こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 新型インフルエンザが国内でも発生し、感染者は急速に増加しています。これを受けて厚生労働省はさまざまな対策を打ち出していますが、5月18日付で「新型インフルエンザの国内発生に係る血液製剤の安全性確保について」とする課長通知を出しました。
 通知には、「献血希望者が新型インフルエンザに罹患の疑いのある患者(季節性インフルエンザを除く。)と7日以内に濃厚な接触があったことを申告した場合には、当該献血者に発熱等の症状がなくとも採血を行わないこと」「献血を行った者が、献血後7日以内に新型インフルエンザ患者又は新型インフルエンザに罹患の疑いのある患者(季節性インフルエンザを除く。)となった場合には、直ちに献血を行った赤十字血液センターに対し、献血を行った事実を伝えるよう、採血当日に献血者に周知すること」「採血した血液が、献血を行った者又は医療関係者等からの献血後情報により新型インフルエンザに罹患している者の献血によるものと判明した場合、当該血液を血液製剤の原料としないこと」と書かれています。
 一方で、今回の新型インフルエンザについては病原性などが季節性インフルエンザと変わらないことから、政府の行動計画を近く見直すという方針も示されています。そのような状況で、上記のような季節性インフルエンザとは異なる対策をとる必要があるのかという声も聞こえてきそうです。ただ、まだ行動計画が見直されていない現状においては、このような通知を出さざるを得ないということかもしれません。また、輸血によって新型インフルエンザに感染するリスクが不明な現状では必要な対策のようにも思います。
 先週開催された厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の血液事業部会運営委員会では、日本赤十字社の人が、「『海外から帰国して4週間以内の方、インフルエンザ症状がある方、鼻水、咽頭炎、吐き気、嘔吐や下痢などの症状がある方は献血をご遠慮いただいております』とするポスターを作って血液センターに掲示している」と報告していました。その時点ではまだ国内では新型インフルエンザは発生していなかったので、水際対策の延長のような内容ですが、今回の通知を受けて、恐らく対策を強化することになるのでしょう。
 このようにして日赤では問診によって感染リスクを低下させる対策を取っています。エイズウイルス(HIV)やC型肝炎ウイルス(HCV)などは検査してはじいていますが、新しく出てきたウイルスなどを検査ではじくことはできないわけですから、問診で少しでもリスクのある人を排除しようという考えは分からないではありません。ただ、少しでもリスクのある人を排除するやり方では、例えば今回の新型インフルエンザが拡大した時に、献血可能な人が少なくなって、献血血液が不足するようなことにならないのかと心配になります。
 新興の感染症に効力があると期待されているのが、血液製剤の不活化技術です。これは、ウイルスや細菌といった感染因子のDNAを壊したり、架橋することによって、血液製剤に混入した感染因子を増殖できないようにするものです。残念ながらプリオンたんぱく質には有効ではありませんが、未知のウイルスや細菌も不活化できる技術ということで、昨年、薬食審の委員会で導入の検討がなされました。その結果、全国一律ではなく、地域を限るなどした段階的導入を日赤が検討するということになりましたが、「速やかに導入する」ということではなさそうです。先週の運営委員会では、4月1日付で日赤の血液事業本部の薬事課に、不活化技術導入の業務に専任でかかわる「不活化担当」の参事と主査を設置したことが報告されました。ただし、実際の導入については、「これから検討して運営委員会で報告しながら進める」ということで、すぐにも薬事の手続きを開始するわけではなさそうでした。
 今回の新型インフルエンザの件で一番痛切に感じたのは、状況変化のスピードの速さです。国内で未発生だった先週まではどこか対岸の火事のようなところがあったのですが、ほんの数日間で日本は世界で4番目に感染者が多い国となってしまいました。そんな感染症を相手に、専門家が集まって議論して、コンセンサスを得てから対策を打ち出すというやり方が通用しないのは明らかです。幸いにも今回の新型インフルエンザは毒性が低かったわけですが、いつ、どのような新興感染症が出現してくるか分からない状況の下で、不活化技術の導入を時間をかけて議論ばかりしていても仕方がないように思います。
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
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米ジョージア州都Atlantaで「BIO2009」がいよいよ開幕
ジョージア州現地リポートはBTJジャーナル09年4月号に掲載
米疾病対策センター(CDC)などの取り組み紹介
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 米ジョージア州Atlantaで5月18日、世界最大規模のバイオ・イベントである「The 2009 BIO International Convention(BIO2009)」が開幕しました。
※BTJ関連記事
新型インフルがバイオ関連展示会・学会にも影響、KASTは米BIO2009の実機展示取り止め、高分子学会は神戸の大会中止
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BIO2009が開幕、日経バイオテク本誌にリポートを掲載
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/2445/
 このBIO2009の開催地であるジョージア州を、09年2月に日経BP社バイオ部の星良孝記者が現地取材したリポートを、BTJジャーナル09年4月号P.4~7に掲載しています。
 ジョージア州都Atlantaに本部を置く米CDCやEmory大学が医薬研究を後方支援し、ジョージア州がバイオ産業の育成に注力しています。金融危機のあおりで自動車、電機産業を中心に打撃を受ける米国南東部で、米国の底力が垣間見えました。
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                         BTJ編集長 河田孝雄
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