーティング「科研費制度を知る:とくに若手研究者に向けて」での発言は圧巻でした。詳しくはBTJジャーナル09年11月号をご覧ください。この特集記事は、以下の記事の一部を基に構成しました。
※BTJ/日経バイオテクオンラインの日本生物物理学会関連の直近の記事
続報、会員総数7万2000人の基礎生物科学関連24学会が事業仕分け判定結果に要望書、本日午後に東大農学部で記者会見
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/7342/

日本生物物理学会第47回年会の若手奨励賞は5人、バクテリオロドプシン、アポトーシス、べん毛モーター、ポリグルタミン病、コネキシンの研究者
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/6602/
「最先端の基金は1つのトライアル。将来は科研費も基金にできればメリット多い」と日本学術振興会の宮嶌和男審議役
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/6570/
科研費の新学術領域研究・課題型と若手研究(S)の新規募集を急きょ停止、新政権誕生で史上初の事態
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/6566/
日本生物物理学会第47回年会は22年ぶりの徳島に1700人見込む、「国際化が成功しそう」と実行委員長の桐野徳島文理大学長
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/6513/
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http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/
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 ぜひお楽しみください。
                          BTJ編集長 河田孝雄
※09年11月号(第47号)のコンテンツを紹介します。
P.2 アカデミア・トピックス
行政刷新会議が事業仕分け
理研など厳しい評価相次ぐ
P.5 リポート
日本食品科学工学会第56回大会
宇宙日本食と長寿食が話題に
P.11 キャリア
国際化進める日本生物物理学会
科研費や最先端プログラムも熱気
P.13 BTJアカデミック・ランキング
最先端プロと事業仕分けが人気
P.14 専門情報サイト「FoodScience」
食中毒対策とリスコミ
P.18 広告索引