先週土曜日に、万有製薬の主催で開催された「地域における予防医療を考える会」というものを取材してきました。万有が販売しているニューモバックスという肺炎球菌ワクチンについて、医師向けに普及を図るというのが会の趣旨でした。
 ニューモバックスは1988年に輸入承認されたワクチンで、23種類の肺炎球菌の莢膜多糖体を抗原として含んでいます。このワクチンは、免疫系が未熟な乳幼児に対しては十分な免疫を誘導することができないため、国内でも海外でも専ら高齢者用ワクチンとして利用されています。
 
 ただし、その普及の度合いというと、「米国では65歳以上の高齢者の70%といわれているのに対して、日本では全国平均で4%」と紹介されていました。日本で普及が進まない背景には、医師も含めて高齢者向けの肺炎球菌のことがよく知られていないのに加えて、予防接種法の任意接種に当たるために費用が自己負担であるということが挙げられると考えられています。そこで、市町村に公費助成を求める活動が、医師や市町村議会の議員などを巻き込んで行われるようになっています。土曜日の会合は、その先駆的な取り組みをした人たちが肺炎球菌ワクチン接種への公費助成の普及に向けた取り組みを紹介し、その課題を議論しあうという趣旨のものでした。
 
 実際、北海道のせたな町から草の根的に始まった市町村による公費助成の取り組みは、非常に効果的なようです。公費助成を行っている市区町村は08年5月現在72に上り、全国平均の接種率は先ほど述べたように4%程度に過ぎませんが、肺炎球菌ワクチンの年間使用量は2000年までは1000バイアルから5000倍ある程度だったのが、2001年に約2万バイアル、02年には10万バイアルを超え、07年には27万バイアルにも達しました。
 
 せたな町での公費助成の実施を主導された夕張医療センターの村上智彦センター長の話などを聞いて思ったのは、「金額だけの問題ではない」ということです。市町村による助成はごく一部であったり、中には「先着1000名まで」というところがあったりしますが、それでも市町村が助成することで、ワクチンの認知度は上がり、信頼性も高まるということなのでしょう。一方で、市町村によっては、「予防接種法上の定期接種でないものにあえて助成して、健康責任の被害を取らされるのは嫌だ」という反応のところもあるようです。ひねくれた見方かもしれませんが、お上の言うことを妄信し、何かあった時の責任をお上に求める国民性と、責任逃れ一辺倒の役所の意識を垣間見るようなエピソードです。
 
 少なくとも、予防接種法の任意接種であれ、肺炎球菌ワクチンが薬事承認を取得したものであることには違いありません。だからといって絶対安全ということはありませんが、「定期接種のワクチンではないけれど、こういう試験を経て承認されており、リスクはあるが一定の安全性は確認されている」といったことをせめて、行政の担当者は説明し、国民に理解を求めるべきことではないでしょうか。
 
 いずれにせよ、「費用負担の問題ではない」というのが、私が会合を取材して得た印象です。もちろん公費助成があった方が普及に弾みが付くのは確かでしょうが、公費助成などなくても、その有用性を認識した医師などが高齢者が理解するよう説明すれば、接種してみようという人は増えるはずです。
 
 ある高齢者施設から参加されていた医師は、「高齢者施設の一番の問題は誤嚥性肺炎。これで寝たきりになると経営にダメージが大きいので、インフルエンザウイルスと肺炎球菌のワクチンを、施設が半分の費用を負担して打っている。これで誤嚥性肺炎の問題を見事に効果できると分かったら、必ずしも公費助成がなくても『やってください』と言う人がたくさん出てきて、今はほぼルーチンで接種している」と話していました。要するにその安全性と有用性について誰かがきちんと説明し、費用対効果があると判断できれば接種しようという気になる人はいるわけです。
 肺炎球菌ワクチンについては、日本では再接種が認められていないと言う問題もあります。5年間は有効と考えられていますが、一度しか接種できないとなると、いつ接種するかは難しいところです。しかし、米国では65歳前に接種した人が5年経過すれば再接種できるそうで、松本慶蔵長崎大学名誉教授ら、国内の専門家の意見も「再接種をしても構わないのではないか」という考えのようでした。20年前に承認されたときの条件も、その後の使用実績などに照らして、柔軟に変更していかなければならないのではないかと感じました。
 
 これは土曜日の会合の話とは異なりますが、日本だけ予防接種は皮下接種しか認められていないことについても、臨床医の間からは疑問の声を聞きます。古い時代に決まった規制は、世界の趨勢などに照らして柔軟に見直していくことが必要だと思います。
 
 ただし、現在承認されている万有製薬のニューモバックスは、莢膜多糖体ワクチンであるため、肺炎球菌感染症の感染予防という点では十分なエビデンスがないのが実情です。このため、会合に参加されていた先生方も、「重症化を防ぐのは間違いない」と、ちょっと微妙な言い方をしていました。
 
 やはり、メーカーはしっかりしたエビデンスをつくり、それを武器に安全性、有効性をきっちりアピールして認知を得ていくことが何よりも必要なことではないかと。それがしっかりできていれば、費用負担の議論は後からおのずと付いてくると考えるのは甘いでしょうか。
 
 ちなみに、土曜日の会合を取材して驚いたのは、北海道から九州まで、非常に幅広い地域の医師や議員らが参加していたことです。高齢者ワクチンは地域の高齢者ケアの問題と密接に結び付いていることを改めて認識させられました。
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
 
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5 特集リポート
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近江谷克裕・北大教授
金城政孝・北大教授

10 海外現地リポート
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15 連載「いいともバイオインフォマティスト」第2回
中尾光輝・かずさDNA研究所特別研究員

17 BTJアカデミック・ランキング

18 専門情報サイト「FoodScience」

20 連載「サイコムキャリアプロジェクト」第3回
相手をよく知るには?

24 連載「遺伝統計学へようこそ!」第14回
質的形質と量的形質

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