こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 新型インフルエンザの第2波を控え、ワクチン接種に関する議論が活発に行われています。議論の中心となっているテーマは、どういう人にどういう優先順位で接種するかということですが、多分に臨床的なテーマであるため意見をするのは止します。もう1つのテーマはそのためのワクチンをどのようにして供給するかということです。
 昨夜見ていたニュースでは、1バイアルの用量を増やすことによって当初1800万人分と見ていた国産による供給量が、3000万人分に拡大すると言っていました。しかし、集団接種がその前提となるわけで、既に個別接種が普及した日本で、バイアルの容量を増やすことが本当に有効な手段となりえるのかは慎重に検討すべきだと思います。
 議論は、「いかにして国産ワクチンで需要を満たすか」ということに重点が置かれているようです。しかし、「国産ワクチンの方がいい」という主張には全く根拠がないように思います。唯一、「輸入ワクチンは国内で未承認のアジュバント(免疫賦活剤)を利用しているので、安全性が確かでない」ということが言われていますが、輸入ワクチンのすべてが新規のアジュバントを利用しているわけではありません。
 むしろ、欧米の新型インフルエンザワクチンが新規のアジュバントなどを利用しているのは、新型インフルエンザに対してより少ない抗原量で高い抗体を誘導するためです。一方で、日本では季節性のインフルエンザワクチンの製造方法と同じ方法で製造することを理由に、新型インフルエンザワクチンについては治験を省略して承認する考えのようですが、新型インフルエンザウイルスと季節性インフルエンザとは感染力や悪性度に大きな違いがあります。季節性インフルエンザワクチンと同じ製法で製造したワクチンが新型インフルエンザに対しても有効かどうかは、少数でいいので治験を実施して確認すべきことだと思います。輸入ワクチンについては治験をすべきだけど、国産ワクチンの治験は不要だとする論調は全く理解できません。
 逆に、これを機会に国産ワクチンと輸入ワクチンの安全性や抗体誘導力に関する臨床試験を実施してそれぞれの特性を把握し、医師や国民が選択して使えるようにしておくべきではないでしょうか。国産のインフルエンザワクチンに対しては過去にその有効性に疑問が投げかけられたこともありますし、海外産のワクチンの方が有効性が高いという声もあります。ただ、それを比較した試験がなかったので、いずれも憶測に過ぎません。
 であればこの際、きちんとした比較試験を実施するべきですし、輸入品に対しても門戸を開くべきです。その結果、日本メーカーによる市場の寡占構造は崩れるのかもしれませんが、競争力を有する製品は生き残るはずです。逆に、日本メーカーが輸入品に対して競争力のない製品しか作れないのであれば、日本国民のためにも輸入品を使えるようにすべきです。とにかく、国産ワクチンは治験なしでOKと判断するのなら、その判断の責任を誰が負うのかを明確にすると共に、万一の事態が生じた場合の対策を講じておくべきです。もう一声付け加えるなら、海外できちんと臨床試験を行ったワクチンについては、接種費用やアジュバントの価格の問題はともかくとして、国内に導入するための準備はしてしかるべきでしょう。
 インフルエンザワクチンの政策にかかわる方たちが、至極合理的な判断をされることを期待する限りです。
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
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iPS細胞とES細胞の再生医療
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 バイオ研究者のスキルアップやキャリアアップに役立てていただきたい月刊のPDFマガジン「BTJジャーナル」09年8月号を8月末に発行・公開しました。
 巻頭の緑コーナー「アカデミア・トピックス」は、直近の2~3カ月ほど読者アクセスの多かったオンライン記事を、テーマ毎に編集してお届けしています。
 今号(09年8月号)では、iPS細胞とES細胞の以下の記事を基にまとめました。P.2~4の記事をぜひご覧ください。
※iPS/ES関連記事
京都大学、慶応大学、iPS細胞の腫瘍形成能は元の細胞の由来部位に左右されると発表
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/3831/
UCLA、iPS細胞をES細胞と区別する遺伝子発現シグネチャを発見
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/3704/
京都大学中辻教授、「国産ES細胞創薬モデル研究の継続に不安」
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/3684/
京都大学山中教授、体細胞がiPS細胞になるメカニズムの仮説を整理し発表
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/3646/
「iPS細胞バンク」を5年以内に設立へ、京都大学の山中伸弥教授が構想を表明
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/3018/
 BTJジャーナルの誌面は、次のサイトでPDFファイルをダウンロードすると、全文をご覧いただけます。
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 ぜひお楽しみください。
                          BTJ編集長 河田孝雄
BTJジャーナル09年8号の内容を目次にて紹介します。
それでは最後に09年8号(第44号)のコンテンツを目次で紹介します。
P.2 アカデミア・トピックス
iPS・ES再生医療
注目記事を掲載
P.5 リポート
第11回日本RNA学会年会
新潟に350人集まる
P.8 キャリア
第2回「大学は美味しい!!」フェア
27校が出展して集客は10万人超
P.13 BTJアカデミック・ランキング
経産省と文科省の新課長と民主党
P.14 専門情報サイト「FoodScience」
英国発の有機食品論争
P.16 技術シーズ・レター
ライフサイエンス分野 Vol.5
P.22 バックナンバー目次