毎週金曜日のバイオテクノロジー(BTJ)メールで編集部原稿を担当しておりますBTJ編集長の河田です。
 まずは、先々週と先週から引き続きの話題になりますがmバイオ関連団体の賀詞交歓会の記事をとりまとめまして、記事3つが揃いました。ご覧ください。今晩発行・公開のBTJジャーナル09年1月号にも「父島に向かう船の中から撮影した日の出」の写真とともに、掲載しています。お楽しみください。
※BTJ記事
ヒューマンサイエンス財団の賀詞交歓会に200人、厚生事務次官が祝辞、金澤一郎氏が乾杯音頭
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8994/
 
バイオ関連団体合同賀詞交歓会に600人、「比率は欧米の半分、倍増を」と本庶佑議員
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8993/
「出でよ、農業バイオの坂本龍馬」、農林水産先端技術産業振興センター賀詞交歓会で岩元睦夫理事長に聞く
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8784/
農林水産先端技術産業振興センター(STAFF)の賀詞交歓会に230人参加、前年を大幅に上回る
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8780/
 1月14日開催のヒューマンサイエンス振興財団の賀詞交歓会の記事と、翌15日のバイオ関連8団体の合同賀詞交歓会の記事とりまとめが少し遅れたのには、少し特殊な事情がありました。実は、賀詞交歓会で撮影した写真のデータが入ったSDカードが、故障してしまったのです。
 ですので、記事に掲載している写真は、HS財団の方と、バイオインダストリー協会(JBA)からご提供いただいたものです。
 故障したSDカードは2GBで、確か1000円ほどで購入したものなのですが、データを復元しようがなく、困ってしまいました。
 つい先日、西新宿のとある小さい小売店で、8GBのSDカードが1480円ほどで売っているのを見て、写真1枚当たりのコストがこれで0.5円くらいになると思ったのですが、少々高くても信頼性が高いブランドを選んだほうがよいと思い直しました。
 いま手元に原データがないので、あやふやで申し訳ありませんが、人間が一生の間に目で見る映像の情報量が推定されていて、SDカードに換算してたった数百万円程度になったと、算出したことが1年ほど前にありました。
 ハードディスクだと今は1テラが1万円を切りますから、数十万円程度では、と思います。記録媒体の進化で、たいへんな時代になったと思います。
 さて、今週の話題というと、火曜日(1月13)日の深夜、2時過ぎだったでしょうか、オバマ米新大統領の就任演説をついついライブで聴きました。
 なんでもオバマ氏の演説の音声を収録した日本の書籍の中には、2カ月で40万部と、出版社にとっては宮沢りえの写真集以来の大ヒットとのことです。
 米国というとやはり医療費。医者にかかるには自動車を購入する気構えで、という風潮になっているをよく聞きますが、国民皆保険の制度が破綻してきている日本も、だんだんとパソコン並みの支払いへ、さらには自家用車並みへと、だんだん米国に近づいていくのでは、と予想してます。
 医療の高度化とともに、記録媒体の劇的な低コスト化とは逆に、医療費は上がっていかざるを得ないのです。
 低コスト化というと、DNAシーケンスのアウトプットも劇的に向上し、コストも低下しています。先週のゲノムネトワークの成果報告会では、理研の林崎さんが、400個の細胞に1コピーのみ転写されているものでも検出できることを、SOLiD3で確認した旨を発表なさってました。Helicosの装置で初めて可能になるレベルのことが、既製品のバージョンアップで可能になったようです。
 このゲノムネットワークや、その前日のターゲットタンパクの成果発表会の様子は、順次BTJにて報道するとともに、BTJジャーナル09年1月号にも盛り込んでいます。ぜひご覧ください。
※関連のBTJ記事
理研などが平均18bpのtiRNAを発見、ポリAマイナスのCAGEは米ENCODE計画第2期で解析
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/9029/
ベイスンを把握してファイブロブラストを単球に、「iPSは必ずしも要らない」とGNP最終公開シンポで理研の林崎領域長
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/9025/
ターゲットタンパク公開シンポ、「当初の見込みを上回る成果を期待できるのでは」と倉持・文科大臣官房審議官
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/9024/
ゲノムネットワーク第5回シンポに400人、「発表論文は400超、新しい方法論、技術基盤を確立できた」と榊議長
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8987/
旧Syrrx社の創設者がReceptor Pharmaceuticals社を新設、相次ぎヒトGPCRの立体構造を解明
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8960/
 ここで、メール原稿の締め切り時間になりました。今日はここまでとさせていただきます。
 最後に昨年末に発行・公開した「BTJジャーナル」08年12月号(第36号)のコンテンツを目次にて紹介します。近く09年1月号も発行・公開しますので、お楽しみください。
                         BTJ編集長 河田孝雄
※「BTJジャーナル」08年12月号の目次
P.2 「大学は今」第12回
動き出したスーパー特区
規制改革に向け議論開始
P.6 特集リポート
生物物理学会・BMB2008より
若手研究者の支援が焦点
P.10 論文被引用とキャリア
客観的評価とhインデックス
P.14 BTJアカデミック・ランキング
続報、スーパー特区採択がトップ
P.15 専門情報サイト「FoodScience」
ヨウ素取り過ぎ日本
P.16 BTJセミナー・レビュー
再生医療「産業化」への鍵
P.18 広告索引
 ぜひ「BTJジャーナル」をダウンロードしてお楽しみください。パソコンでご覧いただくと、リンク先の情報もすぐに入手できます。プリントアウトをお読みいただくなら、カラーをお勧めします。
「BTJジャーナル」のダウンロードはこちらから
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn
 BTJジャーナルは、次のサイトでPDFファイルをダウンロードしていただくと(無料)、ご覧いただけます。オープンアクセスに対応した新タイプのジャーナルですので、ぜひお楽しみください。
 ご意見などは以下のフォームから受付します。いただいたご意見を次回以降のBTJメールの中で、匿名で紹介させていただく可能性があることをご了解ください(紹介されたくない場合はその旨を明記しておいてください)。
https://bpcgi.nikkeibp.co.jp/form-cgi/formhtml.cgi?form=ask_pass4/index.html
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   ◆ バイオインフォマティクスの世界の潮流(第34回) ◆
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2009年1月15日
理化学研究所 (兼) 産総研,JST
東京医科歯科大、慶應義塾大
八尾 徹
皆様
 新年おめでとうございます。
 私は、昨年11月後半に欧州を回ってきましたが、今回はその中から、欧州のライフサイエンス情報基盤計画コンソーシアムELIXIR の状況と、欧州におけるシステムバイオロジーの更なる展開動向をご紹介しましょう。
1.欧州ライフサイエンス情報基盤計画コンソーシアムELIXIR 第2回ミーティング ELIXIR (The European Life Science Infrastructure on Biological Information) コンソーシアム (www.elixir-europe.org) が結成され、欧州における今後のライフサイエンス情報基盤のあり方を2年間(2008-2009)で検討することになっていることは、この欄でも既にご紹介してきました。(日経BP/BTJニュース 2007/9/7, 2008/6/16)。
 ELIXIR は2007年から始まったFP7の支援によって結成され、現在13ヶ国32機関がメンバーになっており、全体の推進役はEBI (European Bioinformatics Institute) の Janet Thornton 所長です。彼女は、データベースの継続性について非常に危機意識を持ち、そのサポートを強く訴えています。現在世界で使われているバイオメディカルDBは約900種あり、その40%は欧州産であるが、その半分はEMBLから継続的支援を受けているものの、残りの半分は個別テーマ支援で継続性の保証がないと実状を示しました。
2008年11月17日-19日に、EBI のお膝元Hinxton (Cambridge, UK )で、その第2回目のミーティングが開かれました。私は18日の公開報告・討論会に出席しました。
以下にその概要をご紹介いたします。
 今回のミーティングの内容は、大きく二つに分かれていました。一つはEU全体で進めている研究基盤整備に関するライフサイエンス分野6グループとの交流です。
1. INSTRUCT -- 構造生物学基盤
2. BBMRI -- バイオバンク(試料・データ) 
3. Infrafrontier -- 疾患モデルマウスの保存・解析のインフラ
4. EATRIS --- 主要な病気に関するトランスレーショナルリサーチネットワーク
5. ECRIN --- 臨床研究センター等のネットワーク
6. LIFEWATCH --- 生物多様性の保護・管理・利用の研究ネットワークの各内容紹介と、まとめのパネルディスカッションがあり、その中で 個々に進めるデータベース活動と、コアデータベースとの関係が討議されました。
 二つ目は、ELIXIR の13のワーキンググループの進捗状況報告と討議でした。下記の3つがポイントです。
 1. 大調査結果のまとめ(ユーザー、データベース・ツール提供者の状況・意見)
 2. 組織、法制(Legal)、ファンディングについて、複数のモデルの提示。
3. 物理的基盤(コンピュータ配置など)について提案。
特に、3 Physical Infrastructure について、リーダーの Dr.Tim Hubbard から下記のような中間報告がなされました。
 ・ゲノムシーケンスデータの急増と、大型プロジェクトデータベース(Ex. ICGC) の増大などと新たなIT技術 Cloud Computing, GRID などとをどのように組み合わせて、コアデータと特定データとをどう持つべきか、5-10年を見通して計画を立てたい。
 ・欧州に数多くあるデータベースセンター中、EBI-WTSI (サンガーセンター)が圧倒的に大きいのでそこを軸として考える。
 ・バイオバンク(50万人), dbGAP, caBIG など個人データが研究上ますます重要になるが、そのプライバシー保護についての配慮が大きな課題である。
 ・データの重複保管を排除し、伝送のための圧縮技術なども大切である。
 ・これらを考慮した構成案の図が示す。
尚、全体としてここまでは欧州中心の検討であるが、2009年にはアメリカ・日本はじめ国際的な交流を進めたいと言っていました。全体リーダーのProf. Janet Thornton が、これだけの大きな動きを、その見識と人柄で、多くの賛同者を得て進めておられる姿に感銘を受けました。
2.欧州のシステムバイオロジー  第2段階へ
 このほど、イギリス・ドイツ・スイス及びECの関係機関を訪問し、各国及びEUのシステムバイオロジーの動向を調べました。2004年頃から活発化してきた欧州のシステムバイオロジーは、今や第2段階に入って更なる展開を始めています。
全体として「システムバイオロジー」が今後の大きな方向であるとの認識の下、各種の施策が積極的に推進され、数々の成果を踏まえて、第2段階の計画が急速に展開されています。特に、異分野融合を進めるために同一ビル内に同居した体制が強調されています (ETH Basel, BioQuant Heidelberg)。
各国の施策に加え、EUの科学技術基本計画FP-7 (2007-2013) の中で大きな展開が始まっています。また、がんシステムバイオロジーについてEU-米国NIHとの協調が始まっています。
具体的に各国の動きのいくつかをご紹介します。
1.スイスでは、システムバイオロジープロジェクトSystemsXが2007年から国家プロジェクトSystemsX.ch として格上げされましたが、その予算の半分(100MSF) をかけて、バーゼルにETH(スイス連邦工科大学)の BSSE (BioSystems Science & Engineering)学部を新設しました。学部長 Prof.Paro (Biologist) の強い方針で、Biology -Mathematics -Engineering の3部門均等体制を築くとしており、ナノテク・MEMSを利用した測定・実験機器の自己開発能力を誇っています。現在リーダー(PI) は7名ですが、15名に向けてリーダー人材募集中で、その人気は国際的にすごく高いとのことです(PI 2名の募集に各50倍の競争率)。
上記のバーゼル拡充の他に、SystemsX.chとして全スイス(大学・企業)からの研究提案(RTD)を募集し、すでに初年度12件を決定、現在2年度目テーマを募集中です。初年度分には、YeastX (酵母における代謝パスウエイモデル), PhosphoNet X (リン酸化によるシグナル伝達パスウイエイの変化モデル), LiverX (肝臓細胞のインシュリン応答モデル), WingX (ハエの羽根形成シミュレーション), PlantX (植物成長シミュレーション)などの他、NeuroChoiceX (神経回路が膨大な分子・細胞の入力に対し樹状突起部位を中心に瞬時に判断して次のステップに情報を伝えるメカニズムの解明が目的で、神経科学・分子細胞生物学・物理学・神経経済学など多様な専門家が参画)のような興味深いテーマもあります。全体としてオミックス情報を総合的に駆使してモデル化を進めようとしています。そのためにProteome, Metabolomeなどの測定基盤施設を全国各所に設けています。
2.ドイツが、システムバイオロジーについて大きな展開を進めています。
1)文部科学省(FMER) から、先端技術戦略報告書の一つとしてシステムバイオロジー報告書が刊行されました。これまでの各種ファンディング(37MEuro/year) による成果・進展・イノベーションが強調されています。
2) 肝臓細胞システムバイオロジーHepatoSys プロジェクトが第2期(2007-2009) から第3期に向けて範囲を広げた(細胞・組織レベルへ)計画を練っています。
3) 一方、システムバイオロジーの4センターが発足しました。(Heidelberg, Freiburg, Magdeburg, Potsdam) 細胞の分化・増殖におけるシグナル伝達、ウイルス・細胞相互作用(ViroQuant)、植物の光合成、遺伝子制御ネットワーク再構成などの研究が進められます。
4) ハイデルベルグがベルリンと並んでドイツのシステムバイオロジーの一大拠点となっています。新設のBioQuant ビルにシステムバイオロジーセンターが入り、先端イメージング機器開発企業も同居して、異分野融合の研究と人材育成 (Heidelberg大の学生) を進めています。
3.イギリスは、BBSRC の10年ビジョン(2003-2013) の中で、システムバイオロジーを重要分野と設定し、2005年, 2006年に6ケ所にシステムバイオロジーセンターを立てましたが(75MEuro)、引き続き2007年, 2008年に、国内プログラム(SABR- 38MEuro, 人材育成3センター)及び 国際プログラム(SysMo, SysBio ほか)を展開しています。
  
4.ECでは、2007年から始まったFP-7 の中で、すでに4つの大規模システムバイオロジーグラントを認可し、引き続き多数の中規模グラント案件を審査中です。
 また、EU/ECと米NCIとの共催で 「がん研究におけるシステムバイオロジー」 のワークショップが 5月19-20日にブリュッセルで開かれ、その報告書草案が10月末に出されました。そのまとめ役 Dr.Fred Marcus に会い模様を伺いました。この会では、システムバイオロジーががん研究に飛躍的な効果をもたらすことが明確になってきたとの合意ができ、その上で今後特定のがんを対象にした集中的なシステムバイオロジー研究を推進することになったとのことです。ECとNIHが今後協調して行くとの基本合意が最近成立しましたが (Science 322, 1048, Nov.14, 2008)、がんシステムバイオロジーはその中の柱の一つとなっています。
 一方、2008年4月から、EuroSyStem (幹細胞システムバイオロジー)が始まり、12の課題に27研究室が当たっています。ここでも細胞生物学と計算科学との融合が強調されています。
最近は、システムバイオロジーの対象が広がって来ています。特に細胞レベルのシミュレーションが進んできています。EMBL では、先端計測技術を基にした細胞骨格形成のモデル化シミュレーションをしています。ETH (Zurich) では、ハエの羽根の形成シミュレーションで成果が挙がっています。分子-細胞-組織―器官の Multi-Scale Modeling が現実の課題になってきています。
繰り返しになりますが、システムバイオロジーを進めるには、ターゲットを明確にした上で、異分野融合の研究体の形成が重要です。上記のプロジェクトの中でもそのことを強く意識したところが増えて来ています。
日本でも、そのような研究体制が数多くできることを期待いたします。
皆様、今年もお元気でご活躍下さい。
八尾 徹 (yao@riken.jp)