水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 シャーガス病という病気をご存知でしょうか。中南米および米国南部に見られる病気で、サシガメという吸血性のカメムシが媒介するTrypanosoma cruziという細胞内寄生原虫の感染によって引き起こされます。中南米ではおよそ1300万人の感染者がいるといわれており、感染急性期は風邪のような症状が出るぐらいですが、10年、20年もたってから感染者の約30%が慢性期症状に移行して、心筋炎や心肥大などの症状が現れ、毎年5万人ぐらいが亡くなっているといいます。トリパノソーマ科原虫の感染による感染症としては、アフリカの風土病である眠り病(Trypanosoma bruceiの感染による疾患で、ツェツェバエが媒介する)が知られていますが、シャーガス病は中南米の特に貧困層の間で大きな問題になっている病気です。
 シャーガス病の急性期にはニフルチモックスやベンズニダゾールといった医薬品が有効ですが、慢性期になると治療が難しくなります。ベンズニダゾールは慢性期でも有効とされていますが、光線過敏症や皮膚炎、神経炎などの副作用が強く、長期間の使用ができません。このため、ワクチンや治療薬の開発が待たれているところです。年末に、このシャーガス病の治療薬の開発を視野に入れた研究を行っている研究者に取材をしました。
 取材をした相手は、順天堂大学熱帯医学・寄生虫病学講座の橋本宗明准教授。私と全く同姓同名の方です。実は、同姓同名のバイオ研究者がいると知人から紹介され、個人的な興味で取材に伺った次第です。
 橋本准教授の研究内容は非常に面白いものでした。T. cruziは、サシガメの糞中に排泄され、傷口などから血中に入って感染するのですが、感染後、血中にずっといるわけではなく、心筋や神経などの細胞内に入って鞭毛を持たないアマスティゴートと呼ばれるものになります。急性期では有効な薬が慢性期に効かなくなるのは、血中にいる間しか薬が効かないためだと思われます。
 では、10年も20年もの間、どうやって免疫を回避して生き続けることができるのでしょうか。橋本准教授は、T. cruziが感染した細胞ではFasを介したアポトーシスが抑制されることを明らかにしました。さらに、T. cruziが感染することで、ヒト由来のアポトーシス抑制たんぱく質であるcFLIPの分解が阻害され、細胞内に蓄積していることを突き止めました。T. cruziが宿主の免疫系を回避するメカニズムを明らかにできれば、ワクチンや治療薬の開発につながる可能性があります。
 一方、ゲノムプロジェクトの結果、トリパノソーマ科原虫のゲノム解析が終了したことを受けて、橋本准教授はT. cruziの遺伝子の中から、寄生の成立に必須なたんぱく質を探索する研究にも乗り出しています。感染に不可欠な、原虫側のたんぱく質を標的にすれば、ヒトに対しては副作用が少ない感染の阻害薬を開発できる可能性があるからです。こちらの研究の方も順調に進み、既に1つの遺伝子にあたりをつけて、より詳細な解析を進めているところだということでした。
 たまたま年末にまとめ読みした本の中に、もう1つのトリパノソーマ原虫感染症を取り上げた「眠り病は眠らない」(岩波書店)というものがありました。この本では、「見捨てられた病気」(neglected diseases)であるアフリカの眠り病に対して、日本発の研究が貢献しようとしていることが紹介されていましたが、シャーガス病もまた「見捨てられた病気」の1つです。橋本准教授の研究が、疾病の克服につながれば、国際貢献の1つの形になるに違いありません。
 それにしても同姓同名の人に会うというのは不思議なもので、単に姓と名が同じというだけなのに、まるで親戚のような親近感を覚えるものです。とりとめもない話になってしまいましたが、本日はこの辺で失礼します。
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
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応募143件から採択はわずか24件、
BTJで昨年末から最も注目されている
スーパー特区(先端医療開発特区)を
解説図入りでリポート
昨年末発行のBTJジャーナル08年12月号を
ぜひお楽しみください。
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 バイオ研究者のスキルアップやキャリアアップに役立てていただきたい月刊のPDFマガジン「BTJジャーナル」08年12月号を先月末に発行・公開しました。
 連載「大学は今」の第12回は、今最注目のスーパー特区を解説しています。先端医療開発特区には応募143件のうち24件が採択と、2008年11月18日に発表されました。08年6月に閣議決定した「骨太の方針2008」に基づく革新的技術特区(スーパー特区)
の第一弾です。
 直ぐに新たな予算が付く施策ではないのですが、研究資金の効率的な運用や、開発初期から規制当局側と協議できるなどの魅力があります。
 詳しくは、ただいま公開しているBTJジャーナル08年12月号P.2~5の記事「動き出したスーパー特区、規制改革に向けた議論も開始」をご覧ください。
 BTJジャーナル08年12月号はダウンロードするとでは全文を無料でご覧いただけます。
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※以下は、BTJのスーパー特区の関連記事です。第2パラグラフ以降は、日経バイオテク・オンライン(NBTOL)、あるいはBTJアカデミック(BTJA)の有料購読者の方々のみがご覧いただけます(ただし一部の記事はBTJAではご覧いただけません)。
経産省の09年度バイオ関連予算、補正予算含め、幹細胞の基盤技術開発に20億円
NBTOL:https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8651/
BTJA:http://biotech.nikkeibp.co.jp/senmonn/btj_aca.jsp?a1=1&jreq=btjnews&id=20058651
ジェイ・エム・エス、スーパー特区に参画して自家血清採取バッグを再生医療用医療機器として開発へ
NBTOL:https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8598/
スーパー特区の3次元複合再生組織製品開発プロジェクト、3次元の骨、軟骨、複合型再生皮膚の開発目指してシンポ開催
NBTOL:https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8599/
BTJA:http://biotech.nikkeibp.co.jp/senmonn/btj_aca.jsp?a1=1&jreq=btjnews&id=20058599
大日本住友製薬、脊髄損傷治療薬候補のセマフォリン阻害剤でスーパー特区に参加、実用化に期待
NBTOL:https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8295/
BTJA:http://biotech.nikkeibp.co.jp/senmonn/btj_aca.jsp?a1=1&jreq=btjnews&id=20058295
理化学研究所、慶応義塾大学、研究・教育だけでなく資金獲得も目指した包括連携
NBTOL:https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8244/
BTJA:http://biotech.nikkeibp.co.jp/senmonn/btj_aca.jsp?a1=1&jreq=btjnews&id=20058244
スーパー特区に採択されたナカシマメディカル、個別化人工関節の実用化を加速へ
NBTOL:https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8092/
オンコセラピー・サイエンス、来年2月に抗がん剤の治験開始予定
NBTOL:https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/7934/
富士ソフト、東大附属病院、錦糸町に細胞プロセッシングセンター開設、採択されたスーパー特区制度に期待
NBTOL:https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/7784/
BTJA:http://biotech.nikkeibp.co.jp/senmonn/btj_aca.jsp?a1=1&jreq=btjnews&id=20057784
続報、スーパー特区に24プロジェクトが採択
NBTOL:https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/7742/
BTJA:http://biotech.nikkeibp.co.jp/senmonn/btj_aca.jsp?a1=1&jreq=btjnews&id=20057742
ライフサイエンス分野の規制改革を検討へ、甘利大臣が規制改革会議に指示
NBTOL:https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/7067/
BTJA:http://biotech.nikkeibp.co.jp/senmonn/btj_aca.jsp?a1=1&jreq=btjnews&id=20057067
スーパー特区、がん治療ワクチンの実用化推進で2グループが応募
NBTOL:https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/6484/
BTJA:http://biotech.nikkeibp.co.jp/senmonn/btj_aca.jsp?a1=1&jreq=btjnews&id=20056484
訂正、スーパー特区の公募件数は143件に
NBTOL:https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/5957/
BTJA:http://biotech.nikkeibp.co.jp/senmonn/btj_aca.jsp?a1=1&jreq=btjnews&id=20055957
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 08年12月号(第36号)のコンテンツを目次で紹介します。
P.2 「大学は今」第12回
動き出したスーパー特区
規制改革に向け議論開始
P.6 特集リポート
生物物理学会・BMB2008より
若手研究者の支援が焦点
P.10 論文被引用とキャリア
客観的評価とhインデックス
P.14 BTJアカデミック・ランキング
続報、スーパー特区採択がトップ
P.15 専門情報サイト「FoodScience」
ヨウ素取り過ぎ日本
P.16 BTJセミナー・レビュー
再生医療「産業化」への鍵
P.18 広告索引
 ぜひ「BTJジャーナル」をダウンロードしてお楽しみください。パソコンでご覧いただくと、リンク先の情報もすぐに入手できます。プリントアウトをお読みいただくなら、カラーをお勧めします。
「BTJジャーナル」のダウンロードはこちらから
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                         BTJ編集長 河田孝雄
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