毎週金曜日のバイオテクノロジー(BTJ)メールで編集部原稿を担当しておりますBTJ編集長の河田です。
 まずは先週木曜日(09年2月5日)、理化学研究所の横浜研究所で開かれた記者懇談会「理研横浜研究所の最新動向~花粉症研究、次世代シーケンサー研究、感染症研究について~」の話題から始めさせていただきます。
 この記者懇談会には、文部科学省記者会、科学記者会、神奈川県政記者クラブ、横浜市政記者クラブ等の科学記者など、合計16人の記者が参加しました。
 まずは横浜研究所の小川智也所長が研究所の概要を説明なさった後、3人のセンター長・領域長が、それぞれ30分ずつという短時間ながらも、とても要領を得た、魅力的なプレゼンをなさいました。
 免疫・アレルギー科学総合研究センター(RCAI)の谷口克センター長は「理研のアレルギー研究」、オミックス基盤研究領域の林崎良英領域長は「オミックス基盤研究領域の紹介」、感染症研究ネットワーク支援センターの永井美之センター長は「『アジア・アフリカ感染症研究ネットワーク』の構築に向けての4年間─感染列島にならないために─」という演題でした。
 3人の方々の発表を順次、報道してまいりますが、まずは、谷口RCAIセンター長の発表のごく一部を、今週報道しました。
※BTJ記事(第2段落以降は有料です)
「理研RCAIの論文の引用度は高い、世界の有名免疫研究機関に劣らない」と谷口RCAIセンター長
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/9693/
 先日、小林秀雄文学賞を受賞なさった、多田富雄さんが、米国の石坂公成・照子夫妻の研究室にて、きれいな背中で研究に貢献なさった(御前講義で陛下もご覧になったとのこと)ことなど、おもしろい話題が満載でした。08年6月に理研トランスレーショナル第1号として認定された、スギ花粉症ワクチンの開発状況など、これから報じていきます。
 うまくいけば1年半くらい後にGMPのサンプルを確保できるとのこと。スギ花粉症の予防効果を検証するためには、スギ花粉に暴露するヒト試験が必要になりますが、季節にかかわらず早めに実行するために、人工的な花粉暴露施設の利用も検討なさっているようです。
 日本には、05年初までに設置された和歌山(NPO法人日本健康増進支援機構)を初め、東京・四谷(東京臨床薬理研究所、設計・施工:新菱冷熱工業)、大阪府高槻市(大阪医科大学病院、設計:竹中工務店)に整備されたことをこれまで報道してきましたが、さらに現在では、千葉大学を加えて合計4カ所になったと、理研とは別の製薬企業の花粉症セミナーで大学の先生にうかがいました。
※BTJの花粉暴露施設の記事
日本初の花粉暴露施設における乳酸菌の効果検証、最初の実施企業2社が明らかに
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2003/3294/
乳酸菌の花粉症抑制効果を検証する、日本初の花粉暴露施設で2社が実証試験へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2003/3154/
東京臨床薬理研、花粉暴露施設を新宿区に設置、花粉症薬やグッズの効果判定を受注
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2003/2660/
 林崎領域長は、講演の後で、オミックス基盤研究領域の研究施設を案内してくれました。このラボツアーは実におもしろかったです。歴史的な(といってもわずかここ20数年のことですけど)展示物の解説もあり、これまでの技術革新の流れがよく分かりました。それに、次世代から現世代になってきた、超高性能シーケンサーが6機ほど並ぶ様は壮観でした。
 林崎領域長は講演では、1月のゲノムネットワークの成果公開の発表会でお話しになった内容にも少し触れられました。
※BTJ記事
ベイスンを把握してファイブロブラストを単球に、「iPSは必ずしも要らない」とGNP最終公開シンポで理研の林崎領域長
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/9025/
オミックスセンター長・領域長として3人目のプレゼンターは、感染症研究ネットワーク支援センターの永井センター長。今年初めに「2009年新春展望」をご寄稿いただいた方です。
※BTJ記事(この寄稿は、どなたでも全文をご覧いただけます)
2009年新春展望、理研感染症研究ネットワーク支援センター永井美之センター長、「感染列島」にならないために
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8596/
 09年1月17日に劇場公開された映画「感染列島」は、1週目1位→2週目2位→3週目4位→4週目7位(Yahoo!映画 劇場公開ランキング、毎週水曜日更新による)と、多くの方がご覧になっているようです。
 この感染症研究ネットワーク支援センターとオミックス基盤研究領域とが連携して、感染症の原因菌の特定に、超高性能シーケンサーを活用している成果も、紹介されました。
 とにもかくにも、理研横浜研の発表は盛りだくさんでした。ただいま記事とりまとめ中です。順次、報道して参ります。
 理研の懇親会では、理化学研究所の和光研究所の所長をおつとめの土肥義治理事にもお話をうかがうことができました。東京工業大学で、発酵生産する生分解性プラスチックPHBの研究をなさっていた頃から久しぶりにお会いしました。カネカの実証プラントの話も少しうかがったのですが、この日(2月5日)は、カネカがこの関連の発表をなさった日でした。とうわけで、発表内容を、BTJの記事に登録しておきました。
※BTJ記事
カネカがバイオポリマー年1000t設備を来年稼働へ、土肥義治・理研理事と共同、JST採択
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/9591/
 さて今週の中からは、ハプニングもあった火曜日(2月10日)の話題をお届けします。
 BTJジャーナルで数カ月おきで連載している「いいともバイオインフォマティスト」 の取材で、農業生物資源研究所(NIAS)の昆虫科学研究領域 昆虫ゲノム研究・情報解析ユニット主任研究員の末次克行さんに午前中お話しをうかがたのですが、ちょうど当日の午後2時から、カイコ・ゲノム解読の成果を論文発表したという記者向けの説明会が開かれると聞き、つくば記者クラブの方々の許可を得て、説明会に参加しました。
 末次さんは、この昆虫ゲノムのユニットで、インフォマティストとして活躍なさっている研究者です。BTJジャーナルの09年2月号か3月号に、登場していただく予定です。
※BTJ記事
NIASなどがカイコ・ゲノムの塩基配列を高精度で決定、日中共同研究成果を公開
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/9711/
 世界で初めて実用化されたF1(雑種第1世代)は、日本のカイコだと、信州大学の先生方がお書きになった、表紙が銀色の書籍で読んだ記憶があります。
 農林水産技術会議事務局が昨年(08年)12月17日に発表した「2008年農林水産研究成果トピックス10」でも、1番目のトピックはカイコでした。
※BTJ記事
農林水産技術会議が08年研究成果10大トピックスを選定、蛍光カイコや親ウナギ、BSEなど
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8384/
 カイコの技術は、日本が世界に誇れるものだと思います。当方は小中学校の頃は埼玉県の北部に住んでいたので、通学途中には桑の樹がたくさんありました。赤紫色の桑の実は、色が濃くて落ちにくいのですが、なかなかおいしかったように記憶してます。
 ともかくも、カイコ・ゲノム成果の記者説明会で、NIAS昆虫科学研究領域の三田和英・特任上級研究員が解説なさった中で、一番印象に残っているのは、カイコの家畜化が進む中で欠落していった遺伝子の話です。
 中国で野生のカイコが見つけられてから、現在まで5000年ほど。カイコはほぼ1年で1世代らしいので、およそ5000世代に相当しますが、この間、家畜化で不要になった遺伝子が驚くほど欠落していることが、ゲノム解読により分かってきたのです。
 ともかくも、カイコ・ゲノム成果の記者説明会で、NIAS昆虫科学研究領域の三田和英・特任上級研究員が解説なさった中で、一番印象に残っているのは、カイコの家畜化が進む中で欠落していった遺伝子の話です。
 カイコは中国産の野生のクワコから約5000年前に分岐し、家畜化されたと考えられています。カイコはほぼ1年で1世代らしいので、およそ5000世代に相当しますが、この間、家畜化で不要になった遺伝子が驚くほど欠落していることが、ゲノム解読により分かってきつつあるのです。
 カイコは、味覚や嗅覚の受容体遺伝子が、他の昆虫と比較して少ないことが分かりました。餌や交尾の相手、産卵場所を自ら探す必要がないからだそうです。カイコの食住をヒトが全部世話をしているうちに、遺伝子が欠落した結果と思われるとのことです。
 カイコは餌がなくなって餓死しそうでも、20cmと動かない。他の昆虫は、幼虫の餌の近くに分散して卵を産むけれど、カイコは紙の上でも産卵する。しかも数百個の卵全部を1カ所で産んでしまい、リスク分散はしないのです。
 上のカイコ・ゲノムの記事には書いてないのですが、この家畜化による遺伝子の欠落が、一番のサプライズでした。
 今後、中国のクワコなどのゲノム解読が進めば、家畜化による遺伝子の欠落の詳細が分かってくるのではと思います。
 今年1月にNHKの3回シリーズの番組「NHKスペシャル シリーズ 女と男 最新科学が読み解く性」が放映されて、かなり話題になりました。その最終回で、Y染色体がすぐに無くなってもおかしくない、というオーストラリアの研究者のコメントはショッキングでした。
 たとえば、衣食住とも充実している暮らしを続けている人類には、どのような遺伝子の変化が起こっているのでしょうか。恵まれた社会・家庭の子供たちの環境は、家畜と類似しているのでは、と思ったりします。  
 いよいよメール原稿の締め切り時間が迫ってきました。
 ここで、日経BP社の創立40周年を記念して創設した「日経BP技術賞・読者大賞」の案内をさせていただきます。これまで日経BP技術賞の大賞に選ばれた28の技術の中から、1つを選んで投票していただくものです。ぜひご協力をよろしくお願いします。
 「日経BP技術賞」は各産業分野で大きなインパクトをもたらす優秀な技術を表彰することを通じて、産業や社会の発展に寄与することを目的に、日経BP社が1991年に創設した賞です。(1)電子(2)情報通信(3)機械システム(4)建設(5)医療・バイオ(6)エコロジーの各分野の技術系雑誌やWebなどが報道した技術や製品の中から、専門家の審査を経て、大賞と部門賞を毎年選出してきました。
 これまでに「日経BP技術賞・大賞」として、累計28件の技術を顕彰しました。弊社の雑誌やWeb、メールマガジンの読者の皆さんに、この28件の「日経BP技術賞・大賞」の中から、最も私たちの社会と産業に貢献した、あるいは貢献すると考えられる技術や製品を、「日経BP技術賞・読者大賞」として選んでもらいます。詳細については( https://aida.nikkeibp.co.jp/Q/R006401gQ.html )をご覧ください。
 最後に先月末に発行・公開した「BTJジャーナル」09年1月号(第37号)のコンテンツを目次にて紹介します。お楽しみください。
                         BTJ編集長 河田孝雄
■「BTJジャーナル」09年1月号(第37号)のコンテンツ
P.2 アカデミア・トピックス
寄稿エッセイ「ノーベル賞のとなり」
千島隆司・医学博士
P.9 リポート
ターゲットタンパク
ゲノムネットワーク
P.12 キャリア
民間の研究者表彰
上原賞、安藤百福賞
P.14 コミュニティ
バイオ関連団体賀詞交歓会
P.15 BTJアカデミック・ランキング
2008年間トップ50を発表
P.17 専門情報サイト「FoodScience」
P.18 広告索引
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