こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 2009年3月期決算企業の決算説明会の取材がやっと一段落しました。まだ記事を書いていない会社が数社残っており、これから記事をまとめなければなりませんが。
 その中で、先週(19日)説明会を行ったジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)の自家培養表皮「ジェイス」に関する話題です。詳細は日経バイオテク・オンラインの記事にまとめたので、そちらをお読みください。
J-TEC、2010年3月期のジェイスの売上高2億4000万円を計画、「注文は毎週あるが、売り上げ計上できるのは数分の1」
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/2595/
 ジェイスは、J-TECが99年に創業して以来開発を進めてきた自家培養表皮で、07年10月に重症熱傷の適応で製造承認を取得し、09年1月に保険に収載されました。それでいよいよ事業化開始となったわけですが、08年12月17日に開催された中央社会保険医療協議会(中医協)で保険適用が承認された後、12月26日に厚生労働省が「『特定保険医療材料の材料価格算定に関する留意事項について』及び『診療報酬の算定方法の制定等に伴う実施上の留意事項について』の一部改正について」という通知を出して、「一連につき20枚を限度に算定する」「広範囲熱傷特定集中治療室管理料の施設基準の届出を行っている保険医療機関において実施する」などの制約を設けました。
 こうした経緯は、以下の記事をご参照ください。
厚労省薬食審の薬事分科会、組み換えアルブミンや培養表皮などの承認を了承
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/7379/
中医協が自家培養表皮の保険適用を承認、日本初の再生医療が普及へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8375/
自家培養表皮のジェイスは「一連につき20枚が上限」と厚労省が通知、算定できる医療機関も施設基準で限定
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8783/
 この通知は、J-TECにしてみれば後出しじゃんけんのようなもので、これまでに策定していた事業化プランを根底から覆すことになったと思われます。というのも、J-TECでは従来、「1人の患者に平均20枚ぐらい使用する」と説明してきましたが、使用した医療機関は20枚までしか保険償還の請求ができないことになりました。しかも広範囲熱傷特定集中治療室管理料の届出を行っている医療機関は、07年7月1日現在24施設(病床数51)しかありません。せっかく保険収載されても、実際にジェイスを使用できる(正確には、使用した後、その費用について保険償還の請求ができる)医療機関はごくわずかに限られるのです。
 19日の説明会では、この通知がどんな歪をもたらしているのかが分かりました。J-TECの小澤洋介社長は、「実際に出荷を開始したのは2月中旬からで、5月中旬までの3カ月間は実は毎週出荷している。広範囲熱傷特定集中治療室管理料の届出を行っていない医療機関にも、人道的観点から提供してきた」と説明。実際に保険請求されている枚数(J-TECが売上高を計上している枚数)の数倍を、無償で出荷してきたことを公表しました。その中には、届出していない医療機関に対する分と、届出している医療機関が21枚以上使用した分とが含まれています。
 20枚という枚数が妥当かどうかはともかくとして、診療報酬で「上限」を設けるケースはほかでもあることです。そうした場合に、「選定療養」の制度を使って、上限を超えた部分を患者に負担してもらうことも行われています(救急医療で、治療の必要性から上限を超えて使用したものが選定療養に該当するのかは議論が必要ですが)。20枚が少ないかどうかは、実際に臨床での使用経験を重ねる中で実証していかなければならないのでしょう。
 それよりも疑問を感じるのは、利用できるのを広範囲熱傷特定集中治療室管理料の届出医療機関に限ったことです。厚労省の資料では24カ所となっていますが、J-TECによると「明らかに機能していないところが1カ所ある」とのことで、地域的にも北海道0、東北2、関東9、中部5、近畿5、中国0、四国1、九州1とばらつきがあります。J-TECによると、ジェイスの適応となる受傷面積30%以上のII度・III度の熱傷患者は年間900人程度だとか。当然、そのすべてが広範囲熱傷特定集中治療室管理料の届出医療機関で治療を受けているわけではありません。ちなみに現在、国内には200カ所を超える救命救急センターがあり、そのほとんどで重症熱傷患者の治療に当たっていると思われます。
 重症熱傷の患者が運ばれてきたときに、受け入れを拒めば「たらいまわし」と指弾され、受け入れて治療に当たろうとすると、行える医療行為が事実上制約されているというのが救急医療の現場の実態というわけです。
 J-TECの小澤社長は説明会で、「無償で提供することは通常の商習慣と異なるので不適切といった声もあるので、今後は厚労省が(保険償還可能と)認めたところだけに出荷するよう改善していく」と説明していました。しかし、その結果、ジェイスを使える医療機関が全国23カ所の届出医療機関だけになるのは疑問です。そもそも23カ所しか届出医療機関がないという時点で、広範囲熱傷特定集中治療室管理料の施設基準が現場の実態から乖離しているのは明らかでしょう。ジェイスを慎重に普及させるために、利用できる医療機関を制約するとしても、少なくとも広範囲熱傷特定集中治療室管理料の施設基準を見直す必要はあるように思います。
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
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 “黄”コーナー「コミュニティ」ではまず、7月3~5日に第23回シンポを開催するインフルエンザ研究者交流の会の活動を紹介しています。交流の会の幹事の1人である日本中央競馬会(JRA)競走馬総合研究所(宇都宮)の生命科学研究室主査の杉田繁夫・薬学博士が作成なさった、H1N1の系統樹と、8セグメントの由来を説明した図を、13ページに掲載しています。
「新型H1N1ウイルスの出現ですが、あたかもつい最近、ヒト、トリ、ブタ、ヨーロッパのブタインフルエンザウイルスの間で遺伝子交雑が起こったかのように誤解されている方が多いのですが、正確には、すべてブタインフルエンザウイルス由来の遺伝子です。全ての遺伝子がブタインフルエンザ由来であったのは、初めての出来事です。個々の遺伝子のルーツを探るといろいろありますが、もっとも根源的なルーツだけを言うと全てトリになってしまいます」と、杉田さんは5月26日付けの交流の会のメールで説明なさっています。
 杉田さん作成の図の一部は、BTJジャーナル09年5月号P.13でご覧いただけます。BTJジャーナルのコンテンツはPDFファイルをダウンロード(無料)すると全文を覧いただけます。ぜひお楽しみください。
                         BTJ編集長 河田孝雄
以下、BTJジャーナル09年5月号の内容を目次にて紹介します。
P.2 アカデミア・トピックス
09年補正予算で科学技術バブル
文科省は基金で90億円×30課題
P.5 リポート
分子生物学会春季シンポジウム
宮崎シーガイアから黎明の曙光
P.10 キャリア
科学技術分野文部科学大臣表彰
若手科学者賞のバイオ系24人
P.13 コミュニティ
インフルエンザ研究者交流の会
P.14 BTJアカデミック・ランキング
補正予算関連記事が上位に

P.15 専門情報サイト「FoodScience」
文科省の「給食基準」通達

P.19 広告索引