こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 先週金曜、日本公定書協会と日本製薬工業協会ICHプロジェクト委員会の主催で開催されたICH日本シンポジウム2009を取材してきました。シンポジウムは、6月6日から11日まで横浜で開催された日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)の成果報告会の形で行われたもので、医薬品の規制に関する最新の動向がよく分かりました。
 ICHとは、日本、米国、欧州3極の医薬品規制当局と、各極の製薬業界団体とで構成され、医薬品の臨床試験や非臨床試験の実施方法、承認申請時に提出する書類の標準化などについてを話し合い、国際的な規制の調和を図るものです。これまでに、医薬品の有効性、安全性、品質、複合領域の4領域で50以上のガイドラインが策定、公表され、医薬品産業のグローバリゼーションを後押ししています。
 横浜の会議では、複合領域で4つ、有効性領域で3つ、安全性領域で5つ、品質領域で3つのトピックが話し合われました。その中で、今回の会議の最大のイベントとして紹介されていたのが、非臨床試験の実施時期の見直しがステップ4に達したということです。ステップ4とは3極の関係者の合意によって新しいガイドラインが完成したということです。あとはこれを持ち帰って各国の手続きに従って公表すれば、最終段階であるステップ5となるわけで、事実上、国際標準のルールが決まったことを意味します。
 非臨床試験の実施時期の見直しというのは、急性毒性試験や反復投与毒性試験、遺伝毒性試験などに関して、ヒトに投与する前に何を行っておくべきなのか、あるいは承認申請に必要な非臨床試験が何であるのかなどを見直そうというものです。詳細は専門的なこともあり割愛しますが、探索的臨床試験を実施して早期にヒトでの有効性を確認したいというニーズがあることや、欧州を中心に実験動物の削減を求める動きがあることを背景として、非臨床試験はかなり合理的に整理された印象です。マイクロドーズ試験などの探索的臨床試験に関するガイドラインや、生殖毒性試験に関するガイドラインも設けられることになりました。こうしたガイドラインが整備されることで、医薬品開発のスピードは大きく加速することになりそうです。
 また、バイオ医薬品に関する安全性試験についても見直す方向で議論されました。こちらも、最初のガイドラインが出来てから10年以上経過しているのですが、バイオ医薬品はケースバイケースで判断せざるを得ないという特性を鑑みて、従来のガイドラインに対する追補版を付けようといことになっているそうです。今回の会議でガイドライン案の承認であるステップ2には至らなかったわけですが、例えば「抗体医薬のように胎盤を通過しないものの場合、催奇形性試験は申請までに行えばいいだろう」といった議論がなされたことが紹介されていました。
 また、「既存の治療法が有効でない進行性のがん患者に対して、新規の抗がん剤をいち早く届けるためには、どのような非臨床試験が必要か」「多種多様な医薬品と併用することの多い高齢者に対する医薬品は、承認前にどのような評価を行い、どういうことは市販後に行わざるを得ないのか」といったテーマでも議論がなされたことが紹介されました。ゲノムバイオマーカーに関する記載の方法、遺伝子治療用医薬品の安全性なども、今回議論が行われたトピックです。
 ゲノムバイオマーカーに関しては、医薬品の評価、承認申請を加速する有力なツールと見られており、今回の横浜会議では昨年作成されたガイドライン案が承認されました。今後も、2010年6月にステップ4まで進めて同年中にガイドラインを公表するというハイスピードの作業が計画されています。まずはゲノムに絞って議論されていますが、ゆくゆくは他のオミクスを利用したバイオマーカーについてもガイドラインが作られていくでしょう。また、遺伝子治療の安全性に関しては、ウイルスの排出に関するガイドラインが作られる予定ということでした。ICHでの遺伝子治療に関する議論については、増田記者が日経バイオテク・オンラインに記事を書いているので、そちらも参照してください。
ICHにあわせて遺伝子治療ワークショップが開催、海外での遺伝子治療の実務的な問題を議論
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/3218/
 いずれにせよ、用語の統一から始まって、ステップを踏んでガイドラインを作っていくというその作業内容を聞いていると、関係者がいかに多大な労力を費やして医薬品規制の国際標準化を図っているのかを再認識させられました。にもかかわらずなぜドラッグラグがあるのでしょう。規制が標準化されていれば医薬品の流通は世界同時となっていいはずなのに、そうはなっていません。ドラッグラグの原因の多くは市場や事業者の側にあるのでしょうが、それがすべてだとも思いません。熱心な議論を聞けば聞くほど、現実とのギャップが気になりました。
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
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 バイオ研究者のスキルアップやキャリアアップに役立てていただきたい月刊のPDFマガジン「BTJジャーナル」09年5月号を5月末に発行・公開しました。
 今号の「キャリア」コーナーでは、科学技術分野の文部科学大臣表彰を取り上げました。受賞者は科学技術賞が5部門合計で259人、うちバイオ系は27人でした。
 若手科学者賞は81人の受賞者のうちバイオ系が24人。九州大学生体防御医学研究所の特任准教授が3人選ばれたのが特に目立ちました。
※BTJ関連記事
平成21年度科学技術分野の文部科学大臣表彰、若手科学者賞81人のうちバイオ系24人、うち九大生体防御医学研が3人、年70回講演の理研の辨野氏は理解増進部門
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/2387/
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 受賞なさった研究者の確認と業績をぜひお楽しみください。
                        BTJ編集長 河田孝雄
BTJジャーナル09年5月号の内容を目次にて紹介します。
P.2 アカデミア・トピックス
09年補正予算で科学技術バブル
文科省は基金で90億円×30課題
P.5 リポート
分子生物学会春季シンポジウム
宮崎シーガイアから黎明の曙光
P.10 キャリア
科学技術分野文部科学大臣表彰
若手科学者賞のバイオ系24人
P.13 コミュニティ
インフルエンザ研究者交流の会
P.14 BTJアカデミック・ランキング
補正予算関連記事が上位に

P.15 専門情報サイト「FoodScience」
文科省の「給食基準」通達

P.19 広告索引