こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 先週開催された高度医療評価会議を取材してきました。高度医療評価制度についてはこの欄で何度も紹介してきたので詳細な説明は省きますが、一口で言うなら、混合診療の下で、国内で未承認の医薬品や医療機器を使える制度です。
http://blog.nikkeibp.co.jp/bio/BTJ/archives/2009/06/203111.html#more
 現在、国は混合診療を原則認めていないので、健康保険に収載されていない医療技術を受けようとすると、それに伴う診察や検査、投薬、入院などの費用もすべて患者が自己負担しなければならなくなります。それでは、まだ十分に普及していないなどの理由で保険収載されていない先進的な医療技術を受ける患者の負担が大きすぎるということで、先進医療という制度が作られました。この制度の対象になれば、その技術の費用を自己負担すれば、診察、検査、投薬、入院には保険を使えるようになります。ただし、国内で未承認の医薬品・医療機器を使った医療技術の場合には通常の先進医療の対象にはなりません。高度医療評価制度を利用して、第3項先進医療として実施する場合のみ、混合診療の対象になるのです。ちょっと分かりにくいですが、高度医療評価制度を利用すれば、例えば海外では承認されているけれど国内で未承認の医療機器を利用した手術を受けて、それに伴う入院や検査、投薬には保険が利くようになるというもとです。この高度医療評価制度は昨年4月に発足し、現在、17の医療技術がこの制度を利用して混合診療として実施されています。
 ただ、これまで高度医療評価制度の対象は、国内では未承認ながら、海外では承認済みの医薬品・医療機器を使ったものや、国内でも別の適応では承認されている医薬品・医療技術を使ったものに限られていました。国内の研究者が基礎から考案した日本発のシーズで、高度医療評価制度の対象になったものはなかったのです。しかし、先週の高度医療評価会議で、初めて日本発のシーズが高度医療評価会議で「適」のお墨付きをもらいました。「適」とされたのは久留米大学付属病院が申請したがんペプチドワクチン療法で、グリーンペプタイド(福岡県久留米市、郡高秀社長)のペプチドワクチンを利用しています。
 グリーンペプタイドはこのワクチンに関して、薬事法に基づくフェーズIの治験を済ませていて、これからフェーズIIIを実施すべく準備しているところです。一方で、このがんワクチンに対するニーズは強く、久留米大学付属病院が自由診療による臨床試験を計画したところ希望者が殺到しました。本来はグリーンペプタイドが薬事法に則ったフェーズIIIを実施するのを待つべきなのかも知れませんが、資金調達なども考えれば承認が降りるまでにまだかなり時間がかかると予想されます。その間、自由診療であっても臨床試験に参加して治療を受けたいという患者がいるのであれば、高度医療評価制度を利用して患者の費用負担を少しでも抑えるというのは非常にいいことだと思います。
 ただ、これも以前この欄に書いたことですが、この制度に対する認識に少し誤解もあるようです。この制度は、「薬事法上の承認申請につながる科学的評価可能なデータ収集の迅速化を図ることが目的」とされています。この日の会議で示された、「国内外ともに未承認の医薬品・医療機器を用いる医療技術を評価する際の観点について(案)でも、「高度医療技術の試験実施計画が、単なる未承認製品の試用にとどまらず、当該臨床試験を実施した結果、被験製品の有効性および安全性について科学的なエビデンスが得られること、または次に行われるべき治験、もしくはさらなる臨床試験の試験計画の設定根拠となるエビデンスを作り出せる設計となっていること」とされています。つまり、有効性、安全性のデータを得る試験として実施する場合に、保険との併用が認められるわけです(詳細は以下の記事をご覧ください)。
高度医療評価会議、グリーンペプタイドのがんワクチン療法を「適」と評価、大学発のシーズに制度を適用する際の要件も議論
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/4138/
http://blog.nikkeibp.co.jp/bio/BTJ/archives/2008/12/201172.html#more
 実は、この日の会議では、岩手医科大学付属病院など4大学病院が申請していたオンコセラピー・サイエンスのがんペプチドワクチンを用いたワクチン療法についても審査され、山口大学医学部付属病院が申請した大腸がんに対するワクチン療法と、山梨大学医学部付属病院が申請した進行食道がんに対するワクチン療法が「条件付き適」とされたのですが、「プロトコルを修正すれば」という注文が付いていました。
 こうした運用には、「厳しすぎる」という批判もあるかもしれませんが、日本発のシーズを臨床で実用化する道が開けたのは確かです。この制度がトランスレーショナルリサーチの活発化に結びつくことを期待しています。
 ところで、衆院選に向けて各政党の動きが活発化しています。日経バイオテク・オンラインでは政権奪取を狙う民主党の政策を何本か記事にしていますのでご覧ください。
民主党の政策INDEX、総合科学技術会議を首相直轄に
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/4215/
民主党、バイオマス発電の固定価格買い取りを義務化へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/4136/
民主党「次の経産大臣」増子輝彦議員に聞く、「政権取れば、中堅中小企業の支援を強化する」
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/4126/
民主党鈴木議員、バイオ研究強化は国立大医学部支援から
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/3647/
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/index.html
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
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日本初の金メダルを獲得した生物学オリンピック
筑波開催の熱気をBTJジャーナル09年7月号に掲載
「BTJジャーナル」のダウンロードはこちらから
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/
アカデミア向けのスペシャルサービス「BTJアカデミック」はこちらから
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/senmonn/btj_aca.jsp
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 バイオ研究者のスキルアップやキャリアアップに役立てていただきたい月刊のPDFマガジン「BTJジャーナル」09年7月号を先週金曜日(7月24日)に発行・公開しました。
 巻頭の“緑”コーナーは「アカデミア・トピックス」。第20回国際生物学オリンピック(IBO)が09年7月12~19日に筑波大学などで開催され、56カ国・地域から221人の選手が集まりました。日本の代表生徒4人は初の金メダルを含め全員が銀メダル以上で、国別6位と躍進しました。一方で日本の生物学教育の弱点も改めて指摘がありました。
 「BTJジャーナル」09年7月号P.2~4の記事をぜひお楽しみください。次のサイトでPDFファイルをダウンロードすると、全文をご覧いただけます。
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/
 BTJで報道してきた下記の4本の記事を基にとりまとめました。
※BTJ記事
筑波開催の生物学オリンピックの国別順位、日本は6位と過去最高、1位は中国、昨年1位の韓国は9位
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/4018/
「日本の生物学教育はヒト生物学と統計学が欠けている」、筑波の生物学オリンピックで齋藤淳一・日本代表団チームリーダー
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/3986/
筑波の生物学オリンピックで日本代表初の金メダルに県立船橋高校の大月さん、1年後に東京で開催の化学オリンピックに引き継ぐ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/3982/
7月12日から筑波で第20回国際生物学オリンピック、「日本の食材の輸出促進に」と食育大使に就任した服部幸應氏
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/3757/
 以上のBTJ記事は、全文をご覧いただくには、日経バイオテク・オンラインの購読が必要ですが、BTJジャーナルはPDFファイルをダウンロードすると、全文をご覧いただけます。
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/
                        BTJ編集長 河田孝雄
BTJジャーナル09年7月号の内容を目次にて紹介します。
P.2 アカデミア・トピックス
筑波で生物学オリンピック
日本代表が初の金メダル
P.5 スペシャル
大学の特許資産ランキング
トップは慶應義塾
P.6 リポート
第8回国際ゲノム会議
第3世代シーケンサー来年登場
P.9 キャリア
農水省最大の競争的資金
イノベーション創出事業
P.13 BTJアカデミック・ランキング
2700億円とiPS・ES、新課長が人気
P.14 専門情報サイト「FoodScience」
食品安全委員会人事
P.15 バックナンバー目次