こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。先週後半に、再生医療に関していろいろと取材をする機会がありました。
 まず大きなトピックはアルブラストが厚生労働省に提出していた他家培養角膜上皮細胞シートの確認申請が審査を通過し、治験開始へと動き出したことです。培養細胞シートを利用した角膜上皮の再生医療は、これまでも臨床研究が行われてきましたが、これで薬事法に基づいた製造販売承認を取得し、事業化できる見通しが立ってきました。
アルブラスト、他家培養角膜上皮細胞シートが確認申請を通過
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/3020/
 実は角膜上皮移植用の細胞シートの事業化を目指しているバイオベンチャーは、国内に3社あります。1社は既に自家培養表皮「ジェイス」の承認を取得して販売を開始したジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)で、自家培養角膜上皮については07年5月末に厚生労働省に確認申請を提出。その後、医薬品医療機器総合機構から追加の動物実験を求められ、審査が継続しているところです。
J-TEC、2010年3月期のジェイスの売上高2億4000万円を計画、「注文は毎週あるが、売り上げ計上できるのは数分の1」
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/2595/
 もう1社は、東京女子医科大学の岡野光夫教授の温度応答性培養皿の技術をベースにした再生医療の事業化を目指すセルシードで、角膜上皮移植用の自家口腔粘膜由来細胞シートに関して、日本では確認申請の準備中ですが、フランスで先行して臨床試験を行っており、2010年夏にも欧州医薬品審査庁(EMEA)に承認申請を行い、2011年には欧州で販売を開始したいとのことです。
セルシード、09年6月末までにフランスでの治験終了見込み、コンパッショネートユースに向け各国当局と交渉
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/3021/
 3社のうち、J-TECは患者の角膜輪部の細胞を培養して作製、セルシードは患者の口腔粘膜の細胞を培養して作製するもので、患者の自家細胞を利用しています。これに対してアルブラストの細胞シートは、アメリカのアイバンクから購入した角膜から細胞を採取して培養するもので、他家細胞に当たります。再生医療では、他家の細胞や組織を利用した方が品質の確保や量産に向くので事業化には適していると考えられているものの、一方で免疫原性や感染が懸念されるため、規制をクリアするためのハードルは高いと考えられてきました。しかし、アルブラストの他家培養細胞シートが確認申請の通過で先んじたことからすれば、そうした考え方は改めた方がいいのかもしれません。アルブラストの北川社長も、「免疫やウイルスなどのチェック項目に少し違いがあるものの、当局の考え方は自家も他家も一緒だ」と話していました。
 それから、先週後半に東京女子医科大学に取材に行ったのですが、温度応答性培養皿を用いて作製した細胞シートによる再生医療に関しては、角膜上皮移植だけでなく、食道がんの内視鏡的粘膜切除術 (EMR)によって粘膜を剥離した部分に自家口腔粘膜細胞シートを移植する治療法や、拡張型心筋症や虚血性心筋症などの重症心筋症患者に対する自家筋芽細胞シート移植などの治療法についても臨床研究が始まっています。さらに、その次の新しい治療法も、臨床研究の開始を視野に入れて開発が進められています
東京女子医大、細胞シートを利用した臨床応用の次のターゲットは歯根膜と肺
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/3022/
 また、東京大学大学院医学系研究科の高戸毅教授が中心となっているNEDO三次元複合臓器構造体研究開発プロジェクトの会議にも参加する機会がありました。この会議はコンフィデンシャルなもので詳細は書けませんが、関節や皮膚の再生医療の実現を目指して、ユニークな技術開発が進められています。こうした状況を取材していると、再生医療が実用化に向けて着実に進展していることが分かります。
 ただその一方で、J-TECのジェイスの事例からも分かるように、実際に臨床現場で普及し、事業として成り立つようになるのは容易なことではありません。前述の会議で高戸教授は、「臨床現場では再生医療技術も複数ある治療法の選択肢の1つに過ぎず、他の治療法よりも明らかに優れているというものでないと普及は難しい」と指摘していました。臨床応用の開始から、普及、事業としての成立に向けて、再生医療が越えて行かなければならない壁はまだまだたくさんありそうです。
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
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「宮崎の海岸線を車でぶっとばすと気持ちが晴れる」
ペプチドハンターとして名を馳せた
松尾壽之・宮崎大学名誉教授が講演
宮崎シーガイアで開かれた日本分子生物学会
第9回春季シンポジウムのリポートを
BTJジャーナル09年5月号に掲載
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アカデミア向けのスペシャルサービス「BTJアカデミック」はこちらから
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 バイオ研究者のスキルアップやキャリアアップに役立てていただきたい月刊のPDFマガジン「BTJジャーナル」09年5月号を5月末に発行・公開しました。
 宮崎のシーガイアで09年5月10~12日、日本分子生物学会第9回春季シンポジウム「分子生物学の新たな胎動~宮崎から黎明の曙光~」が開催され、市民公開講座への参加者を含め合計600人が参加しました。
 シンポジウムでは、トップジャーナルで世界に成果を発信しているきらびやかな分子生物学のトップ研究者17人のわくわくする講演が続きました。
 そして、スペシャルレクチャーの講師は、ペプチドハンターとして名を馳せた松尾壽之・宮崎大学名誉教授。「生理活性ペプチド研究と私」と題して1時間講演なさいました。
 「宮崎の海岸線を車でぶっとばすと気持ちが晴れる。ペプチドに夢を託す。日本という豊かな土壌。苦しくて通り道のり。さまざまな選択肢。80歳まで生きることができた。今日の話は大分あがっていた」と、松尾さんは講演を締めくくりました。
 「BTJジャーナル」09年5月号P.5~7の記事をぜひお楽しみください。次のサイトでPDFファイルをダウンロードすると、全文をご覧いただけます。
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/
※分子生物学会第9回春季シンポジウムのBTJ記事
宮崎大学農の酒井教授ら、エビに有用なDNAワクチンの効果を自然免疫遺伝子で判定
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/2452/
 
分子生物学会第9回春季シンポ宮崎で開催、市民公開講座に250人、シンポに350人
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/2062/
※※オンラインのBTJ記事は、全文をお読みいただくには「日経バイオテクオンライン」への申し込みが必要です。申し込みはこちらから。
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 無料で全文をご覧いただける「BTJジャーナル」もぜひお楽しみください。PDFファイルは次のサイトからダウンロードできます。
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/
                         BTJ編集長 河田孝雄
BTJジャーナル09年5月号の内容を目次にて紹介します。
P.2 アカデミア・トピックス
09年補正予算で科学技術バブル
文科省は基金で90億円×30課題
P.5 リポート
分子生物学会春季シンポジウム
宮崎シーガイアから黎明の曙光
P.10 キャリア
科学技術分野文部科学大臣表彰
若手科学者賞のバイオ系24人
P.13 コミュニティ
インフルエンザ研究者交流の会
P.14 BTJアカデミック・ランキング
補正予算関連記事が上位に

P.15 専門情報サイト「FoodScience」
文科省の「給食基準」通達

P.19 広告索引