こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 先週金曜日、日本公定書協会の主催で開催された薬事エキスパート研修会「パンデミック・インフルエンザ対策の現状について」に参加してきました。
 グローバルのワクチン導入状況について、前米Merck社のExecutive Directorで、現在は生物製剤とワクチンのコンサルタントを務めるElaine Esber氏、サノフィ・アベンティスのFranck Perraudinワクチン部門長、グラクソ・スミスクラインの杉本俊二郎取締役、化学及血清療法研究所の城野洋一郎第二研究部長の講演を聞いたうえで、パネルディスカッションに参加させてもらいました。
 特例承認による輸入で、国民が必要とする新型インフルエンザワクチンを確保する見通しを付けた日本ですが、来年度どうするのかという課題が残っています。しかも、H1N1の新型インフルエンザが流行する中で、忘れ去られてしまったような感がありますが、より病原性が高い可能性があるH5N1の新型インフルエンザの脅威が去ったわけではありません。そのような状況下で開催されたセミナーだったのですが、グローバルに活躍しているほかの講師の方々も同じような問題意識を持たれていることを改めて確認できました。
 来年度、どういうワクチンを用意しなければならないかは、今年度の流行状況から判断するしかないのでしょうが、また、ぐずぐずと意思決定を延ばしていては、今年と同じように「特例承認」といった非常手段を取らなければならなくなるかもしれません。
 今年度、国産のワクチンを十分に確保できなかった背景には、ワクチン製造に用いるウイルスの株の増殖率が低かったことがあります。来年度に向けては、ウイルスの増殖率を高める研究が必要でしょう。
 抗原量が十分に確保できないということであれば、アジュバントを使用することで抗原量を減らすという戦略もあります。実際、英GlaxoSmithKline社やスイスNovartis社、フランスsanofi pasteur社などは独自のアジュバントを利用することで、抗原量を通常の半分や4分の1に減らしています。日本では以前に使われていた水酸化アルミニウムのアジュバントしか承認されていませんが、日本メーカーの中でも化学及血清療法研究所のように次代の細胞培養ワクチンを開発する際に、GSK社のアジュバントの使用を検討しているところもあります。アジュバントについては、日本での使用実績が少ないことから、慎重に使うべきという声もあります。もちろん、安全性については十分な配慮が必要ですが、一方で世界全体でワクチンの供給量は全く足りていないわけですから、こうした新しい技術を用いることで1接種あたりの抗原量を減らすことを考えていくべきです。
 製造技術も重要です。ワクチンが不足している問題の背景にはキャパシティの問題もあります。特に問題となっているのは製造に用いる発育鶏卵の供給量が限られているということです。しかし、細胞培養ワクチンの技術を開発できれば、この問題も克服できるかもしれません。既に細胞培養インフルエンザワクチンはNovartis社や米Baxter社が承認を取得しており、日本でも国内メーカーが技術開発にしのぎを削っています。こうした新しい技術の実用化を加速させることが必要です。
 折しも、カナダでGSK社の新型インフルエンザワクチンを使って予防接種を行ったところ、特定のロットのワクチンで高頻度にアナフィラキシー様の副作用が見られ、GSK社がそのロットのワクチンの使用中止を求めるという事態が生じました。このワクチンは、特例承認で日本への輸入を予定しているものと同じなので、大きく報道されています。もちろん、安全性に関してはより慎重に考えていかなければなりませんが、原因がまだ明らかでないこと、副作用の発現頻度が高かったのが特定ロットに限られていることを考えると、現時点でワクチンのリスクを強調しすぎるのも問題があるように思います。
グラクソ・スミスクライン、カナダでの副作用報道に対して「新型インフルエンザワクチンの日本での治験などに影響はない」と説明
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/7060/
ノバルティス、グラクソ、新型インフルエンザワクチンの特例承認取得に向けて承認申請
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/6701/
 いずれにせよ、世界全体を見渡せば、インフルエンザに対するワクチンの供給能力は圧倒的に不足しています。これを機会に日本のワクチンメーカーは技術開発に取り組んで、日本国内の需要を満たすだけで良しとせず、世界に向けてワクチンを供給できるような企業になってもらいたいものです。
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
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 バイオ研究者のスキルアップやキャリアアップに役立てていただきたい月刊のPDFマガジン「BTJジャーナル」09年10月号を先月末に発行・公開しました。
 赤コーナー「キャリア」では、ノーベル賞と論文の被引用データベース(DB)の話題をまとめました。09年10月初旬に発表されたノーベル賞は、生理学・医学賞はテロメアとテロメラーゼ、化学賞はリボソームの研究者が選ばれました。客観的な研究業績の評価法とされる「論文の被引用数」の解析が、ノーベル賞の予測に有効であることが改めて示されました。
 以下のBTJ/日経バイオテク・オンラインの記事を基に編集しました。ぜひご覧ください。
※BTJ/日経バイオテク・オンラインのノーベル賞と論文被引用の関連記事
自然免疫の審良静男・阪大教授の論文被引用数の合計は近く6万に、平均は88.6、hインデックスは119
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/6210/
2009年ノーベル化学賞、「リボソームの構造と機能」で英米イスラエルの3人が受賞
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/5910/
2009年ノーベル生理学・医学賞はテロメアとテロメラーゼの米研究者3人、Thomson Reuters社の予測が的中
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/5848/
テロメア、細胞内輸送小胞、fMRIが有力、Thomson Reuters社が学術文献引用DBで選出するノーベル賞有力候補者25人を新たに発表
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/5544/
■上記の記事の一部は、全文をリンク記事も含めて全部ご覧いただくには「日経バイオテクオンライン」への申し込みが必要です。申し込みはこちらから。
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 BTJジャーナルの誌面は、次のサイトでPDFファイルをダウンロードすると、全文をご覧いただけます。
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 ぜひお楽しみください。
                          BTJ編集長 河田孝雄
※09年10月号(第46号)のコンテンツを目次で紹介します。
P.2 アカデミア・トピックス
権威ある世界大学ランキング
35校入った日本の大学が躍進
P.7 リポート
「BioJapan 2009」を開催
2万4000人集まった横浜に熱気
P.10 キャリア
テロメアとリボソームに
09年ノーベル賞、予測的中も
P.13 BTJアカデミック・ランキング
大学ランキングで日本躍進がトップ
P.14 専門情報サイト「FoodScience」
最新のトピックス
P.15 バックナンバー目次