長崎は今日は雨だった。
 歌のタイトルじゃありませんが、本日、長崎の気温は19℃、小雨です。長崎県が推進する治験プロジェクトの取材と長崎大学の熱帯病研究所の取材で、現在、羽田を発ち、飛行中です。長崎県が各市町村立病院を県単位で一括経営し、地域医療の効率とサービス向上を図る新しい試みがどこまで進んだか、うかがうことも楽しみです。ここに日本の未来があります。
 医療や年金は政治家のおもちゃにしてはなりません。国民の命と安心につながるためです。国民の安心なくして国内需要に依存する経済発展はあり得ない。サブプライム問題で、アイスランドに次いで(米国より)厳しいGDPの縮小に追いやられた原因です。
 内需拡大という政府の政策は、この30年で何度唱えられたのか?
 若者達が年金を信頼せず不払いが増え、ひたすら消費を抑え貯金に走る姿は、亡国を感じさせるものです。
 年金安心プランが偽装であったことが明白となりました。甘い予測でお茶を濁す厚労省などの官僚群を厳しくチェックし、リアリティを提示することが政治家の責務であり、そうした政治家に一票を投じることが、国民の務めだと思います。「神のみぞ知る」という厚労大臣の発言の正直さには、驚き以上のものを感じたのではないでしょうか?
 長崎県の改革はこうしたその場しのぎとはまったく対極をなすものです。
 高齢化社会と過疎化(道路網の整備による医療圏の変化も)、医療の高度化によって、要員の確保もママならず、もう既に維持することが不可能である自治体立病院の現実を直視して、広域化・分業、そして医療資源の適正配分を行うことが、結局は医療崩壊を食い止め、患者さんや地域の健康を保障する唯一の施策であることは、誰もが納得するでしょう。
 しかし、実際にはおらが病院に拘泥し、市民病院を確保するという甘い公約を振りまく、政治家に票が集まります。医師を確保できず赤字を垂れ流していた市立病院を休止した銚子市では市長がリコールで、3月30日に辞職に追い込まれました。この現実との矛盾を解決方策を長崎県は実行に移そうとしているのです。
 勿論、既得権をもつ勢力から反対は千波万波のように、押し寄せておりましたが、一体どこまで実現しつつあるのか?実績も実行力もある人物が中核として頑張っており、私は大いに期待しています。
 さて、バイオです。
 先週は京都乳癌コンセンサス会議の国際会議を取材しました。
 エストロゲン受容体阻害剤、アロマターゼ阻害剤、抗体医薬「ハーセプチン」などのEGFシグナルパスウェイの阻害剤が実用化しつつある乳がんは、標的医薬と個の医療の最前線です。
 最近では、IP3シグナル伝達系の阻害剤やEGFシグナルパスウェイ中の新たな標的たんぱく質の阻害剤、第二世代のハーセプチンの開発が急速に進んでいます。加えて、既に実用化された上記の乳がん治療薬同士の併用や、臨床開発中の新薬候補との併用試験などが進むなど、本当に多数の臨床試験が走っている領域です。
 こんなに大規模な臨床試験が多数必要だと、臨床試験の対象となる症例数を確保することが困難になるという医師の発言もまんざら冗談ではありません。こうした事情は、大腸がん、肺がん、胃がんなどでも、今後、抗体医薬や標的医薬の臨床開発が進むと、顕在化するだろうと思います。
 しかし、もっと深刻な状況は、果たしてこんなに次々と投入される新薬を「本当に我が国の医療現場で使いこなせるのか?」ということです。ただでさえ、過剰労働に曝されている医療機関で、標的などの技術革新が消化不良となる可能性があります。あまりに情報が多く、医療関係者の中で咀嚼不能になりつつあるのです。
 技術革新と現場にギャップが生じています。
 コンセンサス会議はこうした状況を打破するために、現段階の乳がんの治療のコンセンサスを共有しようという仕組みです。乳がんの専門医にアンケート調査を行い、国内外の専門医がそのアンケート結果を議論し、現在では乳がんの治療をどう行うべきかを提言しました。さらには症例を取り上げて国内外の専門医が治療方針を議論する試みも行われました。
 アンケートを見る限り、我が国では検査法が既存の検査を代替するには、90%の精度では駄目で、95%以上の精度を要求するなど、保守的な傾向が見られました。人の命に関わることなので止むを得ないかもしれませんが、我が国の社会を反映して、医療も濃厚に保守的です。
 この保守性を打破して、安全性を確保しつつ技術革新を医療で実現する支援が必要です。そのためには、まったく皮肉ですが、もっと大量の正確な情報を医療関係者に提供しなくてはならないという恐ろしい矛盾があるのです。
 日経バイオテクを創刊して28年、ウェブサイトBiotechnology Japanを創刊して14年立ちましたが、日々ニュースを皆さんにお届けしながら、実は切歯扼腕していることがありました。必ずしも正しい情報が浸透し、常識にならないことです。抗体医薬の開発で我が国の製薬企業が10年出遅れたことや、組換え農作物の栽培が我が国でいまだ実現できない理由です。
 厚労省は09年度の景気対策で、未承認医薬の臨床開発に補助金を提供する案が浮上しています。これは未承認医薬の大たな卸し、もう二度とこうした承認の遅れを認めないためには卓越な施策です。しかし、医療現場の情報の消化不良を何とかしないと、承認されても国際的に同じレベルでこうした医薬品を活用して、治療成績向上につなげることが困難となるでしょう。
 もうそろそろ断片化したニュースを皆さんにお届けするだけでは、到底問題は解決しないことを告白しなくてはならないでしょう。インターネットを活用して、コンセンサス形成に資するような周知を集め、構造化したビジョンやインテリジェンスを供給する努力を私達、メディアも真摯に検討しなくては、皆さんに断片化した情報というご迷惑をかけるだけの存在に成り下がるのではないかと、恐れ戦いています。
 これから長崎で思案橋です。
 本日は駄洒落もまったく決まりませんが、誰か、良いアイデアがあればどうぞ遠慮なくお寄せ願います。ここにも未来の入り口があります。
 6月19日に東京で次世代シーケンサーのセミナーを開催します。午後からの御予定を是非とも空けておいてください。
 今週もお元気で。新緑をご堪能願います。
      Biotechnology Japan Webmaster  宮田 満
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<<BTJブログWmの憂鬱>> 
最新一週間の記事  http://blog.nikkeibp.co.jp/bio/miyata/ 
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2009-04-16   
BTJブログ、WMの憂鬱4月15日、何故、siRNA医薬のフェーズIIIは失敗したのか?
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/1430/
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2009-04-15    
BTJブログWmの憂鬱2009年04月15日、ファーマコゲノミクスの運用指針が発表
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/1415/
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2009-04-13    
BTJブログWmの憂鬱2009年04月13日、まだ萌芽段階なのに綻びが生じている
iPS細胞研究
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/1367/
 
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1800人が集まった再生医療学会をリポート
【創刊3周年】BTJジャーナル09年3月号でご覧ください。
BTJジャーナルのダウンロードはこちらから
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「BTJアカデミック」はこちらから
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 バイオ研究者のスキルアップやキャリアアップに役立てていただきたい月刊のPDFマガジン「BTJジャーナル」09年3月号を先月末に発行・公開しました。
 「アカデミア・トピックス」は今号では、3月上旬に東京で開催された第8回日本再生医療学会総会のトピックスをリポートしています。ぜひご覧ください。
「BTJジャーナル」のダウンロードはこちらから
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※日本再生医療学会関連のBTJ記事リスト
再生医療学会、骨・軟骨再生医療に向けた標準化活動の進展を発表
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/0485/
再生医療学会、細胞シート工学でシンポジウム、食道がん患者に対する細胞シート移植の臨床研究が良好な成績
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/0466/
再生医療学会、名大、ニコン、細胞集団の形態を観察するシステムを利用した再生医療用ツールを提案
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/0465/
再生医療学会、阪大、クリングルファーマ、なぜ肝細胞増殖因子が敗血症に効くのか
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/0430/
再生医療学会、再生医療実現に向けた規制緩和に関する声明を発表
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/0453/
再生医療学会、京大、幹細胞創薬研、相同組み換えでヒトES細胞を遺伝子改変、サイレンシング抑制に成功
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/0400/

網膜色素変性症のiPS細胞を樹立した慶大医学部の坪田教授、「iPS細胞は究極のアンチエイジング細胞だ」
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/0250/
 BTJジャーナル09年3月号をダウンロードしていただくと、記事全文をご覧いただけます。それでは最後に09年3月号(第39号)のコンテンツを目次で紹介します。
P.2 アカデミア・トピックス
再生医療学会に1800人超
実用化目指し活発に議論
P.5 リポート
情報の循環を改善する
統合DBプロジェクト本格化
P.10 キャリア
08年ノーベル化学賞の
下村脩博士が記者会見
P.12 日経BP技術賞が決定
P.13 BTJアカデミック・ランキング
再生医療議連の提言案がトップ
P.14 専門情報サイト「FoodScience」
P.15 広告索引
 ぜひ「BTJジャーナル」をダウンロードしてお楽しみください。パソコンでご覧いただくと、リンク先の情報もすぐに入手できます。プリントアウトをお読みいただくなら、カラーをお勧めします。
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 BTJジャーナルは、次のサイトでPDFファイルをダウンロードしていただくと(無料)、ご覧いただけます。オープンアクセスに対応した新タイプのジャーナルですので、ぜひお楽しみください。
                         BTJ編集長 河田孝雄