先週、岡山市で開催された日本化学療法学会総会に取材に行ってきました。「抗菌化学療法の国際標準化の取り組み」と、「アジアを中心とした共同治験への取り組み」という2つのシンポジウムを主に取材し、今後、日経バイオテク・オンラインに記事を書く予定ですが、非常にいろいろなことを考えさせられたのでここに少し紹介しておきます。
 まず、共同治験の方の話ですが、中国、韓国、台湾、香港などの治験基盤を利用した、いわゆるアジアンスタディが急増してきているという日本製薬工業協会の調査結果が紹介され、驚きました。アジアンスタディーで実施されている治験は、疾患別では、がん、循環器、代謝性疾患が多く、試験としてはフェーズIIIが多いものの、用量設定試験やPOC試験も一部では行われているということでした。
 製薬企業の立場に立てば、コストとスピードに課題のある日本で全症例を集めるよりも、アジア各国での国際共同治験にした方が合理的なのは明らかです。韓国や台湾、中国では治験施設を国が認定しているとのことで、医薬品開発受託機関(CRO)が進出していることも含めて、高い質の治験を実施する体制は、既にできています。
 
 それでもこれだけアジアンスタディが急増しているのは、何よりも規制当局が国際共同治験を推進するスタンスを取っているからでしょう。今年4月には、医薬品医療機器総合機構(PMDA)などの主催で、中国、韓国などの規制当局者を集めた東アジアレギュラトリーシンポジウムが開催されるなど、規制サイドの取り組みも進んでいます。
 
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/2054/
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/2016/
 
 国際共同治験は、単に製薬企業にメリットがあるだけではありません。米食品医薬品局(FDA)が承認したら無条件に承認している国ではあまり違いはないのかもしれませんが、日本のように独自の承認制度を設けている国では、国際共同治験に参加することで、国民がより早く新しい医薬品にアクセスできるようになるからです。
 ただ、国際共同治験を進める中では、幾つかの課題があります。大きいところでは民族差の問題がありますが、これは各国の規制当局がリードして研究を進め、ゆくゆくはガイドラインなどを設けていかなければならないでしょう。臨床試験での主要評価項目や評価基準などの考え方が異なるという点は、各国の規制当局だけでなく、学会も一緒になってすり合わせていかなければならない課題です。各国で承認されている医薬品が異なるため、対照薬が手に入らない場合があることも指摘されていました。
 
 特に化学療法学会では抗菌薬のことが議論されていましたが、日本では他国に比べて抗菌薬の用量が少ないケースが少なからずあります。また、診断方法や保険制度など、医療全体が国によってまちまちなのが現状です。その状況で、新しい薬だけ世界同時に開発・販売しようというのはなかなか難題です。こうした点は、抗菌化学療法の国際標準化というシンポジウムで議論されていましたが、ガイドラインの整備など、国際標準化に向けた流れはあるように理解しました。
 
 そうなっていった場合に、果たして各国に医薬品の審査当局があるのが効率的なのかという疑問も生じます。アジアでも欧州医薬品審査庁(EMEA)のような中央審査組織を作ったほうがいいというアイデアをどなたかから聞いたことがありますが、アジアンスタディーが普及すればそうしたアイデアも現実味を帯びてきます。その先には、「FDA、EMEA、アジアで別の審査機関を設けるのは効率的ではない」という意見も聞こえてきそうです。シンポジウムでPMDAの方が、「国際標準化とは単なるコピーではない。異動を踏まえて日本人に適切な抗菌化学療法を行うことが適切だ」と指摘していましたが、日本の審査機関では日本人の遺伝的背景や日本という国の環境に基づく部分をクローズアップして評価し、それ以外は世界で1つの審査機関が評価するというのが新しい医薬品を効率よく患者に届ける上ではいいのではないかと考えました。
 
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
 
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                           BTJ編集長 河田孝雄