BTJ /HEADLINE/NEWS 2008/12/12 THE PRIME MAIL 第1226号

(2008.12.12 05:56)
 毎週金曜日のバイオテクノロジー(BTJ)メールで編集部原稿を担当しておりますBTJ編集長の河田です。
 今週は火曜日と水曜日に、神戸で開催の「BMB2008」(第31回日本分子生物学会年会・第81回日本生化学学会合同大会、12月9~12日)の会場におりました。先週福岡で開催された「第46回生物物理学会年会」(12月3~5日)に引き続き、若手研究者の表彰やキャリアパスや男女共同参画の活動、研究のインフラ整備などを中心に取材しまして、順次、記事にまとめているところです。
 詳しくは、今月25日夜に発行・公開する「BTJジャーナル」08年12月号に、写真をたくさん入れた記事を掲載する予定ですので、ぜひお楽しみください。
 BTJジャーナルはPDFファイルをダウンロードしていただくと、どなたでも全文をご覧いただけます。
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 参加者数は、生物物理学会が2000人規模だった一方で、BMB2008は1万1000人規模と、およそ5~6倍の違いがありますが、バイオテクノロジーの最先端の研究に取り組む若手研究者の方々が活発に議論している姿が、ポスター発表会場などで目立ちました。
 インターネットなど情報通信技術の進歩で、研究者のネットワークが飛躍的に広がる中で、生身の研究者と会うことができる、オフ会のような意味あいがとても大きくなっているのでは、と思いました。
 その中で、BMB2008で水曜日(12月10日)夕方に開かれた、生化学若い研究者の会(通称:生化若手の会)創立50周年記念シンポジウム「生化若手と生命科学」は、違った意味の驚きがありました。
 生化若手の会の大きなイベントの1つである「夏の学校」は、今年は08年8月に八王子で2泊3日で開かれたとのことですが、ちょっと驚いたのは、参加者数が152人だったということです。
 私ごとになりますが、生化若手の会の夏の学校には3回ほど(勉強のために)参加したことがあるのですが、かなり大規模だったような記憶があるからです。20年近く前のことなので、あまり定かではないのですが。
 創立50周年記念シンポジウムでは、世話人の1人である東京大学大学院理学系研究科の加村啓一郎さん(博士課程2年)が開会の挨拶をなさった後、「第1回の夏の学校の回想」を、大島泰郎さん(共和化工・環境微生物学研究所所長、東工大名誉教授)がお話しになり、続いて「私にとっての生化若手の会」を、大隅良典さん(基礎生物学研究所、今回の第81回日本生化学会大会の会頭をおつとめです)がお話しになられたのを聴いて、なるほどと思いました。
 1961年に群馬県赤城山の大沼湖畔で開かれた第1回サマースクール(夏の学校)は参加者が90人だったとのことですが、第2回は180人、第3回は300人と参加者数が急増したとのこと。第10回目くらいに参加者数は600人規模と、最大規模になったとのことでした。
 60年安保があって意識が高揚していた、生化学という学問が伸びていて知識欲が旺盛だった、などと大島さんは解説なさっていました。
 大島さんはこの第1回の校長とおつとめになったとのことで、実行委員会には、大島さんをはじめ、香川靖雄さんや大石通夫さんなど、現在でも取材などでお世話になっている方々のお名前がありました。
 大隅さんは、生化若手の会は、大変な財産だった、と最初にお話しになりました。めちゃくちゃ自発的な会で、修士1年から博士課程修了まで皆勤なさったとのことです。分子生物学の興隆期で、それほど権威が見えない、自由な雰囲気の時代だった、交流の実が見える時代だった、貧しいが夢のある時代だった、と振り返りました。
 現在はインターネットの発達で、逆に、人の交流の場が少なくなっている、「なんとかなるさ」という気分を共有することが大事と思うと指摘なさいました。長野県の蓼科高原で開催したときに「独創性、オリジナリティとは何か」というパネルディスカッションを、郷通子さんや山本雅さんらと行ったことも紹介なさってました。大切なのは、「人のやらないことをやろうという精神」でなないか、「流行を追わない精神」とお話しになられました。
 この50周年記念シンポはその後、瀬原淳子さん(京都大学再生医科学研究所)が「発生と再生、そしてヘビ毒にみる生物の“エコライフ”」、松岡信さん(名古屋大学大学院生命農学研究科)が「ゲノム情報を利用して新しい作物を作り出す」、岩田想さん(京都大学大学院医学研究科)が「Boys & girls, be ambitious BUT relaxed─ヨーロッパで研究をして暮らす」の順で話題提供があり、もう1人の世話人である稲垣賢二さん(岡山大学大学院自然科学研究科教授)が閉会の挨拶をなさった
はずです。
 残念ながら別の予定があり、途中で退席してしまいましたが。岩田想さんは、生物物理学会の12月5日のシンポジウム「ターゲットタンパク研究プログラムにおける生産・解析技術開発」で、「抗体を用いた膜蛋白質結晶化技術の確立」と題する講演が予定されていましたが、確かアジアの会議にご出席のために岩田さんは福岡にはいらっしゃらず、チームの方が代理でご発表になられてました。京都や英国で研究グループを率いているだけに、体内時計の調整も大変なのでは、と思います。神戸の会場では岩田さんがお見えになっていて、シンポの前にパワポを試写してました。おもしろそうと思ったのですが。ともかく生物物理学会の発表内容も記事に反映して
参ります。
 ここでようやく、今回のメールの編集部原稿の見出しのキーワードである“インパクトファクター”の話題に進みます。そもそも「大学の教員を公募したら、すごいインパクトファクターの数値を持つ研究者が応募してきて、びっくりした」という話は、あちこちの大学の教授の方々などにうかがう機会が多いのですが、12月9日夕方の日本分子生物学会 若手教育シンポジウム「今こそ示そう科学者の良心2008─ みんなで考える科学的不正問題─」を聴いて、「そうか、研究成果の客観的評価というのは、インパクトファクターなんだ」と、改めて身にしみて思った次第であり
ます。
 この若手教育シンポジウムは日本分子生物学会が主催し、共立出版が協賛して開かれまして、時間は90分だけでしたが、実りの多いシンポだったように思います(こちらは全部、参加しました)。
 若手パネルディスカッション(7人が登壇)と、中堅~パネルディスカッション(6人が登壇)でどんな議論が進んだのか、記事にまとめて参ります。特に「中堅~ シニア」でお話しになられた、村松正實さん(埼玉医科大学)、田中啓二さん(東京都臨床医学総合研究所)、夏目徹さん(産業技術総合研究所)、後藤由季子さん(東京大学)、山中伸弥さん(京都大学)、中山敬一さん(九州大学)は、それぞれどのような見解をお持ちか、お話しの内容を紹介したいです。
 生物物理学会とBMB2008の両方の「男女共同参画」、生物物理学会の「科研費制度の現状:審査の現場から」などの議論も含め、ともかくも、インパクトファクターが、研究者の研究業績の客観的な評価基準として、どれだけの重みをもっているか、というのが今回つくづくよく分かりました。
 ご存知のように、インパクトファクターというのは、各分野の中で、どのジャーナルが相対的にインパクトが大きいかを客観的に比較できる手法です。「引用は集中する」というGarfieldの集中則(Garfieldはトムソン・ロイター・グループのサイエンティフィックビジネス部門の前身であるISI社の創業者の名前)に基づき、現在はトムソン・ロイターが事業化しているサービス「ジャーナル引用リポート(Journal Citation Reports;JCR)」の中で提供されています。
 各研究者がジャーナルに発表した論文が、その後、どのように引用されたかは、その論文の価値を評価する方法としてとても優れているようです。ですから、本来は、各研究者の論文の被引用の数を、客観的評価の指標にすべきなのですが、論文をパブリッシュしてから、この被引用の数が出てくるまでにはタイムラグが生じます。2008年ノーベル化学賞受賞の下村脩博士の1962年の論文は、46年が経過した今年(08年)、被引用数が最多になってます。
 論文の価値は、歴史が証明する。しかし、たとえば優秀な研究者の雇用を検討する大学・研究機関は、いますぐに研究業績を知りたい、その客観的指標としてインパクトファクターという訳です。
※BTJの関連記事
続報、ノーベル化学賞の下村博士の1962年論文、被引用数が90年代から急増して08年に最多更新
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/6598/
 JCRのジャーナル評価指標は、IF(文献引用影響率;ジャーナルに掲載された「平均的な論文」がその対象年中にどれだけ頻繁に引用されたかを示す尺度)のほか、Total Cites(被引用総数;ジャーナルに掲載された論文が、対象の1年間に他の文献に引用された総数)、Immediacy Index(最新文献指数;対象年に出版された論文が、同年中にどれだけ多く引用されているかを示す尺度)、Articles(論文数;ジャーナルに1年間に掲載された論文の総数)、Cited Half-Life(被引用半減期; ジャーナルに掲載された論文が、どれだけ長い期間引用され続けるかを示す)、Citing Half-Life(引用半減期;ジャーナルに掲載された論文が、どれだけ古い論文まで引用しているかを示す)など、いろいろ用意されているのですが、インパクトファクターが有名になって一人歩きしている、ということが今回の学会取材を通じて改めて分かりました。
 論文の引用データベースが、研究者や大学・研究機関の客観的評価の指標として、かなり重要であることは、間違いないようです。トムソン・ロイターや、エルゼビアのサービスは、「民営化された」日本の大学・研究機関に不可欠な存在になっています。
 話がわき道になりますが、「民営化」というのは、12月10日のBMB2008のシンポジウム「ライフサイエンス統合データベースプロジェクト」で「科学データは誰のものか?」と題して講演なさった大久保公策さん(情報・システム研究機構、国立遺伝学研究所)のお話しを反映した表現です。
 ライフサイエンス統合データベースプトジェクトを紹介するシンポジウムは生物物理学会でも12月4日に「動き出したライフサインエンス統合データベース」がありました。BMB2008と生物物理学会とではほとんど重なりのない内容でした。こちらも記事まとめます。
※BTJ関連記事
インパクトファクターの供給元トムソン・ロイター、09年上半期から新たな客観的指標を追加・導入
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8224/
世界トップ50大学の半数が導入、発売して4年のエルゼビアScopusの普及進む、h指数の掲載も魅力
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8017/
 再びインパクトファクターの話題に戻ります。
 しかし、論文の引用データベースを基にトムソン・ロイターが算出している、各ジャーナルのインパクトファクターの数値が、1人歩きをしすぎていて、研究者の研究業績の客観的評価に好ましくない影響も出ている、ということも確かなようです。
1)研究の分野によって、論文の引用が多い分野と、少ない分野がある。だから異なった分野のジャーナルの格を、インパクトファクターで単純に比較はできない。
2)研究者の研究業績の客観的な評価として、重要な指標となるのは、パブリッシュした論文がその後、どのくらい引用されたか、である。インパクトファクターは、ジャーナル毎の平均値を示した、いわば分野の中でのジャーナルの格を示すもの。いくら有名なジャーナルに発表した論文でも、その後、ほとんど引用されない・注目されない論文が過半数である、というのが一般的にいえるようです。
 この辺りの事情は、12月25日発行・公開のBTJジャーナル08年12月号に掲載する予定です。
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 そろそろメール原稿の締め切り時間になりました。BMB2008や生物物理学会のBTJ関連記事のリストを以下に掲載します。
東京都臨床研、中外、C型肝炎治療用siRNAの新選抜法で、変異エスケープの少ない高活性製剤開発に成功
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8263/
京都大学、がん抑制遺伝子p53の発現を抑制して、50倍以上の効率でヒトとマウスのiPS樹立に成功
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8228/
日本分子生物学会年会と日本生化学会大会、来年は3年ぶりに別個開催、再来年は合同、2011年は未定
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8213/
1万1000人超の参加見込むBMB2008が本日神戸で開幕、午前中にポートピアホールで多能性幹細胞のシンポ、「研究者本人のサインのみでヒトiPSの利用可能に」と山中教授
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8212/
写真更新、北大の永井健治教授ら、群青蛍光たんぱく質シリウスを創製、デュアルFRETでHeLa細胞のアポトーシス観察
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8239/
写真更新、生物物理学会の若手奨励賞5人決定で胴上げも、次期会長は片岡幹夫NAIST教授
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8143/
豊田中研、豊島陽子・東大教授ら、アクチン配向固定した光応答性アゾポリマーの表面でミオシンの運動を観察
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8107/
 最後に先週発行・公開した「BTJジャーナル」08年11月号(第35号)のコンテンツを目次にて紹介します。
※「BTJジャーナル」08年11月号の目次
P.2 連載「大学は今」第11回
東京大学医科学研究所の
論文偽造報道騒動を検証
P.5 リポート
第8回国際大豆シンポジウム
腸内細菌叢の個人差に脚光
P.11 ノーベル賞研究室とキャリア
菊地和也・大阪大学大学院教授
P.14 BTJアカデミック・ランキング
スーパー特区24件採択がトップ
P.15 専門情報ウェブサイト「FoodScience」
バナナダイエット事件の真相
P.18 広告索引
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                         BTJ編集長 河田孝雄
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