英GlaxoSmithKline社は2008年5月19日に、H5N1型インフルエンザウイルスとアジュバントを利用したプレパンデミックワクチン「Prepandrix」が欧州委員会から市販許可を受けたと発表しました。欧州でプレパンデミックワクチンの承認を受けたのは初めてとなります。
 
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/3150/ 
 同社のH5N1インフルエンザワクチンはGSK社独自のアジュバントを利用ていて、交差免疫性を有するのが特徴です。抗原にはベトナム株を使っていますが、インドネシア株や中国株、トルコ株に対しても7割以上の被験者で中和抗体の増加が確認されています。動物での感染試験では、通常のインフルエンザワクチンよりも少ない抗原量(通常は15μgのところ、4分の1の3.8μgの2回接種)で交差免疫性が確認され、死亡を防いだということです。
 
 欧米で承認されたH5N1インフルエンザワクチンは、これで2つ目です。フランスのsanofi pasteur社のワクチンが07年4月に米食品医薬品局(FDA)の承認を受けています。承認を受けた際の臨床試験では、90μgの2回接種を行っていますが、その後、sanofi pasteur社は新規アジュバントを用いた臨床試験を行い、1.9μgの接種で70%の被験者に免疫応答が得られ、また、交差免疫性も確認できたと発表しています。アジュバントの採用によって交差免疫性を得ると同時に、必要な抗原の量を減らし、より多くの人がワクチン接種を受けられるようにしようというのが世界の趨勢です。
 
 一方、日本では既に阪大微生物病研究会と北里研究所のH5N1インフルエンザワクチンが承認され、開発が遅れていた化学及血清療法研究所も4月に承認申請を提出しています。いずれも水酸化アルミをアジュバントに利用していますが、抗原量15μgの2回接種で承認されています。また、これらのワクチンの原液が国家備蓄されていますが、2000万人分のみです。日本のワクチンメーカーの生産能力や、原料となる鶏卵の調達力にも限りがあり、H5N1ワクチンを国民全体に行き渡るまで確保するには何年かかるのか分からないのが原状です。
 
 このため、海外で生産されたワクチンを輸入して備蓄してはどうかという意見があります。昨日の日経新聞にも、GSK社と米Baxter社が自社開発したプレパンデミックの申請に向けて、厚生労働省と協議に入ったと報じられていました。
 
 この報道の「申請に向けた協議」という表現が何を指しているのか不確かなので、両社に確認したところ以下のような話でした。グラクソ・スミスクラインは、「H5N1ワクチンの日本への輸入について政府と交渉している(これは以前から、明らかにしていました)けれど、申請はしていない」とのこと。また、申請の前提となる治験についても「国内ではまだ実施していない」とのこと。バクスターは「当局に対して、『協力できる』といった話はしているが、具体的な協議などは行っていない」とのこと。一方の厚労省も、「国内で足りなければ海外から持ってくるという選択肢はあるとは認識しているが、まだこれから検討しましょうという話」といった状況でした。しかしながら、国内のワクチンメーカーが十分量を供給できないのであれば、いずれ海外からの輸入が必要になるでしょう。いつまでも鎖国と言っているわけにはいかないのは明らかです。
 
 ただし、輸入ワクチンで全国民をカバーしてしまえば事足りるかというと、そんな簡単な話でもありません。まず、流行前に接種したプレパンデミックワクチンなら輸入は可能ですが、実際にパンデミックが発生すれば、航空機の運行自粛も必要といった議論がある中で、実際の流行株を用いて生産されたワクチンを輸入できるのかは疑問です。そうなると、やはり、実際のパンデミックが発生した時に、国内でパンデミックワクチンを生産できる体制は確保しておく必要があるでしょう。国内メーカーのワクチン生産能力に限界があるというのなら、アジュバントを利用して1人当たりのワクチン摂取量を減らし、より多くの人に供給できるようにする手もあります。そのためには新しいアジュバントの研究開発に取り組む必要もありますが、欧米企業からアジュバントのみを購入するという方法もありそうです。
 
 いずれにせよ、欧米でもH5N1インフルエンザワクチンが承認される中では、国産だけにこだわらず、必要とあれば欧米の技術も導入しながら対策を講じていくことが何よりも重要だと思います。
 
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
 
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ホタルの発光量子収率を50年ぶりに再評価するとともに
“カローラ”サイエンスで研究自立へ
生物発光で細胞を長期計測できる汎用技術の開発で成果を挙げている
近江谷克裕・北大医教授・AIST研究グループ長が
BTJジャーナル08年4月号に登場
 
「BTJジャーナル」のダウンロードはこちらから
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/
 
「BTJアカデミック」はこちらから
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/senmonn/btj_aca.jsp 
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 暗箱で光を計測する装置と、細胞内で安定な明るいルシフェラーゼを実用化、1個の哺乳類細胞から発する生物発光を数十時間、観測する技術を実現──。この汎用技術を開発した近江谷克裕・北海道大学大学院医学研究科教授・AISTセルエンジニアリング研究部門研究グループ長に、「BTJジャーナル」08年4月号に登場していただきました。
 
 近江谷教授は、ホタルの発光量子収率を再評価し、50年の誤解を正す共著論文を昨年末に発表したり、ニュージーランドを10回訪れるなど世界中で発光生物の探索を行うなど、アカデミアの研究活動を活発に行っている一方で、特許ライセンスで研究費を確保して研究者として自立する目標の実現にも着々と前進なさってます。特許収入に応じて研究費を配分するというAISTの制度を活用することにより、競争的資金などの獲得に頼らなくても、若手研究者と共に自由に研究を行える環境を確保したいと邁進しています。
 
 「BTJジャーナル」は、バイオ研究者のキャリアアップ/スキルアップにお役立ていただきたい月刊のPDFマガジンです。08年4月号は「光イメージング」を特集リポート。この4月に光イメージングセンターを立ち上げた北海道大学の近江谷克裕教授と金城政孝教授に研究の最前線を聞きました。生物発光や蛍光を駆使したin vivo・生物個体のイメージング技術は機能解析に不可欠。と共に若手研究者が挑むのに魅力的な分野といえそうです。
 
※BTJアカデミック記事
北大医学部に光イメージングセンター発足、
5カ年計画で初年度予算は約1億4000万円
http://biotech.nikkeibp.co.jp/senmonn/btj_aca.jsp?a1=1&jreq=btjnews&id=20052392 
 
 詳しくは、「BTJジャーナル」08年4月号P.5-9の記事をご覧ください。
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「BTJジャーナル」08年4月号(第28号)の目次を紹介します。
 
2 連載「大学は今」第4回
iPSの世界競争に打ち勝つ
山中伸弥・京大教授

5 特集リポート
光イメージング
近江谷克裕・北大教授
金城政孝・北大教授

10 海外現地リポート
米Anaheimトレードショー

15 連載「いいともバイオインフォマティスト」第2回
中尾光輝・かずさDNA研究所特別研究員

17 BTJアカデミック・ランキング

18 専門情報サイト「FoodScience」

20 連載「サイコムキャリアプロジェクト」第3回
相手をよく知るには?

24 連載「遺伝統計学へようこそ!」第14回
質的形質と量的形質

36 広告索引

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                           BTJ編集長 河田孝雄