毎週金曜日のバイオテクノロジー(BTJ)メールで編集部原稿を担当しておりますBTJ編集長の河田孝雄です。
 まずはお礼から。今週月曜日に日経BP技術賞の表彰式を都内で開催させていただきました。「小腸疾患を診断・治療できるダブルバルーン内視鏡」で医療・バイオ部門賞を受賞なさった山本博徳・自治医科大学教授と富士フイルム、ニスコの方々と、「巨大ゲノム再構築技術」で同じく医療・バイオ部門賞を受賞なさった板谷光泰・慶應義塾大学教授らと東京大学、三菱化学科学技術研究センターの方々に会場にお越しいただきました。
 さらに日経BP社の40周年を記念して今回新設した読者大賞に選ばれました、山中伸弥・京都大学教授にもお話をいただきました。WBC(ワールドベースボールクラシック)の準決勝を米国でTV観戦するために、ジムのランニングマシーンを2時間ほど走り続けたというエピソードもお話しでした。
※日経BP技術賞関連のBTJ記事(いずれも記事全文をご覧いただけます)
京大山中教授、読者大賞を受賞、3年連続で日経BP技術賞を受賞
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/1183/
09年日経BP技術賞の表彰式本日開催、審査委員長の大石道夫・かずさDNA研究所理事長/所長が審査を講評
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/1181/
09年日経BP技術賞が決定、大賞は神戸製鋼所の小型蒸気発電機、バイオ系部門賞は板谷光泰・慶大教授らの巨大ゲノム再構築技術、読者大賞はiPSの京大山中伸弥研究室
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/0830/
 BTJ/日経バイオテク・オンラインでは、春の学会シーズンのニュースも引き続き、連日報道しております。
 1週間前のメール以降に新たに報道した日本農芸化学会のニュースは以下の7本です。
※日本農芸化学会関連のBTJ記事
ゼブラフィッシュ利用の組み換えたんぱく質生産装置、三重大の田丸氏が完成へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/1250/
蛍光プローブ遺伝子診断、農薬の効く効かないを畑単位で一発判定
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/1254/
世界初遺伝子組み換え植物工場、作物選択にミソ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/1219/
LGG含む3株混合の乳酸菌発酵が乳製品の抗肥満作用を強化、米Tennessee大との成果をタカナシが発表
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/1217/
太陽化学のテアニンはゴルフの集中力を向上、Tiger Woods氏の目をデザインしたテアニン配合飲料「Focus」が米に登場
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/1214/
ネオシルク、カイコによるたんぱく質の生産実績を報告
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/1184/
「植物による医薬製造技術、日米欧で開発が本格化」と阪大・藤山和仁教授が報告
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/1182/
高尿酸血症の予防に役立つプロバイオティクス、京大が大塚製薬との成果を日本農芸化学会で発表
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/1140/
 先週、東京・港の東京海洋大学で開催された日本水産学会の公開シンポジウム「魚介類アレルゲン研究の最前線」もとてもおもしろかったです。
 日本は2001年4月に世界に先駆けて、アレルギー表示制度を施行しました(1年間の猶予期間あり)。このときに「表示が義務化された原材料」(特定原材料)は、卵、乳、小麦、そば、落花生の5品目。特定原材料に準ずるものとされ表示が奨励された原材料が、アワビ、イカ、イクラ、エビ、オレンジ、カニ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、サケ、サバ、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、モモ、ヤマイモ、リンゴ、ゼラチンの20品目でした(このうちバナナは、04年12月に追加された)。
 奨励20品目のうち、エビは、重篤なアレルギー症例数では多い順で5番目だったが、アレルギー/アレルゲンに関する科学的知見が十分に得られていないことから、アレルギー表示が「義務」ではなく「奨励」にとどまりました。
 その後の研究の進展により昨年(08年)の6月3日、エビ、カニのアレルギー表示の義務化が施行されました(2010年6月3日までは猶予)。この結果、現在は、表示義務化の特定原材料が7品目、表示奨励品目が18品品目となっています。
 新たに義務化されたエビ、カニについては、スクリーニングに用いられる定量検査法のELISA法のキットが2製品、日水製薬とマルハニチロホールディングス(販売:ファスマック)とから製品化されました。
 この2製品は、甲殻類の主要アレルゲンである筋原線維たんぱく質のトロポミオシンを認識する抗体を用いたサンドイッチELISA法。感度が高くて、バリデーション結果も良好なことを確認した上で、スクリーニング検査法として公定法的な位置付けになったわけです。
 ところが法律的には、エビとカニは区別する必要があり、ELISA法では原理からいって、エビとカニは区別できないことから、エビとカニを区別して特異的に定性検出できる確認法として、PCR法が開発され、09年1月22日の通知で検査方法に追加されました。
 このPCR法を国立医薬品食品衛生研究所などと共同で開発した企業はハウス食品で、製品は09年2月に発売になりました(販売:ファスマック)。
 今回の水産学会のシンポジウムで、アレルゲンの分析法については、、マルハニチロが甲殻類と魚卵のELISA法を、日水製薬が甲殻類、魚類、イカのELISA法、東京海洋大の石崎松一郎・准教授がPCR(魚類検知用、甲殻類、腹足類および頭足類検知用)について講演がありました。
 海の幸の恩恵を受けている日本の食生活は、水産関連の食べ物・食材の種類が世界でも最も多いようです。特定の品種の作物が栽培されている農作物と異なり、海の“恵み”といえる海産物(一部、川の恵みもある)は実に多様です。日経バイオビジネス01年10月号の記事「食物アレルゲンの検出で世界をリードする日本」でも指摘した点ですが、これらの食物アレルギー対策を進めていくためには、多くの課題が残されれていて、研究が必要です。
・魚介類は、アレルゲン初発の原因食品の第1位、特に40歳代、50歳代
・卵、牛乳に比べて治り難い。
・魚卵は1歳でかなり出てくる。
・日本人の重要なたんぱく質供給源、およそ40%
・食用の魚はおよそ200~300種、日本近海3900種類
 多様な食材のうち、どれだけの範囲をカバーできる検査法を開発できるかという困難さは容易に想像できるのですが、困難さはそれだけではありません。
 そもそも食物アレルギーは、患者個人個人によって感受性が大きく異なることが多く、混入の閾値をどのレベルに設定するのかも悩ましい。医師の見解などから、10ppmというのを境にしているようですが、この濃度が確かかどうかは、感覚に過ぎないようです。
 特に大変と思ったのは「意図せぬ混入」というものです。二枚貝(アサリなど)に混入するカニ類、シラスに混入する甲殻類、すり身に混入する甲殻類、乾海苔に混入する甲殻類、といった問題です。
 シンポジウムでは、すり身を原料とした練り物を主力製品としているメーカーからも何回か質問が出されていました。甲殻類をエサとして食べている魚を、すり身の原料とする場合、魚の内臓がすり身原料に入ると甲殻類(エビ、カニ)の検査に引っかかることになります。
 北洋系のすり身と南洋系のすり身とでは、原料となる魚の大きさが違うため製造工程が異なる(内臓をかなりきちんと分けているかどうか)といった点や、加工に使用する水の量が洋上加工は陸上加工に比べてずっと少ないといった点で違いがあります。今回の議論で、この辺の情報も、日本で一番詳しい(=おそらく世界で一番詳しい)最先端の専門家の間でも十分には共有されていないのだと、感じました。
 サバやタラなどに寄生しているアニサキスの問題もあります。アニサキスの分泌性のたんぱく質もアレルゲンになる場合があり、どのような対処をすべきか、といった点が議論になりました。
 表示推奨品目の話題も盛りだくさんでした。「イカはあるのに、タコはない。確かに食べる頻度はイカに比べタコは少ないが、アレルゲンになるという点で大きな違いはない」「魚類の代表としてサケ、サバだけが入っているため、これを逆手にとった表示をしている企業もある」「魚アレルギーだと、すべての魚を食べないようにという指導が医師からなされることがあるが、魚種ごとにアレルゲンのなりやすさが異なる。アレルギーになりにくい魚種まで禁止することはないのでは」「アワビはその後の調査でアレルギーが少ないことが分かったが、1度指定してしまったので消去は大変」などなど。議論は尽きないのでした。
 海洋大が開発した魚類を検出するPCR法は近く、通知になるとのことです。オリエンタル酵母と共同開発したもののようです。また、先に製品化されたエビ、カニのPCR法では、カニとエビを区別するために、制限酵素処理するRFLP法が必要なのですが、これを不要にするPCR法も、海洋大が開発したという発表がありました。
 昨日書いた記事でも改めて感心したのですが、世界の長寿国である日本の食の研究成果は、世界から注目されているし、世界に貢献できる(=ビジネスチャンス)というます。海産物・水産物のアレルギー問題も、日本食の人気が高まっている先進国はもちろん、食生活が豊かな国々が増えるに伴って、日本が果たしていくべき役割が今後ますます増大していきそうです。
※BTJ記事
味の素が「あしたのもとメディア懇談会」を開催、5月発売「栄養ケア食品」のBCAAスープ試食
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/1278/
 そろそろメール原稿の締め切りが迫ってきました。
 最後に先週半ばに発行・公開した「BTJジャーナル」09年3月号(第39号)のコンテンツを目次にて紹介します。こちらのコンテンツは全文を無料でご覧いただけますので、ぜひお楽しみください。
                         BTJ編集長 河田孝雄
P.2 アカデミア・トピックス
再生医療学会に1800人超
実用化目指し活発に議論
P.5 リポート
情報の循環を改善する
統合DBプロジェクト本格化
P.10 キャリア
08年ノーベル化学賞の
下村脩博士が記者会見
P.12 日経BP技術賞が決定
P.13 BTJアカデミック・ランキング
再生医療議連の提言案がトップ
P.14 専門情報サイト「FoodScience」
P.15 広告索引
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