こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 
 先日、慶応大学病院で開催された日本血液代替物学会が開催されました。この学会は、人工赤血球(人工酸素運搬体)や人工血小板などの研究開発にかかわるもので、昨年に引き続いて取材に行きました。国際会議も合わせると3日間にわたって開催されたのですが、実際には初日だけでしかも中座したので、全体を把握できたわけではありませんが、それでもこの分野の研究が今どうなっているのかを知ることはできました。
 人工赤血球というと、日本ではテルモとオキシジェニクスという2企業が開発に乗り出していたことが知られています。そのうち、オキシジェニクスは早稲田大学と慶応大学の研究に基づいて設立された老舗のベンチャー企業として有名です。オキシジェニクスは人工赤血球の臨床試験の開始を目指していましたが、思ったように資金調達ができず、今年4月までに事業継続を断念しています。
 
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/2100/ 
 
 ところが、血液代替物学会の年会に行ってみると、オキシジェニクスと共同研究をしていた研究グループの研究者らが、動物実験の結果などを報告していました。研究グループの方に確認すると、オキシジェニクスが持っていた権利を早稲田大学に戻し、公的助成金などで研究を進めながらパートナー企業を探している段階ということでした。
 
 もっとも、人工赤血球の研究は曲がり角にあります。今年4月28日、JAMA(米国医師会誌)電子版に、米国の非営利市民団体であるPublic Citizenによる「無細胞ヘモグロビン・ベースの代替血液と心筋梗塞および死亡のリスク」と題する論文が掲載されました。この論文は、人工赤血球5製品を用いてこれまでに行われた16件の臨床試験をメタ解析したものです。合計3711人の被験者のデータを解析したところ、人工赤血球の投与を受けたグループの死亡リスクは対照群の1.3倍、心筋梗塞リスクは2.7倍になったとしています。
 
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/7171/
 
 解析の対象となった5製品は、米Baxter社のHemAssist、米Biopure社のHemopure、カナダHemosol BioPharma社のHemolink、米Northfield Laboratories社のPolyHeme、米Sangart社のHemospanです。このうち、Biopure社の製品は南アフリカ共和国で市販されていますが、それ以外の製品は開発中か、既に開発を断念したものです。
 
 一方、南アでは06年からBiopure社のHemopureが販売されてきましたが、5月22日にPublic Citizenが南ア保健省にこの論文を送付。この結果、南アの規制当局である医学管理委員会(MCC)が人工血液Hemopureの承認を取り消したことを、Biopure社が10月28日に発表しました。
 
 これに対してBiopure社は、数種類の製品を一括して扱い、均質性の低い臨床試験のデータをプールして分析した研究方法は誤っているとし、JAMA誌に文書で抗議。論文の筆者の1人を提訴したほか、南アの決定に対しても抗議し、結論が出るまで製品の販売を継続する考えを示しています。
 
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/7172/ 
 
 いずれにせよ、人工赤血球の臨床応用にはこのように逆風が吹いています。また、血液代替物学会ではテルモ研究開発センターの研究者が、臨床試験の実施に向けて検討を続けているものの、開始するにはまだ課題が多く残っていることを紹介していました。献血に変わる輸血用赤血球を作り出す方法としては、iPS細胞も注目されています。生産効率に課題があるようですが、iPS細胞から赤血球を誘導する手法は確立されています。赤血球は核を持たないのでがん化のリスクも低く、ヘモグロビンを利用した人工赤血球に代わる代替血液候補になる可能性はあります。
 
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/5183/ 
 
 それでもヘモグロビンを用いた人工赤血球の研究には意義があると思います。研究の結果、ヘモグロビンは単に酸素を運搬するだけでなく、さまざまなガスの運搬体として臨床で利用できる可能性も示されています。もちろん、安全性については慎重に検討されるべきですが、研究の芽を摘んでしまうと、将来の可能性も否定することになりかねません。オキシジェニクスというベンチャー企業は残念ながら事業化に失敗しましたが、人工赤血球の可能性が否定されたわけではないのです。
 
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                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
 
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