マールブルグ病という病気をご存知でしょうか。1本差のRNAウイルスであるフィロウイルス科のマールブルグウイルスの感染によって生じるウイルス性の出血熱で、1990年代終わりのコンゴでの大量発生や、2004年から05年にかけてのアンゴラでの大量発生では、8割から9割の患者が死亡したという極めて死亡率の高い感染症です。
 昨年夏、オランダでこのマールブルグ病の患者が発生しました。この患者は6月5日から28日までウガンダを旅行し、6月19日にMaramaganbo ForestのPython caveという洞窟に15分間入りました。その後、健康な状態で28日にオランダに帰国しましたが、7月2日に発熱し、5日に入院。8日に肝障害を起こして、11日になくなりました。この間、7月10日にRT-PCRによってマールブルグ病との診断がついたとのことです。
 このときに、オランダの公衆衛生当局の一員として対応したCentre for Infectious Disease ControlのAura Timen医師の講演を聞く機会がありました。21日水曜に開催された総合科学技術会議科学技術連携施策群による新興・再興感染症シンポジウムの中でです。
 このときの内容については改めて、日経バイオテク・オンラインなどで紹介したいと思いますが、マールブルグウイルスに感染しているという診断が付く前の7月9日に、入院先のライデン大学から「疑いあり」の一報があり、急遽、トータル16人からなる国家対策チームが召集されました。そして、確定診断を行うにはバイオセーフティレベル(BSL)4の実験室が必要となるため、ドイツに検体を搬送して診断を行った
ということです。
 重要なのはこの部分で、マールブルグウイルスや、同じく重篤なウイルス性出血熱を引き起こすエボラウイルス、ラッサウイルス、クリミア・コンゴウイルスなどは、いずれもレベル4病原体に分類され、BSL4の実験室(P4施設)でなければ取り扱うことができません。ところが日本ではBSL4施設がありません。1981年に国立感染症研究所の村山分室にBSL4施設が建設されましたが、地元の反対でBSL4施設としては稼働できず、BSL3施設として運営されているということです。仮に日本でマールブルグ病などが疑われる患者が発生した場合に、確定診断したり、病原性を確認したりするためには、BSL4施設でウイルスを増殖させることが不可欠ですが、それができないのが実情なのです。
 もっとも、オランダでもBSL4施設がなかったために、ドイツまで検体を搬送して確定診断しました。日本でも、過去にラッサ熱が発生した時は、米国に検体を送って対応したといいます。ただし、米国では同時多発テロ以降、病原体の取り扱いルールが変更されており、今後も協力が得られるかどうかは分かりません。欧州では協力を得られる施設もあるようですが、そもそも、日本にBSL4施設がないままでいいのでしょうか。
 例えば、エボラ出血熱やマールブルグ病は、コウモリなどの野生動物が媒介すると考えられていて、発生場所も発生数も限られていますが、クリミア・コンゴ出血熱はダニが媒介するため、アフリカ大陸から中近東、東欧、中央アジア、中国西部にまで広がっているといいます。こうした感染症の研究を行い、医薬品やワクチンを開発するためにはBSL4施設が不可欠です。オランダでも現在、BSL4施設を建設中だし、既に世界で30カ所以上の施設が整備されているといいます。
 シンポジウムでTimen医師は、「BSL4施設の建設に住民は反対しなかったのか」と問われて、「オランダ人は旅行が好きなので、旅行先での感染症のリスクも生活の一部として受け入れている。感染症は必ず起こるし、起これば診断をしなければならないということを理解してもらえるよう、行政側からも情報発信に務めている」などと説明していました。
 日本人の活動も国境を越えて広がる中で、ウイルス性出血熱などの感染症が、いつ国内に持ち込まれないと限りません。早期診断して感染症が広がらないように対策を取るためにも、あるいは医薬品やワクチンを開発して国際協力につなげるためにも、日本にBSL4施設が必要という認識を広げることが重要であると思いました。インフルエンザ一辺倒の感染症対策では不十分なのです。
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
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ゲノムネットワーク第5回シンポに400人、「発表論文は400超、新しい方法論、技術基盤を確立できた」と榊議長
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ターゲットタンパク公開シンポ、「当初の見込みを上回る成果を期待できるのでは」と倉持・文科大臣官房審議官
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旧Syrrx社の創設者がReceptor Pharmaceuticals社を新設、相次ぎヒトGPCRの立体構造を解明
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 09年1月号(第37号)のコンテンツを目次で紹介します。
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寄稿エッセイ「ノーベル賞のとなり」
千島隆司・医学博士
P.9 リポート
ターゲットタンパク
ゲノムネットワーク
P.12 キャリア
民間の研究者表彰
上原賞、安藤百福賞
P.14 コミュニティ
バイオ関連団体賀詞交歓会
P.15 BTJアカデミック・ランキング
2008年間トップ50を発表
P.17 専門情報サイト「FoodScience」
P.18 広告索引
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                         BTJ編集長 河田孝雄
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