まず、本誌のスクープの紹介から。
 武田薬品が3月9日に米国で2型糖尿病治療薬SYR-322について、FDAから問題点の指摘を受けたと発表して株価が大暴落していますが、実は日経バイオテク・オンラインでは今年1月15日にスクープしていました。筆者は本誌コラムニストの伊藤勝彦さんです。
【解説】武田期待の糖尿病治療薬候補、米国新ガイドラインで承認に対する影響はいかに
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8804/
 さて、米Obama大統領が、ES細胞研究に対する連邦予算からの資金提供禁止を解除しました。
米大統領、ES細胞研究に関する大統領令と科学的公正性に関する大統領覚書に署名
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/0533/
 式典に参列した京都大学の山中伸弥教授が記者会見でも語っていましたが、これでES細胞の研究が加速するのは必至です。ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)ができたことで、倫理的な問題がなく、かつ、自己の細胞から作製すれば免疫拒絶反応の問題もクリアできるためにiPS細胞が脚光を浴びていますが、iPS細胞の分化誘導などの研究を進める上ではES細胞の研究が重要です。しかも、iPS細胞に遺伝子導入に伴うがん化の問題があることや、細胞のソースや作製方法によって品質にばらつきが生じかねないということを考えれば、既に培養や分化に関する研究が積み重ねられているES細胞の方が「製品化」には適しているという考え方もあります。
 いずれにせよ、これから米国でES細胞研究が加速することは必至です。
 一方、日本の状況はどうでしょうか。たまたま先週、都内で日本再生医療学会総会が開催されたので取材しました。まだ幾つか記事を執筆する予定ですが、これまでに日経バイオテク・オンラインでは以下の記事を報じました。ぜひ、ご一読ください。
再生医療学会、骨・軟骨再生医療に向けた標準化活動の進展を発表
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/0485/
再生医療学会、細胞シート工学でシンポジウム、食道がん患者に対する細胞シート移植の臨床研究が良好な成績
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/0466/
再生医療学会、名大、ニコン、細胞集団の形態を観察するシステムを利用した
再生医療用ツールを提案
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/0465/
再生医療学会、阪大、クリングルファーマ、なぜ肝細胞増殖因子が敗血症に効くのか
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/0430/
再生医療学会、再生医療実現に向けた規制緩和に関する声明を発表
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/0453/
再生医療学会、京大、幹細胞創薬研、相同組み換えでヒトES細胞を遺伝子改変、サイレンシング抑制に成功
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/0400/
 同学会の取材では、iPS細胞を中心に基礎研究が急ピッチで進展していること、また、培養細胞シートなどを用いた臨床研究も着実に進展していることを強く感じました。
 ただその一方で、再生医療が実用化され、臨床現場で普及していくためには、まだまだ解決しなければならない課題が数多くあることも痛感させられました。
 同学会では山中教授が特別講演を行いました。それを聞いて興味深く思ったのは、iPS細胞の導入に用いる4つの因子のうち、発がんとの関係が指摘されているc-Mycを除いた3因子でiPS細胞を導入したところ、ジャームライントランスミッション(生殖細胞への分化)が起こる確率が大きく低下したということです。山中教授は、「c-Myc は腫瘍形成促進という点では悪だが、使わないと初期化が不完全になりやすい」と指摘していました。また、「因子が少ないほうがいい、レトロウイルスベクターを使わないほうがいいと言われているが、これは危険な考え方だ。(因子を減らすなどして)iPS細胞ができた報告するが、その後の長期成績が分からない」とも語っていました。
 確かに、同学会では、「こんな方法でiPS細胞ができた」「iPS細胞の効率的な導入法を開発した」といった発表が幾つかありましたが、ジャームライントランスミッションまで確認したという報告はそう多くはありません。そこまで確認しなければ、「iPS細胞を作製した」と胸を張るには不完全な気がします。
 ただ、その一方で、ヒトにおいてはキメラ動物を作製したり、ジャームライントランスミッションを確認することは不可能です。つまり、現状の技術では、ヒトiPS細胞が完全なものかどうかを確認することができないのです。この課題は山中教授も指摘していましたが、どうなれば完全なiPS細胞だといえるのかを評価する手法の開発が必要です。
 もっとも、臨床応用という点では、iPS細胞そのものというよりも、むしろそれを出発点にさまざまな細胞に分化させて利用することが中心に検討されています。そうした場合には、完全に初期化する必要はないかもしれません。ただ、幹細胞などを分化させて移植する場合でも、どういう状態になれば移植に適し、どうなれば不適かを定めなければなりません。その意味でも、やはり、細胞を評価する手法の開発は不可欠になってくることでしょう。
 ただ、そうした評価手法の開発でも興味深い発表が幾つかありました。医学や生物学の研究者と、工学研究者や企業が手を組んで、再生医療を支援する技術の開発も加速しつつあります。
 一方で、多くのシンポジウムで、再生医療実用化の課題として指摘されていたのが、レギュレーションの問題です。日本ではジャパン・ティッシュ・エンジニアリングの自家培養表皮「ジェイス」が、現行の規制の下で市販されるに至りましたが、会社を設立してから10年の時間と、多額の投資を必要としました。「再生医療製品の開発とはそういうものだ」という人がいるかもしれませんが、同じ時間と費用をかけなければ実用化できないとなると、なかなか事業化しようという人は現れないでしょう。規制は、正しい技術を速やかに患者に届けるためにあるはずです。その意味で、「規制はどうあるべきか」を改めて議論すべき時期のように思います。
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
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日本学士院が「学術奨励賞」を6人に授与、
バイオ系は山梨大の小泉教授と理研の若山チームリーダー、
「日本学術振興会賞」は東工大グローバルCOE拠点リーダーの現任者と前任者がW受賞
受賞者24人のうちバイオ関連の10人の写真を掲載、
授賞式は今週月曜日に開催されました。
【創刊3周年】BTJジャーナル09年2月号をお楽しみください。
BTJジャーナルのダウンロードはこちらから
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「BTJアカデミック」はこちらから
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 バイオ研究者のスキルアップやキャリアアップに役立てていただきたい月刊のPDFマガジン「BTJジャーナル」09年2月号を先月末に発行・公開しました。
“赤”コーナーの「キャリア」では今号も、顕著な研究業績が評価された研究者の受賞を掲載。若手研究者のモチベーション高揚への寄与が期待されている日本学術振興会賞と日本学士院学術奨励賞(いずれも第5回)の受賞者を紹介しています。
 日本学術振興会賞の受賞者は24人、うちバイオと関連が深い10人は、日本学術振興会から提供していただいた人物写真を掲載しています。
 この24人の日本学術振興会賞受賞者の中から、さらには6人が、日本学士院の学術奨励賞に選ばれました。両賞の授賞式は今週月曜日(3月9日)、東京・上野公園の日本学士院で開催されました。
※BTJ関連記事
写真更新、日本学士院が3月9日に学術奨励賞を6人に授与、バイオ系は山梨大の小泉教授と理研の若山チームリーダー
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/9920/
未来のノーベル賞候補、第5回日本学術振興会賞の受賞者24人決定、東工大グローバルCOE拠点リーダーW受賞
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/9285/
 この記事は、ただいま公開しているBTJジャーナル09年2月号P.9~10に掲載しています。BTJジャーナル09年2月号はダウンロードするとでは全文を無料でご覧いただけます。
BTJジャーナル09年2月号のダウンロードはこちらから
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それでは最後に09年2号(第38号)のコンテンツを目次で紹介します。
P.2 アカデミア・トピックス
急速に進む低分子iPS細胞
誘導法と直接再分化法
JST合同シンポ
P.4 リポート
遺伝子改変実験動物と
レギュラトリーサイエンス
食品安全委員会
P.8 キャリア
日本国際賞
日本学術振興会賞
日本学士院学術奨励賞
P.11 BTJアカデミック・ランキング
日本学術振興会賞がトップ
P.12 専門情報サイト「FoodScience」
パブコメの役割
 ぜひ「BTJジャーナル」をダウンロードしてお楽しみください。パソコンでご覧いただくと、リンク先の情報もすぐに入手できます。プリントアウトをお読みいただくなら、カラーをお勧めします。
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                         BTJ編集長 河田孝雄