先日、ある大学で、大学院生を相手に講演する機会をいただきました。「バイオ産業を俯瞰する」というような大仰なテーマをいただいたのですが、私のように専門を持たず、ジャーナリストとしていろいろな方に取材しているという立場からすればかえって話しやすいテーマかな、ということで、バイオ産業の過去、現在、未来を展望したような話をさせていただきました。
 大学院生が相手だったので、私が学生だったころのことを少し振り返ってみました。私が大学に入ったのは1983年で、バブル景気の一歩手前の時期だったのですが、バイオ産業に対しては夢のような期待をもって語られていました。
 日経ビジネスの1982年2月8日号に掲載された「軽・薄・短・小化の衝撃」という特集記事があります。この記事は、流行商品も産業構造も、「重厚長大」から「軽薄短小」に向かっているというトレンドを読み解いたもので、「軽薄短小」という言葉は流行語にもなりました。
 この記事の冒頭にこんな夢物語が語られています。それは、記事が書かれた10年後の1992年に、大手化学メーカーS社が、従来の化学プラントの10分の1の大きさで済むバイオテクノロジーを使った石油化学プラントを完成させたというものです。また、S社の中央研究所ではICメーカーのK社と共同で、神経細胞生理学と遺伝子工学、半導体技術を結びつけたバイオコンピューターの研究を進めており、完成すれば、それまでのICや電算機の性能を大幅に上回るとも書かれています。
 当時、私も抗体を使った「ミサイル療法」や、インターフェロンやインターロイキンを「夢の抗がん剤」として取り上げた本を読んだような記憶があります。でも現在から振り返ってみると、一部実現した部分はあるものの、夢を膨らませたほどではなかったかな、という印象です。
 2000年前後にもバイオ産業に対する夢は大きく膨らみました。そのころ私は、日経ビジネス編集部に在籍していて、1999年9月に掲載された「2001年生命が解明される日」という特集記事を担当しました。
 この記事には、Celera Genomics社、Human Genome Science社、Incyte Pharmaceu ticals社などのゲノム解読ベンチャーに資金が集まり、ヒトゲノムの解読競争がヒートアップしている状況や、ゲノム解読が完了すれば、インシリコ創薬などで医薬品が数多く効率的に生み出されたり、個の医療が実現したりするだろうといった未来予想が描かれています。しかし、そのような夢物語は、まだ実現するには至っていません。
 2000年のバイオブームには私もあおった側なので弁明しておきますと、生命というものは、当時言われていたほど単純ではなかったという一言に尽きると思います。当時の記事には、「ヒトの遺伝子は10万個と限りがあり、ゲノム解読ベンチャーによる独占が懸念される」と紹介されていたことからも分かるように、当時はスプライシングバリアントの存在すら知られていない状況でした。ゲノム解読で手に入るのは単語帳(それもスペルミスの多い)だけで、単語の意味も分からないし、文法の勉強もこれからしなければならないということがよく分かっていなかったわけです。もちろん、分子標的薬も登場していますし、個の医療も徐々に実現には向かいつつありますが、思ったよりも時間がかかっているというのが実情でしょうか。
 そういう形でバイオ産業に対する期待は、これまで過熱と退潮を繰り返してきました。現状はどうかというと、バイオベンチャーの資金難が深刻化していることからも分かるように、バイオ産業への期待は少ししぼみ気味ですが、バイオエタノールなどの環境バイオや、ES細胞/iPS細胞の実用化、バイオ後続品などの分野では再び期待が高まりつつあります。また、長期的に展望すれば、環境問題や人口高齢化、食糧問題などの課題が深刻化するのは必至で、それを克服するためにはバイオ産業が大きな役割を担うのは間違いないと思います。だから、これからバイオ産業にかかわろうという人たちには、バイオ産業に過度な期待をするのは禁物ですが、長い時間をかけて伸び行く産業であることを信じてほしいというメッセージを伝えたのですが、正しく伝わったでしょうか。
 大学院生を相手に話していて少し思ったのは、ちょっと大人しいな、ということです。居眠りをしているわけでもなく、話は一生懸命聞いてくれていたようですが、質疑応答になってもさほど活発には質問が出ません。たまたま、その教室に集まった人たちが大人しかっただけかもしれませんが、もっと意見や質問をぶつけてもらいたかったですね。このメールにしてもそうですが、読者の方々と双方向のやり取りをすることを通じて、こちらもいろいろと学べますし、メディアとして成長していけるわけですから。今回に限らず、BTJ/HEADLINE/NEWSでは皆様からのご意見や要望などをお聞きしたく、お待ちしています。
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
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もし現在だったら、米国には渡らず、GFPを発見しなかったかもしれない。
日本で研究するなら理研がよいのでは。
GFPの発見で08年ノーベル化学賞の下村脩博士が日本で記者会見と記念講演、
【創刊3周年】BTJジャーナルで下村脩博士のコメントをご覧ください。
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 バイオ研究者のスキルアップやキャリアアップに役立てていただきたい月刊のPDFマガジン「BTJジャーナル」09年3月号を先月末に発行・公開しました。
 2008年ノーベル化学賞を受賞なさった下村脩博士の記者会見のもようをP.10~11でお伝えしてます。下村博士は09年3月23日に東京で記者会見に応じ、翌24日に記念講演をなさいました。
 3月25日の夜に発行・公開した「BTJジャーナル」09年3月号に、記者会見のもようを盛り込みました。4月24日発行・公開の09年4月号では記念講演などの内容をお届けします。
 BTJジャーナルはPDFファイルをダウンロードしていただくと、どなたでも全文をご覧いただけます。ぜひお楽しみください。
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※下村博士関連のBTJ記事リスト
「天の導くままに─発光生物と半世紀」と題して下村脩博士が講演、きっかけは偶然、
「名大の江上さんが留守だった」
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/0863/
発光キノコの発光メカニズムを解明したい、下村脩博士が記者会見で熱意
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/0859/
ノーベル化学賞の下村脩博士が東京で3月23日に記者会見、3月24日に記念講演
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/0855/
内藤賞受賞の上村大輔・慶大教授、マリンメタゲノムは沖縄OISTと取り組む
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/0147/
 
続報、ノーベル化学賞の下村博士の1962年論文、被引用数が90年代から急増して08年に最多更新
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/6598/
速報、ノーベル化学賞をまたまた日本人が受賞、緑色蛍光たんぱく質(GFP)の発見で下村脩博士
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/6597/
それでは最後に09年3月号(第39号)のコンテンツを目次で紹介します。
P.2 アカデミア・トピックス
再生医療学会に1800人超
実用化目指し活発に議論
P.5 リポート
情報の循環を改善する
統合DBプロジェクト本格化
P.10 キャリア
08年ノーベル化学賞の
下村脩博士が記者会見
P.12 日経BP技術賞が決定
P.13 BTJアカデミック・ランキング
再生医療議連の提言案がトップ
P.14 専門情報サイト「FoodScience」
P.15 広告索引
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                         BTJ編集長 河田孝雄