こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 先週、厚生労働省の先進医療専門家会議と高度医療評価会議があり、取材してきました。
 この制度については、このメールでも何度か取り上げてきましたが、ご存じない方のために少し説明いたします。先進医療は、健康保険にまだ収載されていない先進的な医療技術を受けたときに、当該医療技術にかかる費用以外の、診察、検査、投薬、入院といった通常の治療と共通する部分について保険を給付する制度です。先進医療にかかる費用は患者が自己負担しなければなりませんが、この制度を利用せずに保険未収載の医療技術を受けると、診察、検査、投薬、入院などの費用も自己負担しなければなりません。患者にとっては、自己負担を抑えながら先進医療という新しい技術を受ける選択肢を確保する制度であるといえます。
 先進医療の対象となる技術の選定は、医療機関からの届出を受け、先進医療専門家会議で先進医療としての適格性があるかどうかを議論して決めます。その際の評価ポイントは、有効性や安全性のほか、技術的成熟度、社会的妥当性、普及性、効率性、将来の保険収載の必要性などです。新規の技術が届け出られたときに、専門家会議では当該技術を実施する医療機関の要件まで決め、そのあとは要件を満たした医療機関からの届出については比較的速やかに受理され、先進医療として実施されます。
 ただし、05年に先進医療の制度が作られたときに、薬事法の承認を受けていない医薬品や医療機器を使っている医療技術と、適応外使用のある医療技術については対象外となりました(その後、こういう技術の受け皿として第3項先進医療というものが作られたのですが、この点は後述します)。また、先進医療の制度が創設される以前から、やはり保険未収載の先進的な医療技術に関して、保険診療との併用(いわゆる“混合診療”)を認めた「高度先進医療」という制度があったのですが、06年10月に健康保険法が改正され、高度先進医療は先進医療に一本化されました。
 その際、高度先進医療の中には、未承認や適応外の医薬品、医療機器を使った医療技術も含まれていたのでそれをどう取り扱うかが議論されました。結局、08年4月に高度医療評価制度が創設され、未承認や適応外の医薬品、医療機器を使った医療技術については、高度医療評価会議で「適当」と認められ、先進医療専門家会議での科学的評価で「支障なし」となった場合は、第3項先進医療として保険診療との併用が認められることになりました。
 高度医療評価制度が創設されたときには、「臨床研究の対象である新しい医療技術を、保険診療の中で実施していくための風穴が開いた」と期待する声もある一方で、「制度だけ作って、実際には認めないのではないか」と懐疑的な声も聞かれました。こうした経緯については以下の記事をご参照ください。
厚生労働省、先進医療も薬事法の規制で進まず、細胞移植にトロンビンはダメ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2003/6447/
続報、先進医療が高度先進医療と一本化、10月までに詳細を決定へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2003/8251/
中医協総会が開催、先進医療と高度先進の一本化を了承
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2003/8351/
未承認医薬品や医療機器使った治療も混合診療の対象へ、厚労省が4月から高度医療評価制度を開始
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/0453/
 ここまでは前置きで、ここからが先週の会議の話です。先進医療専門家会議では、高度医療評価会議で「適」と認められた、da Vinciという手術用ロボットを使った冠動脈バイパス移植術が審議されました。この手術ロボット自体は欧米である程度心臓手術などに使われています。厚生労働省への届出は08年5月で、1年がかりでようやく実施が見えてきた格好です。
先進医療専門家会議、ロボット支援下心臓手術は次回に結論、大腸がんの内視鏡的粘膜下層剥離術など2件は「適」
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/3286/
 ところが、先進医療専門家会議では、申請した医療機関での実施例が少ないことを理由に待ったがかかりました。高度医療評価会議で安全性や有効性に関する議論は終わっていると思っていたのに、先進医療専門家会議でまた同じような議論を始めるのかと思い、少し唖然としました。手術用ロボットが医療機器として薬事申請されていることを理由に、「保留としてはどうか」という意見も出ていましたが、手続きをしている間に時間がたって、結局、薬事法の承認の方が早かったということでは、制度の存在意義が問われかねません。
 思うに、高度医療評価会議の事務局は厚労省の医政局、先進医療専門家会議の事務局は厚労省の保険局と、局が異なっているためそれぞれの役割分担があいまいで、制度に対する考え方も異なっているのかもしれません。専門家会議の議論を聞いていると、一度認められたらあとは届出だけで実施施設が増えていく第2項先進医療と、症例数や試験期間を定めた「試験」として、限られた施設のみで実施する第3項先進医療との違いが認識されていないような印象を受けました。また、先進医療制度には先進的な医療技術を受けたときの患者の自己負担を抑えるところに意義があるはずですが、議論を聞いていても患者の視点が抜け落ちているとしか思えませんでした。
 一方の高度医療評価会議では、国内でも海外でも未承認の医薬品、医療機器を使った医療技術をどのように扱っていくかが議論されました。というのは、これまでに高度医療評価会議で審議されたのは、既承認の医薬品や医療機器の適応外使用か、海外で承認済みの医薬品や医療機器を使用した医療技術に関してでした。しかし、それでは国内で生み出された技術が臨床に発展していく道筋が見えません。未承認の医薬品や医療機器はまず薬事法の承認を受けるべきという考え方もありますが、その決断をするために臨床での使用実績を重ねる必要がある場合もあります。また、高度医療として認められた医療技術が増えれば、患者の選択肢が増えることになります。高度医療評価会議ではこれらの点について議論がなされ、国内外で未承認の医薬品・医療機器を制度の対象とする際の条件などを明示していくことになりました。これは、各地で行われているトランスレーショナルリサーチが普及・発展していくうえで極めて重要なことであり、関係者にとっては朗報といえるでしょう。
高度医療評価会議、何が評価の対象か、国内外で未承認の医薬品・医療機器を制度の対象とする際の条件を明示へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/3322/
 ところが、せっかく高度医療評価会議で認められても、先進医療専門家会議で待ったがかかり、いたずらに時間が過ぎていくことになっては意味がありません。もちろん、高度医療で認められた試験の内容などに問題がある場合に、修正を求めるような役割は必要だと思いますが、有効性や安全性の議論を一から行っていては、まさしく「屋上屋」に等しいと言わざるを得ません。2つの会議の役割や、制度の意義などを改めて整理してもらいたいものです。
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
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5月29日に成立した09年度補正予算
世界最先端研究の支援強化に2700億円
補正予算バイオ関連特集記事を
BTJジャーナル09年5月号に掲載
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 バイオ研究者のスキルアップやキャリアアップに役立てていただきたい月刊のPDFマガジン「BTJジャーナル」09年5月号を先月末に発行・公開しました。巻頭の緑コーナー「アカデミア・トピックス」では、09年度補正予算のバイオ関連記事を特集しています。
 「BTJジャーナル」のPDFファイルを次のサイトでダウンロードして、ぜひお楽しみください。
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/
 09年度補正予算は5月29日夕方に成立しました。総額13兆9256億円で、財政支出総額15兆4000億円の追加経済対策を裏付けるものです。
 中でも注目は、世界最先端研究の支援強化を目的として配分する2700億円の基金。研究課題の選考をいかに透明性、公平性を確保して進めるか、議論となっています。
 バイオ関連補正予算の詳しくは、BTJジャーナル09年5月号P.2~4に掲載した記事をご覧ください。BTJジャーナルのコンテンツはPDFファイルをダウンロード(無料)すると全文を覧いただけます。ぜひお楽しみください。
                         BTJ編集長 河田孝雄
以下、BTJジャーナル09年5月号の内容を目次にて紹介します。
P.2 アカデミア・トピックス
09年補正予算で科学技術バブル
文科省は基金で90億円×30課題
P.5 リポート
分子生物学会春季シンポジウム
宮崎シーガイアから黎明の曙光
P.10 キャリア
科学技術分野文部科学大臣表彰
若手科学者賞のバイオ系24人
P.13 コミュニティ
インフルエンザ研究者交流の会
P.14 BTJアカデミック・ランキング
補正予算関連記事が上位に

P.15 専門情報サイト「FoodScience」
文科省の「給食基準」通達

P.19 広告索引