水曜を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 少し前に、静岡県富士市に本社を置く高木産業というものづくり企業が、再生医療用の細胞培養装置を発売するというニュースを書きました。この装置は、細胞培養時に周期的な圧力をかけることで増殖を速めるとともに、細胞塊の内部まで酸素や栄養を供給して中心壊死が起こらないようにしようというものです。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/6922/
 この取材をした時に、思いがけない人とお会いしました。Harvard Medical School付属のBrigham and Women’s Hospital(BWH)で助教授をしている水野秀一さんという、高木産業の細胞培養装置のコンセプトを発案し、共同開発した人です。
 思いがけないと言ったのは、数年前に一度、私の書いたメールマガジンの記事に対してメールをいただき、何度かやり取りしたことを覚えていたからです。いただいたメールは、1970年代半ばの日経サイエンスの記事に関するものです。当時、富士市に住む高校生だった水野さんは、日経ホールで開かれた慶応大学の渡辺格教授の講演を聞いて感銘を受け、「ライフサイエンスに不安を覚えつつもその偉大さを感じている。ライフサイエンス研究にかかわって行きたい」とする旨を日経サイエンスの「れたあず」という欄に投稿し、74年11月号に掲載されました。すると、その3号後の「れたあず」欄に渡辺教授が、「水野さんへのお答え」と題して、1ページにわたるメッセージを掲載。「このときのやり取りを励みにして、米国で医療機器の研究開発に取り組んでいる」というのが、私が水野さんからいただいたメールの内容でした。
 添付されていた日経サイエンスの「れたあず」の記事が、高校生が書いたものとは思えないぐらい非常に真摯でハイレベルな内容だったのと、渡辺教授のメッセージが忘れられずに頑張っているという話が印象に残っていたので、水野さんにお会いしてメールでやり取りしたことをすぐに思い出しました。その水野さんが開発に取り組んできた装置が発売されること、また、その装置を使って製造した再生医療製品(自家培養軟骨)が、米国で間もなくフェーズIIIを始められる段階にあることをお聞きし、感動しました。高校時代から貫いてきた思いが、いよいよ結実しようとしているというわけです。
 加えてもう一つ関心したのは、水野さんが「圧力をかけながら細胞を培養する」というアイデアを製品化するため、医療機器メーカーなど10社近くに声をかけたけれど誰も乗ってこず、出身地にある高木産業の門をたたいたところ、会長が「こういう分野で役に立ちたいと思っていた」といって共同開発が始まったということです。それが今から10年前の話です。
 高木産業は、ガス給湯機器などの住宅設備機器のほか、電子制御機器、産業用機器などを製造するメーカーで、医療機器では浴室内で使用するジェットマッサージなどを製造しているそうですが、高度な医療機器を製造した経験はありません。今回、発売する細胞培養装置は研究用ですが、米国ではこの装置で製造した培養軟骨で治験を行っているわけですから、医療機器としての承認を受けられるレベルの製品であるはずです。また、米国ではHistogenics社というベンチャーを設立して自家培養軟骨の開発を進めていますが、日本では高木産業自身がパートナーを探して、開発に乗り出すことを検討しているといいます。
 人との出会いは大切なもので、水野さんは渡辺教授と出会ってライフサイエンス研究の道に進み、高木産業の会長と出会って考案した装置を製品化することができました。高木産業としても、細胞培養装置や再生医療事業で成功するかどうかはまだ分かりませんが、少なくとも水野さんとの出会いが医療事業に参入するきっかけになったのは確かでしょう。私も今回、水野さんにお会いして、夢を追い続けることの大切さを再認識させられた次第です。
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
 
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Times世界の大学ランキング2008年版、バイオ分野トップ100に日本は3大学、東大がアジアトップ奪還も世界トップ米Harvard大学との差は広がる
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/6718/
Times世界の大学ランキング2008年版、慶應は214位、筑波、広島、千葉も300位ランクイン
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/6717/
続報、Times世界の大学ランキング2008年版、トップ200に日本は10校、東工大が大躍進、慶應義塾が外れる
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                           BTJ編集長 河田孝雄